吉田豪インタビュー企画:北条かや「コンプレックスがあるので勘違いブスがうらやましい」 (2) (2/3ページ)
■大学生活は幸せだったけど就職して泣いた
──北条さんの不様な話は鉄板ですよ!
北条 自分としては幼少期からの記憶をただ書いただけっていうのがあったので、途中ですごくつまらない話だと思って心配になって。編集さんに「この原稿、全然おもしろい気がしないんですけど……」みたいな相談を何度もしたんですよね。自分では、ごくごく普通の話だと思ったんです。それを出版して読んでいただいたら「おもしろい」って言われたので、驚いています。
──ボクのツボは確実にそっちなので、今日はそういう話を聞きに来ました。
北条 ありがとうございます(笑)。ホントに不様なんですよね。
──その不様さが大学に入って社会学を学んだぐらいからリカバリーできてきたわけですか?
北条 大学生の頃ってクラスがないので、ちょっとくらい不様でも排除されたりとか、女性から悪口を言われて傷つくっていうこともほぼないんですね。自分はひとつの大学しか行ってないのでほかの大学はどうかわからないですけど。
──ある程度、頭がいいとされるような大学だと、みんな同じような目的を持ってる人たちがいるからややこしいことがないって感じのことを書いてましたよね。
北条 クラスがつらかったらサークルで同じ趣味を持つ仲間とギターを弾いたりとか、ウチはピアノのサークルに入っていたので、生きづらさはそこまで感じなかったです。少なくとも対人関係に起因する悩みではなくなってくるんですよね。ダイエットとか美容とか恋人とか、そういう問題で傷ついたりはありますけど、クラスのベタベタした人間関係でみじめな思いはしなかったです。
──たぶん北条さんの人生で一番安定してたのが大学時代だったと思うんですよ。
北条 そうですそうです。大学、大学院の6年間はもう「楽しかったです」っていう感じで。
──それが就職すると、なぜ自分はこんなに失敗ばかりするのか、みたいなことになってきて。
北条 そうですね、もうちょっと失敗のエピソードを具体的に書けばよかったかなと思ってます。服がダサかったっていうのもそうですけど。お手洗いから出てきたときに服のうしろがめくれ上がってお尻が丸出しになってたんですよね。それをパートの女性たちに「かやさん! うしろうしろ!」って言われてすごい恥ずかしいまま1日を終えて、それ以来パートの女性たちの目を見て話せなくなったり、トイレで泣いてたら自動で電気が消えて、「あ、私はトイレの電気からも見放されるんだな」とか。
■会社のトイレで泣いて階段で吐いて
──失敗しすぎてトイレで泣いてたんですね。
北条 泣くと「泣いてたなあいつ」ってなるし、トイレ休憩が長いと「化粧してるんじゃないか?」って言われるんじゃないかと思って、適度に泣いて。会社員としてはホントに不適合で、摂食障害のチューイングも会社でやってたんですよ。会社の屋上につながる階段があるんですけど、そこでお昼休みに午前中のストレスを食べもので全部解消するみたいな感じで、噛んで出して。ただ、最上階からときどき会社の偉い人が降りてきて、偉い人にゲロを吐いてるとこを見られて。「何してるんですか?」って聞かれて、「ゲロ出してます」って言えないじゃないですか。
──「見りゃわかるじゃないですか、ゲロですよ」とは言えないです(笑)。
北条 変な話、チューイングって食べものを口から出すだけだから、胃酸のにおいがないので臭くないんですよ。臭くないからいいだろうという変な論理で安定してて。でも、それを見られてサッと隠したりしてたら、立入禁止の紙が貼られて、居場所を奪われたとか思っちゃって。
──ゲロもおちおち吐けなくなって。
北条 そうなんですよ。それからは公園に行ったりしてやってましたね。誰にも見られないように。
──摂食障害だとか薬とかは、もう10年ぐらい続いてるんですか?
北条 治まるときもあればひどくなることもあって、いまは落ち着いてます。寛解です。摂食障害にもいろんな病態がありますよね、過食嘔吐にいく人もいれば、拒食でまったく食べないとか下剤乱用とかいろんなパターンがあるんですけど、過食嘔吐以外は全部やったなと思います。
──全部やった!
北条 嘔吐だけはどうしてもできないんですよ、体質なのかわからないんですけど。だから友人が過食嘔吐をやってると知って、なんかいいなと思ってて。
──いいなと思ってた(笑)。
【ここから北条さんのナチュナルな空気の読めなさで家族とも大変なトラブルになった話になって、すごい北条さんらしいエピソードだったんですけど、これ以上関係をややこしくしてもアレなので大幅に削除】
──北条さんはそういうところがおもしろいんですけどね(笑)。
北条 ホントに困りました……。
■“都落ち”でコンプレックスを抱えた
──とことん人間関係を作るのがヘタな人なんだと思いますよ。
北条 そうですね。薬つけても治らないっていうか、薬は飲みすぎた反省があるので、もう頼らないと決めてるんですよ。
──本人は無意識だけど、それがいろんな人の怒りのスイッチを入れやすいのは間違いないと思うんですよね。
北条 ……そうですか?
──でも、本人はなんで怒られているのか気づいてないっていう。
北条 私、Raphaelってバンドの華月が好きで、華月は「人の悪口を言っちゃダメだ」ってタイプの人だったので、今も悪口は言わないんです。
──ヴィジュアル系にハマッてた時期があるんですよね。
北条 そうです。その華月の教えをずっといままで守ってるわけですよ。だから人の悪口は言わないんですけど、悪口と取られる状況もあるんだなっていうのがこの1年でよくわかりました。
──無意識の発言が多いんでしょうね。
北条 無意識の発言も悪口になることがあるんだな、難しいなというか……。
──その無意識さに興味があるんですよ。あと、コンプレックスは相当多い人ですよね。
北条 多いですね。まず子供の頃に「都落ち」したのがコンプレックスになってるというエピソードは、両親から見ると驚きだったみたいで。
──石川県の都心部から田舎のほうに。
北条 東京の方だと、東京に住んでたのが栃木あたりに引っ越したみたいなイメージですかね。
──でも、同じ県内なんですよね。
北条 そうですそうです。県内でも、子供ひとりでは行けない距離の田舎に引っ越してしまったのがショックだったんです。そこからコンプレックスが生まれて。
──同じ県のなかで引っ越しただけなのに、なんでそんなに田舎Disしてるんだって思いがあるんですけどね。「え? そもそも同じ県でしょ?」っていう。
北条 豪さんはずっと東京ですか?
──東京ですけど都心のほうではないです。
北条 東京の方ってそういうのはないんですか? 「うわ、こんなエリアに引っ越してきちゃったよ」みたいなことは。
──世田谷の人が江戸川の人を見下すとかはあるでしょうけどね。
北条 世田谷の人が転勤で江戸川区に引っ越すとかになって、そこに小学生くらいの子がいたらコンプレックスになるんですかね。
──その空気はなんとなくわかるんですけど、石川県のなかでの出来事だとまったく伝わらないんですよ。
北条 そうか……石川県の人に読んでほしいですね、わかってくれると思います! 金沢以外はホントに田んぼなので。毛虫が多いのがホントに嫌で、もうダメでした。