生きた大腸菌のDNAに動画を記録し、読み込むことに成功(米研究)

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生きた大腸菌のDNAに動画を記録し、読み込むことに成功(米研究)
生きた大腸菌のDNAに動画を記録し、読み込むことに成功(米研究)

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 大腸菌は人を病気にすることがあるが、科学の世界では大いに貢献している。DNAについて教えてくれたり、薬や燃料分子の素材を作ってくれたりするからだ。

 今回、大腸菌に与えられた役割はデジタルデータを保存することだ。

 『Nature』に掲載されたレポートによると、米ハーバード大学の研究者は、生きた大腸菌のDNAに画像や動画を保存しておけることを実証したという。

・DNAにデータを保存するという研究
 デジタルデータをより効率的に保存する方法については昔から研究されてきた。その手段としてDNAを利用するというアイデアは1990年代中頃に提唱された。

 DNAとは結局のところATGCという4文字で象徴された化学物質のコードに過ぎず、ごく狭い空間に大量の情報を蓄えておくうえで便利だ。

 これが盛り上がり出したのはここ5年のことだ。2012年には合成DNAに本をコード化することに成功。さらに200メガバイトのデータを保存することにも成功した。

 マイクロソフト社ですらDNA上へのデータの保存を試みてきた。だが、生きている生物にデータを保存した事例はこれまでなかった。

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・大腸菌の生体DNAに動画を記録することに成功
 セス・シップマン(Seth Shipman)氏らは、CRISPRという遺伝子編集技術を応用してデータ保存を行なった。

 保存された動画は、エドワード・マイブリッジが世界で初めて録画したギャロップする馬の映像を36x26ピクセルのGIFにしたものだ。これをDNAシーケンシング技術で読み込んだところ、90パーセントの精度で再現することができた。

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 画質は荒くなるが拡大すると以下のようになる。

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・生きた細菌にデータを保存するという感覚に耐えられるか?
 ところで、これが実現できたとして、誰が生きた細菌にデータを保存したいなどと思うのだろうか?

 冷蔵庫に並んだペトリ皿に家族の思い出が詰まっている場面を想像できるだろうか? 「お母さん、卒業式のアルバムどこ?」「ケチャップの後ろにある大腸菌よ!」こんなやりとりが交わされるのである。まあ、その嫌悪感の払しょく方法はきっと誰かが考えてくれるだろう。

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・細菌に未知の情報を記録させるという展望
 だが、シップマン氏はさらに上を行く考えを持っている。

 彼の狙いは、細胞の生物活動を記録することだ。今のところ、DNAに保存されるデータは既知の情報であるが、将来的には未知の情報を書き込みたいと考えているのだ。

 細胞のごく最初の発達時期についてはあまり分かっていない。人間は設計図となる幹細胞という1つのボールから発達する。これが脳細胞やそれぞれの内臓に特化した細胞、あるいは血液細胞など、あらゆる細胞に変わる。

 しかし、その発達のタイミングは定かではない。そこで、細胞の活動記録をDNAに残そうというのだ。

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・大腸菌の持つ優れたファイリングシステム
 

 その手始めとして、まずこの手法を電気データで実験する必要があった。動画を選んだのは、経時的にいくつもの出来事を記録できると実証するためだ。

 多くの細菌と同じく、大腸菌にも優れた内部ファイリングシステムがある。動画を上演するのはCRISPRというゲノムの反復クラスターセクションだ。

 CRISPRの役割は、ウイルス性の侵入者が持つDNAの断片を掴み、それを自身のゲノムのCRISPRセクションにファイルし、侵入者の記録を作り上げることである。

 シップマン氏の研究チームは、デジタル情報をウイルスのそれのように見せることができれば、大腸菌のCRISPRを騙してファイルさせることができるのではないかと考えた。

 

 通常この技術は遺伝子を編集するために利用される。ゲノムのCRISPRセクション付近はCasという、DNA鎖を切る役割を持つ酵素ファミリーのコードを持つ遺伝子だ。

 この機能のためにCas酵素、特にCas9は遺伝子編集のための道具となった。これを生物のゲノムの任意の場所へ導いてくれるコードに取り付ける。するとそこをカットする、すなわち編集してくれるのだ。

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 シップマン氏の研究チームは、Cas酵素を送る代わりに、 CRISPRシステムに通常通り振舞わせた。ウイルスのDNAを掴み、それを自身のCRISPRセクションに持ち帰ってくるメカニズムのことだ。

 

 そして画像や動画をウイルスの断片のような感じの短いDNAセグメントに変換し、フレーム毎に大腸菌に導入した。

 大腸菌のCRISPRはまんまと騙され、断片を掴んでは、受け取った順番でファイリングした。大腸菌はウイルスのコードの代わりに、動画や画像のコードを保存したのである。

 アメリカでは大腸菌による集団食中毒が年に3回は発生している。そいつらを欺いて人間の思い通りに動かそうとする今回の試みは成功したようだが、細菌の進化の速度は速い。それに気が付いて細菌が新たな挙動を見せはじめるという未来もないわけではない。

 そうなると人間と細菌の騙しあいってことになるのか。ちょっとしたSF小説が書けそうな気分になってきたぞ。


via:naturethevergesmithsonianmagなど/ translated by hiroching / edited by parumo



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