高齢化するアイドル王国ジャニーズ”中年ジュニア”の出処進退|平本淳也のジャニーズ社会学
学生の夏休みも後半になってきたが、芸能界では特番やイベントなどこの期間はサービス業ならではの繁忙期である。全国を回るコンサートツアーなら打ってつけの期間が夏休みで、ジュニアだった当時を思えばレッスンから振付、そしてステージの本番があり、他のイベントやテレビにも出たりと中高生時代の夏休みはジャニーズ一色だったと懐かしいが、少し前、あるジュニアの親から「うちの子60万円も稼いで来たのよ」と驚いた表情で話していたが、それを聞いた僕はもっと驚いた。
ジュニアでそんなにもらえるの? マジで!? 昔と違って報酬にケチらず単価も上がっていることからジャニーズの環境が良くなっていることは知っていたが、下っ端のジュニアでもそんなに稼げていることは驚きだった。詳細はともかく1ステージ数万円×回数だったり、ミュージカルや舞台だったら期間報酬もあるし数字的には納得できるが、その払いっぷりが昔と比べて歴然と違う。
ジュニアならギャラなんかもらえなくても仕事は有難く従事するし、アゴアシ(食事と交通費)が出るだけでも感謝の気持ちだったが、父親より稼ぐ”名もなきジュニア”が多く存在しているのは今に始まったことでないにせよ、しかし60万円というのは中学生が稼ぐ金額ではない。
ジュニアと言っても今は年齢幅が広い。小学生から”中年”まで音源デビューしていないジャニーズのタレントたちの総称が「ジュニア」と呼ばれるが、それだけで食べていけるほど甘くはないのが芸能界だ。天下のジャニーズといえども、ジュニアのみんなに安定的な仕事を継続して与えることは難しい。中には突出して数十万円を短期間で稼げる子もいるが、一方では「もう辞めようと」思いつつ悩んで生きている子もたくさんいる。
僕はそんな相談には「いられるだけいろ」とジャニーズに留まるよう応援するが、20代ならまだしも30代、40代でジュニアもいるこの時代、それ以前に「食えない」と思い悩み、なにより将来が不安で仕方ないというジュニアが大半だ。30代にもなってバイトしながらアイドルを続けるのは辛い。しかもジャニーズ所属で名も知られていると、バイトをはながらアイドル活動というのも難しい。アイドルを名乗るのも恥ずかしい。
■ジャニーズジュニアが40歳、50歳まで夢を追い続けるのは間違い?
演劇の世界では中年になっても定職に就かず、チケットノルマに追われながらバイトで生計をたてようとする俳優が非常に多くいる。みんな好きなことを続けて何が悪いのかと正当化する。決して悪いことではないが、人生それで良いのか? と聞けば「良くない」と答える。つまり上を目指して俳優として生きていける目標があるので、このままではアウトだが、その先には希望があるという。
それはそれで一見、素敵な感じもするのだが、40歳、50歳にもなってそれでいいいのかしら。バイトしていても体力的に厳しいだろう。働くことはよしとしても出世や収入面、老後の事や伴侶まで考えたら決して良い選択ではないはずだが、ときに夢や希望は人生を狂わしてしまう。
根本的に芸能界を目指すこと自体、頭か性格か精神的か、どこかがオカシイ。一般的な例で言えば、学校行って就職して、結婚や出産で家族を持ち、家を買ったり旅行したりと手に届きそうな目標と幸せを望んで、その当たり前を一生懸命に生きるだろう。どこでどう間違って芸能界に興味を持って齧ってしまったのか、人生の大失敗に至っても気がつかないし認めない。
夢を追いかけている間は決して認めないのだ。好きなことを続けていける自分に酔いしれるとでも言おうか、世間一般からしてそれは妥当ではなく、親や兄弟からしたら迷惑な話でもあるし、そういう相談も結構来るのでよくわかる。確かに先のことはわからないが、諦めも肝心だし、人生には岐路もあれば、そこに変化や進展が伴って環境を形成していくはずが、10代のころから40年経っても同じ夢を見続けていく姿は悲惨でしかない。
他人がとやかく言うことでもないが、「いつかはメジャー」という夢はほとんど叶えられた試しがない。音楽でも演劇でも同じで、この世界を目指そうとする者は数万分の一の確率でその夢を見る。
ジャニーズの中にもそういった「いつかはメジャー」な夢を持ち続ける高齢ジュニアが多い。高齢化したアイドル王国には20代後半から30代のジュニアも多く存在する。同世代でもグループやユニットも多く作られているが、念願のデビューには届かないまま年を取っていくのも辛い。しかもそこそこ人気もあって集客も出来るのに表舞台の主役にはなれないという立場は、ジャニーズと言えども悲惨だ。
だったら辞めてしまおうかと思えばそれも決断は難しい。せっかく選ばれて何年も頑張ってきたのに、グループのメンバーにもなって今更やめられない。昔なら20歳までという暗黙の辞め時があったが、その「辞め時」がわからなくなる。そこそこ有名で人気があるので「イケる」という確信もあり、また続けていなければ手にできない夢があるから自ら「はい、おしまい」にはしたくない。
前出のように稼げるジュニアもいればそうでないのもいるが、稼げても舞台やコンサートにお呼びがかかる一定期間だけで安定収入とはいえない環境だ。そうして時間ばかりが過ぎていき、不安なまま中年時代に突入する。「ひとつ違えばSMAPや嵐だったのに」と同世代の活躍を後にしてジャニーズを去っていく彼らには、人生を取り戻す事は容易ではないと気付かされる。アイドルから一般人への転身はそう簡単にはいかないからだ。
ダメなら諦めて辞める。芸能人やプロスポーツ選手を目指そうとすれば実力と共に時間との戦いもある。掲げた目標の賞味期限は自らの年齢という時間だ。ボクシングのようにプロ資格への挑戦が決められた年齢であれば分かりやすいが、野球やゴルフは挑戦し続けられるゆえ30歳前後でもプロ志願者は多く存在し、特にゴルフは中年からのデビューも少なくない。
■中高年のジャニーズジュニアが大ブレイクする可能性はあるのか?
芸能界も高齢化していることから30代の男女がブレイクするのも珍しくはなく、特にドラマなどで注目を浴びるケースは多くなってきている。そういった観点からすれば中高年でもまだまだイケる世界ではあるが、ジャニーズに限るとまずない。再ブレイクは割とあるが新規デビューから目指せるトップアイドルの地位は、中年王手の連中には限りなく厳しい。
またアイドルではなく俳優としてなら、ジャニーズのまま花開くかと思いきや、実はその俳優部門が非常に弱いのもジャニーズなのだ。福山雅治や星野源のようなアタリはジャニーズにはない。小さなころからジャニーズで活躍する生田斗真や風間俊介らの俳優陣も決して将来安泰なわけではない。ましてやまだ知られていないジュニアからブレイクするアラサーなどまず考えられない。いわゆる遅咲きジャニーズというのも限定的で高齢化している中でも20代が限度だ。
僕がいた頃のジャニーズは暗黙の了解で20歳までに何とかならなかったら辞めようというケースが多く、断続的にも仕事があれば20代半ばまでは引っ張れるものの、30歳近くなると夢より生活を重視するようになり、諦めていくというのがほとんどだった。しかし現在は、それが10歳引き上げられて、30歳までは頑張れる環境になり、また周りからも「辞めたらもったいない」と応援され、40歳手前までずるずるとジュニアを続けるようになる。
15年ほど在籍しているあるジュニアが、「一体、どうすれば良いんですかね、おれ」と悩んでいることに、僕もまた「辞めるのはもったいない」とは言うものの、「ただね、ジャニーズだって永遠ではないからね」とやはり年齢が若いということが大きな売りになり、その可能性は年々と縮小していくこと。中高年のジュニアに活躍の場はないことを説明する。近藤真彦や解散していない少年隊、光GENJIと男闘呼組の元メンバーら中年も揃っているが、音源デビューするなど多くの実績を残してきた彼らにしても、大活躍しているわけではない。現役感があるのは東山紀之くらいのもので、ほかの連中は何をしているのかまったく伝わってこない。
そんな先輩らの姿を見ていれば自分の先行きも不安になる。今までがダメだったなら、素直に諦めるべきなのだが、ジャニーズにいるとその環境が冷静な判断を狂わせる。ジュニアがジャニーズにいられなくなるのは「ジャニーさんに嫌われたとき」ということも分かっているので、それが訪れないと決断も出来ない。それでなくてもジャニー喜多川さんは、メリーさんのように「出ていけ」とは言わないのだ。静かに無視するのがジャニーさん流。それをされたら静かに去っていくのがジャニーズの流儀だが、それに気付かないとしたら、タレント以前に人間としてもどうかと思う。
著者プロフィール
ジャニーズ出身の作家
平本淳也(ひらもと・じゅんや)
ジャニーズ出身の作家で実業家。著書34冊のベストセラーを誇る売れっ子の物書きとして、テレビや雑誌など多くのメディアに記事やコメント提供。実業家としてはコンサルティング会社や芸能プロダクション、レコード会社などを運営し、タレントから起業家まで幅広い活動の支援を行っている。http://vjsv.com/