発端はちょっと恥ずかしいお話?太宰治の名作「走れメロス」の元ネタと発端とは?

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発端はちょっと恥ずかしいお話?太宰治の名作「走れメロス」の元ネタと発端とは?

太宰治の『走れメロス』は、正義を貫く青年メロス、友人セリヌンティウス、暴君ディオニスと言った人物が織り成す短編小説で、今も多くの人に爽やかな感動を与えています。しかし、その元ネタと執筆した発端は、意外なものでした。本項ではそれを紹介していきます。

古代ヨーロッパで生まれた友情の伝承が元ネタとなっていた

『走れメロス』は舞台が地中海の島であり、最後に“古伝説とシルレルの詩から”と記述されている所から、「もしかして西洋文学の翻案?」と思った人もいることと思います。その実、元ネタは西洋文学なのですが、そうなるまでには様々な紆余曲折があったのです。

この古伝説は古代ギリシャの植民地だったシラクスに実在したディオニュシオス2世と言う君主の御代に、死刑宣告を受けた秘密結社の構成員が保証人として捕まった友人を救うため、逃げずに刑場へと現れた話です。

この逸話は西欧や中東各地で語り継がれ、近世ドイツの文学者フリードリヒ=フォン=シラーすなわちシルレルによって詩文にまとめられます。このシラーによる翻案は日本にも輸入され、『真の知己』と言うタイトルで太宰が高等小学校1年の時に使った教科書に採用されました。

このお話は、名前や設定こそ所々違いますが、メロスの物語と基本的には同じであり、鈴木三重吉氏の児童書が執筆されるなど、人気のあるものでした。なお、ディオニュシオスは晩年こそ暴虐でしたが、様々な逸話を残した傑物でもあり、そこにディオニスが暴君と言われつつも彼を慕う臣民がいるモデルになっているのかも知れません。

発端は…ちょっと恥ずかしいお話だった?走れ太宰!!

『走れメロス』の元ネタは古代ギリシャから近世ドイツを経て我が国に伝わった、壮大なるストーリーでしたが、発端は“ひどく赤面し”てしまうようなものでした。

太宰が熱海に宿屋に入り浸って帰ってこないのを心配した奥さんは、夫の友人である檀一雄さんに宿賃と交通費を託し、様子を見て欲しいと頼みます。が、様々な伝説を生んだ太宰が素直に帰宅するはずがなく、檀さんを引きとめて豪遊し、奥さんからのお金も使ってしまったのです。

流石に困った太宰は、檀さんに宿賃のメドがつくまで人質になって欲しいと頼んで旅館に残し、東京の恩師・井伏鱒二氏の所へ行きます。メロスの身代わりになって人質になったセリヌンティウスを思わせるエピソードですね。
しかし、数日経っても太宰が帰らないので、井伏氏の家に檀さんが行くと、何と二人は将棋に興じているのでした。檀さんは怒りそうになりますが、
『待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね』
と言う拍子抜けする返事が太宰から帰って来ました。太宰は、先生に借金するタイミングがつかめなかったのです。

このエピソードは後に『走れメロス』が発表された時、檀さんが体験談として“その重要な心情の発展になっていはしないか”と考えたと書き残したものですが、随分と呑気なメロスもいたものですね。

作者死すとも物語は死なず!メロスの物語は今もなお走り続ける

こうしたドタバタが原因で生まれた名作『走れメロス』は太宰の死後も上梓され続け、今では児童向けの絵本や漫画、アニメ映画など様々な媒体で世に流布しています。大塚食品のCMに起用されたり、AKB48の歌にも元ネタとして採用されたりと、その躍進はとどまることを知らないかのようです。

また、メロスの友人であるセリヌンティウスを主体にした『走れセリヌンティウス』など、コミカルなパロディ漫画もあれば、メロスの走った距離を学生が研究したりと、多方面から捉えた創作・学術研究は数え切れません。

前述したようにモデルが歴史上の人物であり、『もう一方の主役』『裏切りの被害者』と言う見方も出来るディオニス国王の描き方も様々です。アニメ映画では非情な悪人ですが、児童書や漫画などでは改心する場面を『穏やかな表情で負けを認める』『二人の手をとって涙を流す』など、王様にも感情移入しやすく描いた作品が多くあります。

『走れメロス』自体は短編小説ですが、このようにして成立背景は膨大なデータと時間の積み重ねであり、その結果として今もなお多くの人の心をつかんで離さない不朽の名作として活躍し続けています。その名作を作り上げたことこそ、太宰治が遺した大きな功績のひとつと言えるのかもしれませんね。

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