古い墓地が日本国内の希少な草原植物とその生態系を守っているという話

心に残る家族葬

古い墓地が日本国内の希少な草原植物とその生態系を守っているという話

ビオトープ(biotop またはbiotope)とは、ドイツ語で「生き物の生息地」という意味だ。復元のために創設する場所というわけでは必ずしもないのだが、日本では自然を失った都市に生き物のための場所を復元するという意味合いが強い。各地で進められている学校ビオトープ整備事業はその一例である。学校ビオトープは児童が自然に親しみ、授業で活用するために整備するのだが、その結果、様々な植物が生え、鳥などが利用するようになり、地域の自然環境を良くする役割を担うという意味で意義がある。

■ビオトープとは

ビオトープで、重要な2つの要素がある。1つは、在来生物を保全し、外来種を入れないように配慮すること。もう1つエネルギーを使わず、自然が自然自身の力で生態系を築くような仕組みを考えることだ。学校ビオトープの中には、池に水をポンプアップし、ろ過装置で水質を維持しているものもあるが、それは本来的なビオトープのあり方としては疑問である。電力で水をくみ上げなければ維持できない場所に水辺ビオトープはそぐわない。その土地にススキが生えたがっていればススキ原のビオトープで結構。木がたくさん生えてくればそれもまた良しとすべきなのだ。

■ビオトープの視点で考える古い墓地の存在意義

古い墓地をビオトープという視点で見直そうという動きがある。例えば、兵庫県立大学の澤田佳宏先生は、古い墓地が日本の希少な草原の在来植物を守っている可能性を指摘されている。

例えば、チガヤ、ツリガネニンジンなど、大規模圃場整備や開発によって失われやすい植物種が古い墓地に生き残っていることを述べている。今日までこれらの植物が保全されてきた主な要因は、埋め墓であれ参り墓であれ祖先の霊が眠る大事な場所は開発区域から基本的に除外されてきたことであるという。

■手作業による管理も植物保全に効果をもたらした

さらに、長年、地域の住民たちが草刈りなどの墓地の管理を手作業で行ってきたことも、在来の草原植生が維持されてきた理由であるとされる。機械刈りをするとどうしても草を刈りすぎがちで、種類によっては復元不能なほどのダメージを受けてしまうこともある。さらに、大型の草刈車両を導入すると、そのタイヤの溝などに外来種の種がくっついてきて、意図しない外来種の繁茂につながり、在来種の衰退につながる可能性もある。面積が狭いため、動力草刈り機が使えないような小さい墓地であるほど、草刈などの管理は基本的に手作業で行われてきため、在来の草原植物にとって都合が良い適度に手入れされた場所として数百年以上維持されてきたケースもあるようだ。

■古い墓地は、まさにビオトープそのもの

十数年前に群馬県下の小さな墓地に参拝する機会があった。その当時でも関東では生息域も狭まり、激減したといわれるシロバナタンポポがそこここに咲いていて感激した思い出がある。少なくとも明治時代後半から続くといわれるその墓地は寺の裏の丘陵を切り拓いて造られており、土の斜面の起伏に合わせて不揃いの積み石の段々が続いていた。北関東の別の古い墓所では、本堂と墓地の間の樹林地の林床でムササビの幼獣が不時着して縮こまっているのに出くわしたこともある。

このように、古い墓地は図らずも、失われつつある在来生物の重要な生息場所のようだ。周辺環境が大きく改変され自然が失われていく中で生き物の避難場所だったり、飛び石的に移動するための足掛かりだったりするのだろう。これらの役割をもつ場所のことも広くビオトープと呼び、地域の生物多様性の維持には重要だ。

■古い墓地は自然植物の保全活動に多用されている

阿蘇では、「阿蘇かずらかご」という取り組みが進行中だ。これは、地域の自然豊かなスポットや牧草地として利用されている草原などをルート化して線で結び付けることで、生き物が移動しやすくするだけでなく、人も徒歩で見て回ることできるようにしようというものだ。自然と産業と文化が有機的に結ばれることを狙いとしている。このルートの中に、半自然草原が長年保全されてきた古い墓地を組み込まれている。イギリスでもフットパス整備の中で、古い墓地をルートに組み込むことが普通に行われている。

墓地も管理方法や自然に配慮することで、地域の自然や文化とより密接につながることができよう。墓地を「きもだめし」場所としてしか見ないのは時代遅れなのかもしれない。

「古い墓地が日本国内の希少な草原植物とその生態系を守っているという話」のページです。デイリーニュースオンラインは、カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧