人手不足なのに、最低賃金で若者を雇おうとする経営の無能…に覆われる日本|やまもといちろうコラム

デイリーニュースオンライン

Photo by Photo AC(写真はイメージです)
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 最近この手のニュースが多いなあと思いますが、ここでも正規と非正規の問題が横たわり、ややこしいことになっておるようです。

小中教員不足:「担任すら決まらず」自治体間で講師争奪 - 毎日新聞 

https://mainichi.jp/articles/20171128/k00/00m/040/183000c

 記事では触れられていませんが、私が復興絡みでご一緒した自治体では、教職員の身分保障が硬直化していて、育休や鬱療養などきめ細かい保障がある正規の教職員と、いつでも簡単にクビが切られる補助的な業務を行う人員との間で深刻な軋轢があるのを何度も目にしました。

 もちろん、正規の教師でも立派な方はたくさんおられ、その点では捨てたもんじゃないなと感じる部分もあるのですが、そうはいっても教育の現場は大変な重労働で、毎年変わる教育要項、2020年に控える大学入試改革、さらにアクティブラーニングだICT教育だ生きた英語教育だ開かれた性教育だという話になっていくと、あまりの環境変化に教師の側も戸惑うのは当然です。

 また、かねてから教育の現場では本来家庭で行うべき躾まで受け持ち、地域社会の要であれというようなニーズまで出る始末で、できる教師ほど疲弊する、長く務められる職場ではもはやないといわれても仕方がないところでもあります。折からの少子化や、教職員の離職などもあって、保守的な考え方をすることが多い自治体や教育委員会では固定費の増大に直接寄与してしまう正規職員の補充に億劫になっているうち、本格的な景気回復があって有効求人倍率がついに1倍超えとなって、「仕方なく教師になる人」が減ってしまって人手を埋めようにもどうにもならなくなった、というのが実態ではないでしょうか。

 さらに、教員補助員については求人内容を見ると自治体間に大きなばらつきがあるのが見て取れます。最たるものはその都道府県の最低賃金で出勤のための移動費が半額しかでないという劣悪な条件での募集になっている地域もあります。そして、実際にはそういうところに応募はほとんどありません。教育委員会の関係者の血縁者が応募して以前問題になったため、いざというときに駆り出せる人手もないというのが実態で、少子化で教員に余裕が出るという試算のはずが、教員の絶対数の不足と役割の増大で過酷な勤務を強いる環境がむしろ「教師離れ」を起こしてしまっているのが実情とも言えます。

 一方、地方の人手不足でアルバイトが集まらずどうにもならない農家の話も出ています。

時給1600円でも… 収穫期バイト集まらず 十勝の農家:どうしん電子版(北海道新聞)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/143201

 これはもう少子化で縮む地方経済の象徴とも言える話なのですが、物悲しいのは今後地域に人手が入ってくることは「絶対にない」という点です。魅力のある地域を作るには、みたいな前向きな話も消え去り、都市部にいる暇な学生を高給で集めようにも人が来ないというのはここ数年顕著で、収穫できないので農家が廃業するという洒落にならない事態は人口減少局面に入って久しい秋田県や山形県では先行事例として常に問題視されてきました。

 人がいないのだから産業がないのではなく、そこに仕事があっても金にできない状況であり、いまからでも遅くないから地域に充分な働き手が継続的にいられるような地域づくりをしていかないと本当にその地域から産業が消え去るぞってことになりかねません。子供が産める年齢の女性が減っているのだから、その人達を大事にして子供を一人でも多く儲けてもらえるような、そして地域をみんなで盛り立てていけるような構造を作らない限り、改善することなど絶対にないのです。

 深刻な事態であればあるほど、我が国の衰退とどう向き合うかを真面目に考えなければならないのでありまして、しかも解決策はありませんから、どのように撤退戦をしていくのか知恵を絞る必要がありそうです。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

文・やまもといちろう

※慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数。

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