AI(人工知能)でほぼ的確に患者の余命を予測することに成功(米研究)
万人に終わりは訪れる。だがそれがいつになるのか、正確にはわからない。わからないからこそ、あたりまえの日常を過ごすことができるのだ。
病院では終末が近づいた患者の余命を予測して伝えてくれることがあるが、その精度には限界がある。もし、AI(人工知能)のアルゴリズムで患者の余命を正確に予測できれば、終末治療を適切なタイミングで行えるようになるだろう。
米スタンフォード大学の実験では、AIを使用することで不気味なほど正確な予測を行うことに成功した。
・正確に余命を予測することが最良の終末医療につながる
人間があとどれくらい生きられるのかを予測することは難しい。患者の年齢や薬品への反応など、医師はいくつもの要素を考慮に入れなければならない。
さらに医師自身も前例や偏見、死期を予測することに対する無意識の抵抗感といったことから逃れることはできない。ゆえに的確な予測ができることもあるだろうが、数ヶ月も外れることだって珍しくはない。
これは緩和ケアをどの時点で始めるか決定する上で障害となる。典型的には、患者が1年以上生きられないと判断される場合には、緩和ケアに移行する。
その主な目的は、患者の最後の数日あるいは数ヶ月間に生じる痛み、吐き気、食欲の減退、混乱といった苦しみを可能な限り減らし、精神的なサポートを提供することだ。
しかしそれに移行するタイミングが遅すぎれば、大切な終末医療を受けられないことになる。反対に早すぎれば、患者に無用な制限を課す結果になる。

「進行した病気が医療危機につながることは多々あります。患者は集中治療室に搬送され、ものごとに勢いがつき、ますます侵襲的な介入がなされます。それは患者本人のためにも、その家族のためにもなりません」とスタンフォード大学医学部のケン・ジャン氏は話す。
「緩和ケアの目標の1つは、患者との対話を通じて、医療危機が生じる前に本人の希望を明らかにすることです。留意すべきは、何も来年死ぬような患者でなくても、こうすることに意味のある場合があることです。私たちは、余命は病気の便利な代理指標であって、こうした対話には利点があるだろうと考えています」
・自宅で最期を迎えたいという患者の願い
ジャン氏は、数十年前にアメリカ人の80パーセントが自宅で死ぬことを望んでいるという調査を読んだ時、このニーズに気が付いたという。
しかし、実際にそうできているのは35パーセント程度で、今では多少改善されたものの、それでもまだまだ道半ばである。
死を予測するアルゴリズムは医師に代わるものではなく、診断の精度を高めるツールである。また緩和ケア導入の時期を適切に判断するだけでなく、労力と時間を割いて患者の経過を予測せねばならない医師の負担を軽減することにもつながる。
「私たちが取り組んでいる問題は、緩和ケアから恩恵を受けられるはずの患者でも、実際に受けているのは一部だけだというものです。その原因はタイミングの見極めが遅すぎることが1つです。また緩和ケアをおこなう人材が足りていないことも原因でしょう」と研究チームのアナンド・アヴァティ氏。

・膨大なデータからアルゴリズムをプログラミング
余命予測システムはディープラーニング(多層のニューラルネットワークによる機械学習システム)を用い、膨大なデータから学習をさせる。
ここでの場合、システムにはスタンフォード病院かルシル・パッカード子供病院に入院した成人と小児の電子カルテデータを入力する。200万の記録を入力した後、実験に適切な患者20万人を特定。対象となったのは、診断書、検査実施数、処置の種類、入院日数、服用薬などが記載された関連症例レポートがある患者たちだ
アルゴリズムは16万人分の症例レポートを精査し、現在から3~12ヶ月以内の死亡率を学ぶよう指示を与えられた。緩和ケアを準備するには時間が不十分であるとの理由から、3ヶ月未満の死亡率は予測対象に含まれていない。

・90%以上の精度で余命予測に成功
こうしてスキルを習得したアルゴリズムで、残り4万人の死亡率の予測を試みた。その結果、10人中9人の割合で3~12ヶ月以内の死亡率を的中させることに成功。期間内に死ぬ確率は低いと評価された患者の95パーセントが、12ヶ月以上生存していた。
「予測を近似値として用いれば、緩和ケア導入率を改善する洗練された選別ツールになるでしょう」とスタンフォード大学医学部のステファニー・M・ハーマン(Stephanie M. Harman)氏。研究チームが意図しているのは、患者に死期を伝えることではなく、病状が進行しているのに緩和ケアが検討されていない患者を特定することだそうだ。
・余命予測はできても診断の根拠がわからない。問題点と今後の課題
ただし今回の予備調査では、いくつか欠点も見つかった。
例えば、緩和ケアを行う医師に適切なタイミングで終末医療の必要性を通知することの難しさや、入手できるだろうと想定していたデータが、タイミングよく得られないことなどだ。
だが特に重要なのは、AIが終末医療が必要であると診断した根拠や患者が必要とする処置方法については一切わからないという点だ。
それはディープマインド社のアルファ碁システムにも似ている。今や碁の世界王者すら下したアルファ碁であるが、専門家によれば、システムが繰り出す手はまったく異様かつ予測不能で、負けた側もなぜ負けたのか分からないままなのだという。
これはAI開発者が「ブラックボックス」問題と呼ぶものだ。AIが答えを導き出すプロセスは闇に包まれているのである。

それでも箱を開けて個々の事例をのぞき見れば、予測したパターンと予測しなかったパターンが見つかるだろう。つまりAIが発見したことから学べるはずなのだ。
しかもシステムはまだまだ改良の余地がある。今回はたった2つの病院のデータから学習しただけだ。限定的であるし、多少のバイアスもあろう。
さらに多様なデータが用意されれば、ディープラーニングによってさらに適切な判断ができるようになる。
自分の死ぬ時期をぴったりと予測されるなどぞっとしない話かもしれない。だが、その結果がきちんとした終末医療を受けられる可能性だというのなら、悪くないだろう。
References:stanford / nypost / spectrumなど/ translated by hiroching / edited by parumo