「終わらないマンガ」の楽しみ方!熱狂的読者が情熱トーク

日刊大衆

「終わらないマンガ」の楽しみ方!熱狂的読者が情熱トーク

 オレたちの心を震わせ続ける名作の数々。生まれた頃から始まっているような気もするけれど……。長らく読者をつかんできたその秘密とは、いったい!?

■『ベルセルク』は連載28年でまだ序盤!?  家族や親戚一同が集まる機会に、日本の至る所で繰り広げられる光景。大人たちが近況報告や噂話に花を咲かせる中、集まった子どもたちは大人の話など一切興味なく、寝転がってマンガを読んだり……。先日、法事で集まった際に、そんな様子を見ていたライターの山口高広氏は、ふと、あることに気づいて愕然としたという。「ボクが高校の頃、20年以上前に読んでいたマンガと、今、中学生の親戚のガキンチョが読んでいるマンガが同じ作品だったんですよ。“よく、そんな昔の読んでるね”と聞いたら、“え? これ、こないだ出た巻だよ”って言われて。とっくに終わってるものだと思ってたので、ビックリしました」

 その作品こそ『ベルセルク』(三浦健太郎=白泉社)。中世ヨーロッパを感じさせるファンタジーの世界を、復讐のために旅する剣士の物語だ。1989年に連載を開始、長期休載などを繰り返して、28年が経とうとする現在も、コミックス発売数はまだ37巻。「“まだやってたのか!”と思って改めて読んでみたら、面白いのなんの! 単に正義が悪を倒していく物語じゃなく、主人公のガッツは自分の復讐心のために剣を振るい、仲間たちを大事にする一方で、気持ちが落ち込んだときは容赦なく傷つけていく。すごく身勝手で人間臭いんです。エグイ描写の中にも人間の複雑さがあって、大人になった今こそ共感できる部分も多いです」(山口氏)

『ベルセルク』ファンが口をそろえるのは、「とにかく絵の描き込みがすごい!」ということ。「そもそも絵がとてもうまい作家さんなんですが、魔物や妖精といった想像上の存在の造形が、いちいち凝っていて、やっつけで描いてるものがないんです。圧巻なのは、34巻。“ゴッドハンド”と呼ばれる強大な力を持った存在が4人、現れるんですが、彼らのブッ飛んでいるうえに、だいぶ気持ち悪い造形が、ものすごく細かく丁寧に、一人ずつ見開きで計8ページにわたって描かれていて。まともな精神の持ち主では、こんな絵は描けないし、“こんなふうにして描いてたら、そりゃ連載も進まんわ……”と思いましたけどね(笑)。でも、そのこだわりがいいんです」(山口氏)

 現在、作品はまったく新たな展開を迎えようとしているが、気になるのは主人公・ガッツと、ヒロインのキャスカの関係だ。「ある事件により記憶喪失になってしまったキャスカの記憶を探す旅でもあるんですが、集めていくべき“記憶のかけら”が、今のところ全然集まってなくて(笑)。29年目にしてまだ序盤ということなんでしょうか……今後の展開は、三浦先生の頭の中にしかないのかもしれません」(前同)

■茶目っ気も高ポイントの『ゴルゴ13』  29年というと、かなりの長寿連載ではあるが、上には上がいるもので、現在、日本国内で連載されているマンガの最長寿は1967年に同人誌で連載を開始し、77年に商業誌に移ってからも、掲載誌を8誌以上も代えながら描かれ続けている『超人ロック』(聖悠紀=少年画報社)シリーズ。「67年といえば吉田茂元首相が亡くなり、『森永チョコボール』や『リカちゃん人形』が発売された年。もはや歴史の一部と言っても過言ではありません」(マンガライターの小碧竜也氏)

 ご長寿第2位にして、通巻ものでは最長の連載となっているのは『ゴルゴ13』(さいとう・たかを=リイド社)。言わずと知れた凄腕の殺し屋・デューク東郷が世界の各地で任務をこなしていく物語。1968年から連載され、現在までに187巻を発売している。「冷戦や宇宙開発真っ只中の世界情勢を反映して、国境紛争やゲリラ戦、テロリズム、テクノロジーなど、さまざまな事象をリアルに盛り込んでいることも、人気の秘密です。かつて、麻生太郎元首相が“国際情勢は『ゴルゴ』で学ぶ”とも言ってましたね。さすがに、それはどうかと思いますが(笑)」(前同)

 そのクールなたたずまいと同時に、「おれのうしろに立つな……」という名台詞も有名。また、コワモテのゴルゴがたまに見せる茶目っ気も高ポイントだという意見も。「いつもはいかついスーツなのに、チロリアンハットにチョッキを着て登山していたり、滞在先の宿屋で、おかみさんに“ちょっと、お客さ~ん!”と呼ばれて“おれかい?”と顔を覗かせたときは、フレンチな感じのボーダーシャツ(笑)」(女性誌編集者)

 さすがは凄腕スナイパー、あらゆる方面から読者のハートを射抜き続けての187巻というところか。

■『ガラスの仮面』は作者が「最終回にたどりつかない」と嘆く  ご長寿マンガは、なにもこうした男の世界だけの専売特許ではない。1976年に『花とゆめ』誌上で掲載スタートし、今でも別冊誌上で連載中の『ガラスの仮面』(美内すずえ=白泉社)も、少女マンガ界のトップランナーだ。単行本は、現在までで49巻。98年に42巻で一度連載は終了しているものの、2008年からまた再開している。「どこにでもいる平凡な少女・北島マヤが演劇の世界で隠れた才能を開花させ、女優へと成長していく姿を描いたこの作品は、実は、少女マンガ史上最大にして最強の“スポ根マンガ”なんじゃないかと、僕は思います」(前出の小碧氏)

 役をつかむために懸命に努力をする主人公のマヤだが、その内容が、普通の稽古だけではなく“滝に打たれる”とか“人形のぎこちない動きを手に入れるため、上半身を竹製のギプスで固定する”といった、やや斜め上のものばかり。「これ、完全に『巨人の星』の“大リーグボール養成ギプス”とか、『ドラゴンボール』の“修業のための重い服”の発想ですよね。このあたりの、突飛なことをして新しい力に目覚めるという方法論は、どっちかというとジャンプ漫画っぽい。恋に恋しながら王子様を待ってるだけだった、それまでの少女マンガとは一線を画した“戦いのマンガ”なんです」(前同)

 また、特徴的なのは、そのロマンチックな画風。「連載が進んでも変に洗練されてしまうことなく、ともすれば過剰とも取れる描写を残したまま、絵がきれいになっているのはすごい。特に私が好きなのは、不穏な空気になったり、感情が高ぶったりすると、人物が白目になるところ(笑)。急に空気が変わる感じがして、この作品の一番のポイントだと思ってます。あと、ずっと劇中の電話機は“黒電話”だったのが、2008年以降、携帯電話になってるんですが、登場人物の服装やセリフは大時代なまま、というのが面白いですね」(前出の女性誌編集者)

 現在、最新49巻は12年刊行。5年間、新刊は出ていない。「こうなってくると、新刊を買った頃には前の内容を忘れてますね(笑)」(前同) 作者の美内氏をして「最終回の構想はあるのに、終わらせ方が分からない」と嘆かせる本作、まだまだ気長に読めそうだ。

■『はじめの一歩』は連載も終盤!?  連載開始が1970~80年代前半のものでは『三丁目の夕日』『クッキング・パパ』『BARレモン・ハート』など、一定のじんわりした温度感で現在まで細く長く続く青年作品群が多いが、80年代後半から、いよいよ少年漫画が出てくる。87年にスタートした『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦=集英社)などは、独特のセンスで現在も熱狂的なファンを集める作品だが、こちらは世界観は共通しているものの各シリーズに分かれているので、厳密には同じ連載とは言い難いものがある。

 その点、89年スタートの『はじめの一歩』(森川ショージ=講談社)は、今なお続く堂々たる長期連載だ。「もともといじめられっ子だった主人公の一歩がボクシングによって強くなるというセオリー通りの展開ですが、合間合間に“強くなるとはどういうことか?”という問いが挟まれてくるのが、すごく好きでした。一歩だけじゃなく、脇役たちの試合に関してもすごく丁寧に描いていて、ボクシングという残酷なまでに勝負が分かれる題材を扱っていながら“この世界はみんなが主役なんだな”と思わせてくれる、とても温かい作品ですね。最近、連載も終盤なのか、一歩の様子に変化があるのが心配……おっと、ネタバレになっちゃうかな」(東京都内のキックボクシングジム経営者)

 終わらない連載と言えど、人間が描いていれば、いつかは終わりが来る。2017年、ついに44年にわたる連載に幕を下ろした『浮浪雲』(ジョージ秋山=小学館)は、その“畳み方”まで独自路線を貫いていた。「最後の何コマも使って、ひたすら“ザザーン”と波音が響く無人の浜を描くだけ。あまりにもシュールでした。あんな見事で、ワケの分からない終わり方、ないですよ」(小碧氏)

 ここまで書いてきたものの、1990年代に入って、ようやく連載開始する『名探偵コナン』『ワンピース』『ミナミの帝王』『天牌』『ハンター×ハンター』などには、ページの都合でまったくたどり着けなさそうだ。なんとも奥の深いご長寿マンガの世界、あなたもドップリ浸かってみては?

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