[お江戸小説] ココロサク 【2話】おりんの初恋、急発進!?

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[お江戸小説] ココロサク 【2話】おりんの初恋、急発進!?

前回の第1話はこちら。

第2話 おりんの初恋、急発進!?

くれない荘を出てまっすぐ歩いていくと、母さんが働く呉服店や髪結床やらが並ぶ賑やかな通りに出るので、そこを左折。もうこの辺りまでくると、仕事場の水茶屋が見えてくる。ほのかに漂ってくる梅の香りを楽しみながら橋を渡ると、店に到着。

「おまえさん、迷子かい。どこから来たんだい」。しゃがんでいる旦那さんの背中の向こうには、しくしく泣くおかっぱの女の子の姿がある。江戸は道路標識、町名表示や表札もなく道も複雑なので、切絵図(※1)が必須。人も多いので、迷子もしょっちゅう。

「旦那さん、おはようございます。」
「おりん、おはよう。ちょっとこの子を角の自身番屋(※2)に連れていってくるから、店番頼んだよ。なんてったって、おりんは中村屋の看板娘だからね。」

茶目っ気たっぷりにほほ笑む旦那さんは、気立てがよく真面目な人柄で、くれない荘のみんなにも慕われている。気難しい大家さんだって、ここの甘味を食べているときはご機嫌だ。春になったら、中村屋の桜餅を求めてちょっとした行列ができるほど。

さてと、もうすぐ開店だし、そろそろ前掛けしてくるか。今日は、新八さん来てくれるだろうか……。新八さんは時々この店に来るお客さんで、一見人を寄せ付けない雰囲気があるのだけど、甘いものを口にしたときの笑顔の可愛いことといったら。そうだ、今日はみたらし団子があるから、きっと喜んでくれるはず……。

そんなことを考えていたら、目の前には、艶やかで同性の私でも見惚れてしまうほどの女性が立っていた。
「すみません、急ぎなのだけど、今日のおすすめを包んでもらえるかしら。」
「みたらしだんごと大福がございますが。」
「ねぇ、あんた、どちらがいいかしら。」
そう振り返って声かけた相手は……なんと、私が密かに想いを寄せている新八さんだった。(奥さん?それとも恋人?あんな素敵な人がいたのか…)

結局、だんごと大福両方買った2人を店先で見送り、旦那さんも戻ってきた頃から、幸いなことにお客さんで賑わい、落ち込んでいる暇もないほど大忙し。ひと息ついた頃には日も暮れてきて、そろそろ仕事も終わり。

※1 切絵図(きりえず)……江戸時代から明治にかけて作られた区分地図。地域などに分けて、拡大し詳しく表現した地図。
※2 自身番屋(じしんばんや)……江戸時代、各町ごとに置かれた自身番の詰め所。

そのときだった。
「カンカンカーン。」
火事だ!思わず店から飛び出ると、どこで発生したか一目瞭然だった。炎が長屋を容赦なく食い尽くしているのがわかる。

半鐘(※3)が鳴るということは、火事が起きたということ。半鐘が一打だと火事現場が遠く、2打だと大火、今のように連打だと、火元が近いという意味なのだ。
「どけどけぃ。」
ねじり鉢巻きをした町火消たちが、はしごや大きなうちわを持って、我こそはと現場に向かっている。
「くわえタバコをやったやつがいたらしい。」
「長屋がまるごとやられちまったらしいよ。」
野次馬のやりとりをぼんやりと聞きながら、胸騒ぎがするのはなぜだろうか。

くれない荘に戻ってくると、布団などの所帯道具を運び込んでいる大家さんとバッタリ。
「おりん、ちょうどよかった。さっきの火事で長屋が全焼しちまった人が、おりんの隣に引っ越してくるのだけど、厠(※4)や井戸など案内してくれるかい?ちょいと用があってね、よろしく頼んだよ。あ、この人が新しい住人ね。新さん。」

足早に立ち去る大家さんの向こうにいたのは、紛れもなく新八さん。ちょ、ちょっと待って?どういうこと?私の脳内は、パニック状態だ。
「新八です。先ほど、中村屋でお会いしたおりんさん、ですよね?これからお世話になります。」
私の名前知ってるの?今日からここで暮らす?さっきの人は奥さんじゃないの?聞きたいことがたくさん。憧れの人が、同じ長屋しかも隣に住むだなんて…これから毎日ドキドキしちまう。

さぁ、おりんの恋はどうなることやら。次回を、お楽しみに!(つづく)

※3 半鐘(はんしょう)……火の見櫓に吊るされた小さい釣鐘。火災や洪水、盗賊などの非常時に鳴らすようになった。
※4 厠(かわや)

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