[お江戸小説] ココロサク 【3話】くれない荘の新参者・新八は謎だらけ!?

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[お江戸小説] ココロサク 【3話】くれない荘の新参者・新八は謎だらけ!?

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第3話「くれない荘の新参者・新八は謎だらけ?!」

「ん?あんちゃん、新入りかい?」
くれない荘のにぎやか男・長吉も、仕事から戻ってきたようだ。
「ここは、いいやつらばっかりだから、何でも聞きな。カワイコちゃんがいる店もたくさん知ってるからよ、今度一緒に行くかい?」
「あんた、ほんとに懲りないねぇ。」
「おすみ、いつの間にそこにいたんだい。」
「さっきからだよ。新八さん、こんな旦那だけど大工の腕は確かだから、困ったことがあったら何でもいっておくれ。」
なんだかんだいって、この夫婦は仲がいい。こうやって、たわいもないおしゃべりをしていると、自然に井戸のまわりにみんなが集まってくる。これぞ、正真正銘の「井戸端会議」。

では改めて、くれない荘のみんなを紹介するよ。賑やかで楽しい良吉・おすみ夫婦。ドジで単純なヤツだけど愛嬌がある福助。すっかり足腰が弱くなってしまい、めったに出かけなくなったおみつと心優しく母親想いの五右衛門の仲良し親子。そして私おりんと母・おまつ。大家さん。そして新八さん。これで、くれない荘の住民が、みんな揃った。

「さ、湯屋(※1)にいこうや。一日の終わりに、熱い湯に入るのはたまんねぇな。」
長吉に付いていくように、福助と新八も近所の湯屋にむかう。五右衛門は「母を1人にするのが心配だから」と待機組。

江戸には、あちこちに湯屋がある。それは、江戸は水が少なく燃料の薪代が高い上に、火事を出したくなかったのが一番の理由だ。裕福な家でも、火事を恐れて内風呂を作らなかったほど。

ちなみに幕府から混浴禁止令は出ているものの、実際はほとんどの湯屋が混浴のまま。だから、くれない荘の住人は男女別で湯屋にいくのがルールになっている。どこの家も男は食事前に湯屋に行き、女は食後に行くことが多いようだ。

「着いたよ、新さん。」
ガラリと湯屋の戸を開けて土間で履物を脱ぐと、板の間に上がる。履物は、そのままでいい。下足番が、脱いだ靴を下足棚に揃えてくれる。番台で湯銭を払ったら、さっと服を脱ぎ、洗い場へ。石榴口(※2)をひょいとかがんで入ったら、浴槽がある。そこは、たいそう賑やかで。
「湯が熱いぞ熱いぞ、水を入れねぇか。」
「水なんぞ入れるな。ぬるくなっちまう。」
「てめぇの尻が邪魔だぃ。」
「てめぇが向こうにいけばいいんでぃ。」
といろんな声が飛び交っているから、蚊の鳴いてるような声はかき消されちまう。

「浮世風呂一ト口文句」早稲田大学図書館所蔵

ほこり臭くなっていた体もスッキリしたところで、長吉が一言。
「新さんも、二階に寄ってかねぇか?」
男湯の二階の大広間は、酒を呑んだり将棋をさしたりするちょっとした社交場になっていて、ここでちょっと休憩していくのが、庶民のささやかな楽しみなのだ。
「すみません。今日はお先に失礼します。」
2人に会釈して、静かに湯屋を後にする新八。

「あいつ、なんか他人行儀なんだよなぁ。どこかすましているっつうか、人をよせつけないっつうか。」
「そうかなぁ。ま、とりあえず呑みましょうよ。」
「そうだな、呑むか!」
長吉と福助が酒を酌み交わしている頃、外は突然の雨。

江戸の道路はきちんと舗装されておらず、石と土を踏み固めただけ。だから道が凸凹していることは当たり前、雨が降るとぬかるんで下駄が泥だらけになってしまう。
「明日は、駕籠(※3)で出かけようか。」
と呟きながら、急ぎ足で帰途につく新八。路上を歩かなくていい駕籠は、雨の日や急ぎのときに重宝されたけれど、庶民にとっては値段が高すぎて到底無理なもの。そういえば、新八が着ている着物はたいそうしゃれたもの。良吉や福助が着ている着物とはちょっと違う。ふるまいもスマートだし、なんだか身分が違うような。

おりんが想いを寄せる新八って、いったい何者?

(つづく)

※1 湯屋……江戸では銭湯のことを湯屋と呼んでいた。
※2 石榴口(ざくろぐち)……風呂の蒸気が漏れないように入口の上部を板張りにし、その下をくぐって出入りする場所のこと。湯を冷めにくくする役割もある。
※3 駕籠……江戸の駕籠は足が速いといわれ、1里(約4キロ)移動するのに1時間弱。辻駕籠と宿駕籠があり、格は宿駕籠の方が上といわれた。

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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