1970~80年代のエロスを支えた「名物編集長」の半生が映画化

まいじつ

1970~80年代のエロスを支えた「名物編集長」の半生が映画化

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『素敵なダイナマイトスキャンダル』

配給/東京テアトル テアトル新宿ほかにて3月17日から公開中
監督/冨永昌敬
出演/柄本佑、前田敦子、三浦透子、松重豊、尾野真千子ほか

1970~1980年代、昭和後期のサブカルチャーを『ウィークエンド・スーパー』、『写真時代』などでエロス方面から支えた名物編集長の末井昭の自伝の映画化だが、そんじょそこらの美化された人物伝とはひと味もふた味も違うユニークな出来となった。何しろ、幼少期に母親が情人とダイナマイトで爆死心中してしまう(当時、新聞沙汰になったので、大袈裟ではなさそう)という前代未聞の経験を持つ人なのだ。彼がなぜエロ業界の寵児となったのか、興味が湧くね。

そんな、末井昭少年の精神形成に影響を大きく与えたであろう“ブッ飛び母”を演じるのが、ご贔屓女優の尾野真千子。「彼女がブッ飛んでるヨ」とのウワサを聞いてイソイソと見に行ったら、本当に、文字通り、爆死してブッ飛んでいたのでビックリしたなあ。

ヌードになった初期の『真幸(まさき)くあらば』(2009年)のころと違って、最近の尾野真千子はヒューマン傾向の映画が目立つのが少々不満だったので、今回は凄絶な美しさで狂気を演じて快哉を叫んだ。

当時ならではの雰囲気がよく出ている作品

末井氏とは、ほぼ同世代。ボクも70~80代サブカルチャー、とりわけエロス方面の洗礼はしっかり受けているので、とても親近感が湧く。特に、取り締まり側である警察とのやり取りが面白い。松重豊が「こういうの困んだよねえ」と方言丸出しの憎めない刑事さんに扮している。一方、末井氏を演じる柄本佑があの独特の脱力感で、警察で米つきバッタみたいにスミマセンを連発するけど、決して反省はしないで懲りずに出版を続けるエロ業界の心意気を体現してくれる。

ふたりの珍攻防が面白くて、笑ってしまうほど。ダッチワイフの職人に謝りに行ったり、警察のガサ入れを食ったりするところも同様で、あの当時の雰囲気がよく出ている。そういえば、やたら煙草をスパスパ吸うシーンの連続だった。これもあの当時ならでは。映画の中で煙草シーンを規制しようという動きがあるようだが、とんでもない話、と煙草を止めて久しいボクでも改めて思った。

いまみたいに、規制、自主規制だらけではなく、「世の中にはグレーゾーンがあって面白かった。権力側の対応だってそうだった」と末井氏も振り返っている。そういう時代のお話に興味ある人に、昭和後期を映し出すサブカルチャー映画として貴重な快作だろう。

付け加えれば、柄本佑の女装も見もの。けっこう似合う。先日、彼がラジオ番組にゲストで出ていて、ブラやパンティーもちゃんと付けて演じた、と話していた。「パンティーはともかくブラのホックを外すとき、特別な感情に襲われた」そうだ。そういうものか。

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