医学界でいま注目を集めている急性腎障害の落とし穴

週刊実話

 医学界でいま、注目を集めているのが「急性腎障害(AKI)」だという。数時間から数日の間に腎機能が急激に低下した状態に陥り、重症の場合は多臓器不全となって、1カ月以内に命を落とすことも少なくないのだ。

 米国のデータでは、20年間で患者数が5倍に増加。2012年に国際的な腎臓病ガイドライができたことを受け、'16年12月、日本で初めて「急性腎障害診断ガイドライン」というものが策定された。
 このガイドライン作成委員会メンバーの1人で、内分泌代謝・腎臓内科医の寺田典生氏は言う。
 「急性腎障害に罹る人は、とにかく増えています。我々は腎機能が急激に低下した場合を呼んでいますが、これを起こすと血中のクレアチニン値が改善しても、その後、慢性腎臓病を発症し、やがては慢性腎不全となり、人工透析を受けなければならない状態に至るリスクが高くなります」

 筋肉が働くための重要なエネルギー源として、クレアチンリン酸という物質かある。それが代謝された後にできる老廃物がクレアチニン。これは腎臓でろ過され尿として排出されることから、血中のクレアチニン値の上昇=腎臓の機能が低下しているということになる。
 「さらに、急性腎障害では尿管細胞がダメージを受けて線維化が進み、酸素供給が低下。腎臓が低酸素状態となり、慢性的な腎臓病を引き起こすのです」(同)

 急性腎障害はもともと、入院患者が引き起こすことが多いのだが、ごく普通に生活している人にも襲いかかり、そのまま慢性腎障害になる可能性もある。
 東邦大学病院医療センター大橋病院・腎臓内科外来担当医はこう話す。
 「腎臓の主な働きは、血液をろ過して尿を作ることですが、もしも腎臓に流れてくる血流が低下すると、尿が排出できなくなったり、必要な塩分や糖分などの再吸収の際に異常が起きたりします。入院患者の場合、出血・下痢・おう吐などで体内の血液量が少なくなると、腎臓に流れてくる血液量が低下してしまう。また、心臓病などで心不全となり、心臓のポンプの機能が落ちると全身の血液循環が悪くなって、やはり腎臓の血流低下が起こります。敗血症という重い感染症になった場合も、全身の血圧低下が起こり、腎臓への血流が低下する。これらが原因で、急性腎障害を引き起こすのです」

 一方、入院患者ではない一般生活を送る人にとってきっかけとなるのが、脱水だという。体内の水分の量が減ると血液の量も減ってしまい、腎臓への血流が低下してしまうからだ。また、何らかの薬の副作用によって腎臓への血流不足が起きることもある。高齢者の場合、ふらつきや尿が出ない、気分が悪い、などの症状が出る場合もあるという。
 「とくに高血圧の人が脱水気味の際、血圧を下げる『ACE阻害薬』や『ARB』、『利尿薬』などを飲んでいると、腎臓への血流不足が起きることがあります。そのため、汗をかいて脱水を起こしやすい夏場には、医師が高血圧の薬を減らす場合もある。また、『非ステロイド性抗炎症薬』などの鎮痛薬の飲みすぎにも注意が必要です。ほか、頭痛や腰痛、膝の痛み止めとして使う鎮痛薬を長期にわたり飲んでいる人は、それが原因で急性腎障害が起こる可能性があることも分かっています」(内科医)
 いずれにしても、急性腎障害を発症すると、3カ月、半年、1年と、長期にわたっての経過観察が必要になるという。

 発症のきっかけは、まとめると主に二つだ。
 「一つは手術。人工心肺の設置などは出血などで血圧の変動を起こしやすい。すると、腎臓をはじめとする各臓器への血液の供給が滞り、腎臓が低酸素状態になって機能障害が起こりやすくなります」(同)
 ある地方大学病院の過去約10万人の患者を分析したところ、検査や手術を含む全入院患者の11.3%が急性腎障害を発症していたというから驚きだ。
 もう一つのきっかけは、脱水症状。やはり血液の供給の停滞につながり、腎機能障害を起こす。しかも熱中症による脱水症状だけではなく、風邪やインフルエンザなどの発熱でも脱水症状を引き起こすことを忘れてはならない。

 要注意なのは60歳以上の高齢者だ。14%を超える人たちが急性腎障害を発症していたというデータが、前述の大学病院にはある。
 「糖尿病、高血圧、高尿酸血症など腎機能を低下させる疾患を抱えている人に多いんです。さらに、これらの治療薬の中には、腎臓に負担をかける薬も含まれている場合がありますからね」(同)

 中高年になると「前立腺肥大」という病名を耳にすることが多い。これも、急性腎障害の発症の元になるという。
 「腎臓で作られた尿は膀胱に流れますが、尿路に石ができたり、がんができて詰まったり、さらに前立腺肥大になっていると、尿が正常に排出されないために腎臓に尿が溜まって水腎症が起きる。さらに急性腎障害を引き起こすきっかけとなるのです」(同)

 医療ジャーナリスト・深見幸成氏はこう言う。
 「もともと人は、年齢を重ねると腎臓の機能が低下するということもあります。ですから、たとえ疾患のコントロールが上手くいっていても、薬や脱水症状などの要因が重なって、急性腎障害を引き起こす可能性はあります。急性腎障害から慢性腎臓病へ移行するリスクを少しでも下げるには、早期対策が重要なポイントになります。専門家の話を取材しても、手術がきっかけで起こる急性腎障害は、早期診断として、尿中のNGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)や、L-FABP(L型脂肪酸結合タンパク)に注目が集まっているといいます。血中クレアチニン値の場合、腎機能が低下してから48時間後ぐらいに数値が上昇するので、発見のタイミングとしては遅い。一方で、尿中NGALは6時間後には数値が上昇するとのことで、処置を早めることができるのです」

 日常生活では、水分補給に気を遣い、鎮痛薬を飲みすぎず、健診結果などで自分の腎機能をチェックすることを心掛けよう。

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