地球内異世界探訪。苔むした溶岩があたり一面に広がる「エルドフロインの溶岩原」(アイスランド)
手つかずの自然が残るアイスランドには、目を見張るような驚異的な風景がいくつもあるが、その南には苔だらけのデコボコした緑がどこまでも続く、異世界ファンタジーな景色が存在する。
山岳地域でよく育つ苔は、この国に広がる溶岩原の特徴にもなっている。
とりわけ見事なのがこのエルドフロイン溶岩原で、その眺めは溶岩のイメージとは真逆の柔らかくてのどかな印象だ。
だが、この下に隠れている岩たちは、1783年から1784年にかけて起こった2つの火山の噴火で誕生した。それは有史時代で最も壊滅的ともいわれた噴火で、被害はアイスランドにとどまらず、北半球の天候にまで影響を与えたという。
・2つの火山の噴火が引き起こした大規模災害
1783年から1784年の8ヵ月にわたり、隣接するラキ火山とグリムスヴォトン火山が相次いで噴火し、およそ14km3もの玄武岩質溶岩と火山灰を含む有毒ガスが土壌を汚染した。
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この噴火でアイルランドの牛や馬は半数が死に絶え、羊も1/4ほどになった。さらにその年の作物は何も育たず魚もとれなかった。
そのため人口のおよそ1/4が餓死するという凄まじい被害が生じた。
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・噴火の影響は北半球にも
しかも、この噴火の影響はアイスランドにとどまらなかった。その後、北半球の気候が数年も悪化し、1784年には北米に最長かつ最も寒い冬が訪れた。
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さらにアメリカ南部に大規模な吹雪が発生、ニューオリンズではミシシッピ川が凍結、メキシコ湾では氷の塊が浮かんだ。
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噴火によって大気に広がった火山性物質はモンスーンの循環まで弱め、遠く離れたインドにも干ばつや作物の不作をもたらした。
1784年にはエジプトが飢饉に見舞われ、人口のおよそ1/6が餓死した。
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・ヨーロッパにも深刻な被害が生じる
特に被害が甚大だったのはヨーロッパだ。1783年の夏は記録的な猛暑となり、アイスランド上空に生まれた巨大な高気圧が南東の風を引き起こした。
有毒な雲がヨーロッパを漂い、その硫黄化合物などを吸い込んだ何万人もの人が亡くなった。その被害は深刻で、イギリスだけでもおよそ23,000人もの死者が出たという。
さらに気温が上昇するにつれ雷雨が深刻化し、大きな雹で家畜が傷つき死んでしまった。冬は極寒になりイギリスでさらに8,000人もの死者が出た。
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また多くの歴史家が、この一連の穀物の不作で生じた貧困と飢饉が、のちのフランス革命(1789-1799)の引き金になったと考えている。
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・長年かけて溶岩を包んだ緑の絨毯
現在、エルドフロインの溶岩フィールドにはきわめて平和で穏やかな風景が広がっている。この空間はなんと500km2以上もある。
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苔の感触はフワフワだが、下にゴツゴツした溶岩があるため危険だ。また、苔は成長に時間がかかるため、現地ではむやみにあちこち踏まないように歩ける場所が決まっているそうだ。
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苔の色は天候や季節によって多少異なって見えるという
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歴史に残る凄まじい噴火の跡はいまや跡形もない。少しずつ育った小さな苔たちが荒々しい溶岩を包み込み、メルヘンな世界に変貌させたのだ。
昨年夏のエルドフロイン溶岩フィールドの様子
Eldhraun Lava Fields, Iceland -- A Scenic Tour
追記(2018/03/25):本文を一部訂正して再送します。
References:amusingplanet / tabit / wikipedia / sandatlas / icelandtravelなど /written by D/ edited by parumo