あまりにもUFOブームが盛り上がってしまったので、UFO情報の証拠をなかったことにしようとしたイギリス国防省
1997年は、ニューメキシコ州ロズウェルに謎の空飛ぶ円盤が墜落した事件から50年目に当たり、超常現象ドラマ『X-ファイル』シリーズの人気絶頂期であった。
英語圏を中心にUFOフィーバーが席巻していたのだ。これは大勢の関心を惹きつけたミステリーであったが、しかし英国の国防省に属する情報機関「国防情報参謀部(DIS)」にとって頭痛の種となりつつあった。
UFOに関する事案に対応するDI55の分析官たちは、UFOマニアからの要請に忙殺されていた。それどころか、議会でも空飛ぶ円盤に関する質問が飛び交い、本来国防に費やすべき時間が奪われてしまっていた。
そこで上層部は、UFOの目撃報告について徹底的な調査を行い、その正体について金輪際の決着をつけるべく指令を出した。
だが、新たに明るみになった文書から判明したことは、その調査は客観性からは程遠く、適切に調査されなかった可能性が高いという。
当初から国防省をUFOの対応から解放することを念頭に行われていたのだ。
・問題となっているUFO報告書
DIS(国防情報参謀部)と調査を請け負った業者間のやりとりは、着手の段階から「英国に脅威となる恐れがあること、および技術の獲得につながること」にのみ焦点が当てられており、「宇宙人による誘拐といったX-ファイル的活動」は対象外であることを示している。また別の覚書は、「UFO理論に基づき推進されるべきではない」と述べている。
調査報告書がUFO目撃は大気中に形成された解明されていないプラズマによるものと断定したことで、一つの謎は別の謎で置き換えられる形となった。にも関わらず、DI55は、以降UFOの報告を受け付けないと発表した。
その文書は1997年に始まり、過去10年のUFO目撃事例(DISの用語では未確認空中現象”UAP”という)を照合した調査の背景にあった意図を明らかにしている。参加した担当者の身元は編集され、それ以外の専門家も黒く塗りつぶされている。
・すべては国防省職員の仕事を軽減するために
「ますますメディアから注目されるようになり、本局本来の任務に直接関係する任務に従事している担当者の仕事量は2倍に増大した」と覚書にはある。そして「状況を再評価」し、この問題におけるDISの役割をはっきりさせるべきであると続く。
分析官は目撃事例の調査や質問への対応に費やされる時間的・金銭的コストに苦情を述べている。
「問題が下火になる見込みは低い。特に米軍が今後十年でグローバルスター、ダークスター、X-33、あるいは有人宇宙飛行機のような高高度飛行能力を有した航空機を稼働させることを考えれば、なおさらだ」とある高官は記している。
「諸外国もこれにならうことが予測される。特にUAV(無人航空ビークル)の場合、無許可で領空に侵入するリスクを犯すことも認められるかもしれない」
よりオープンな意見もある。
あるものなどは、「UAPが現実である可能性を無視することはできない」や、それは自然現象かもしれないが「軍事利用である可能性」もあると論じている。「その正体が不明である以上、UAPが国防の潜在的脅威であると論じてもいいだろう」とも。
・報告書の著者が個人的に関与?
報告書の著者が個人的に関与していたことも明らかになっている。1950年代から同じ調査票が利用されてきたことを指摘しつつ、その人物は「当時、空軍内を飛行し急襲した後で、自分自身も調査票に記入した」と述べる。
一方で、メディアが彼が携わっていた戦略的防衛イニシアチブや弾道ミサイル防衛といった他の任務と結びつけるであろうことを懸念し、自身の露出は控えている。
・これ以上UFOブームが盛り上がらない為に
ファイルから明らかになったことは、担当者がUFOマニアをさらに駆り立てることを恐れていたことだ。「UFOビジネスを拡大し、それによって国防に関するメッセージが一般から誤解されるようなことがないよう、細心の注意を払わねばならない」とある覚書にはある。
その一方で、「パブリックドメインでの非公開を確保すると同時に、国防省が何らかの秘密を隠していると疑われることがないよう、分類は低くするべきだ」とも配慮されている。
・宇宙人など存在しない。と結論づける
報告書は2000年に完成した。それは英国上空を宇宙人の船が飛行した可能性をきちんと否定し、DI55がこれ以上目撃報告を受け付けないとするための根拠を提示している。
しかしDISの次の行為は陰謀論支持者の想像力を焚きつけるかもしれない。その報告書が基づいていたファイルはおろか、分析に使われたデータベースすら破棄してしまったのだ。
現在、国防省はUFOに関連する質問を公式に受け付けていない。これが国防に関連しないと判断されたことで、担当部門は2009年に廃止された。
なお、この報告書の一部はこちらからダウンロードできる
References:drdavidclarke / theguardian/ written by hiroching / edited by parumo