トランプきつねvs金正恩たぬき「非核」化かし合い最後の一手

週刊実話

 歩み寄っているように見える両国のコンセンサスは依然として不透明なままだ。米国は「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄=CVI“D”」を北朝鮮に要求し、片や北側は米国に「完全かつ検証可能で不可逆的な体制保障=CVI“G”」を求めている。
 トランプ米大統領はロイター通信のインタビューで、米朝首脳会談が「複数回となる確率が高い」と述べた。つまり、この“D”と“G”のせめぎ合いは、6月12日の世紀の会談以降も続くということだ。

 北朝鮮の核放棄への現実的なシナリオは、現在の流れでいけば「当面の非核化」以外にない。また“D”と“G”のせめぎ合いについては、その前提として(1)米国は北への軍事介入、体制崩壊を模索しない、(2)米国は北の体制保障に関する何らかの外交文書をまとめること。以上について、ポンペオ長官と金英哲党副委員長との情報機関元トップ同士が攻防を繰り広げている。
 ちなみに北朝鮮側が言う「体制の保障」とは、米軍特殊部隊による金正恩党委員長“斬首作戦”の中止を意味するだけでなく、朝鮮半島全体の非核化、在韓米軍の縮小および撤退だ。

 トランプ大統領は北の核放棄を迫る一方で「最大限の圧力という言葉はもう使いたくない。北朝鮮への経済支援は韓国がするだろうし、中国も日本も支援するだろう。米国が支出する必要はない」とツイートしたように、カネは出さないが“D”と“G”をリンクさせるような姿勢を見せている。この真意はどこにあるのか。
 「金ファミリーの“執事”といわれる金昌善国務委員会部長がシンガポール入りし、会談会場などの細かい警備態勢の確認作業を進めるなど、正恩委員長サイドは相当神経質になっている。正恩委員長の留守中、ナンバー2である金与正が身重であることから『6・12クーデター』が起きるのではと、国外に出ることにビビりまくっているフシがあるのです。これまで先代2人の外国訪問が発表されたのは帰国後でした。それが金三代の危機管理のノウハウだったのですが、今回は12日に正恩委員長が留守になることは国内外に知れ渡っています。イラン-北朝鮮ラインを嫌う某国の諜報機関は、シンガポールに拠点がありますからね。トランプ大統領は、北が勝手に自壊することを期待しているのではないか」(北朝鮮ウオッチャー)

 韓国紙朝鮮日報は5月30日の記事で《会談がシンガポールで行われるため、正恩体制に不満を持つ勢力が何らかの行動を起こす時間を確保できる》との消息筋の話を紹介しているし、同月22日の米紙ワシントン・ポストの記事は《北朝鮮側が米国当局に対し、シンガポール滞在中の正恩委員長の身の安全を保障するよう求めている》と、さらに踏み込んだ見方を示しているほどだ。
 「正恩委員長がクーデター勃発を恐れるのは当然でしょう。複数回も会談を行えば、それだけ国内蜂起のチャンスも増えますからね」(国際ジャーナリスト)

 北朝鮮が核実験場の廃棄時に肝心要の国際監視団の立ち会いを認めなかったことや、軍の複数のトップを対米強硬派から穏健派に人事移行していることについて、トランプ政権は非核化への意欲を「カムフラージュしているのではないか」との警戒心を隠していない。
 ところが、そのトランプ大統領の方も似たり寄ったりで、本音がどこにあるのか測りかねる発言が相次いでいる。
 「昨年9月の国連演説では、北の非人道的行為を列挙し『日本人の13歳の少女(横田めぐみさん)を拉致した』ことや正恩委員長の異母兄・金正男氏の暗殺にも触れ、北朝鮮を『ならず者政権』と批判しただけでなく、同年11月の韓国国会演説では、『北は個人崇拝の徹底したカルト国家だ』と非難し、独裁体制下で進む人権侵害の実態を訴えるのに、約35分間の演説のうち10分近くを割くなど、北の人権問題を徹底的に非難しています。米国は歴史上、かつての日本帝国主義や独裁国家の体制保障を一度たりとも約束したことはありません。このような猛烈な北朝鮮の体制批判を繰り広げた張本人が、前言を覆し、北の体制を保障するとは一体どういうことなのでしょう」(同)

 北朝鮮側が求める具体的な体制保障は、虫のよすぎるものばかりだ。
 「北朝鮮の金桂寛第1外務次官は5月16日、自国の非核化の先決条件として(1)米国の核戦略兵器の韓国からの撤退、(2)米韓合同軍事演習における核戦略兵器展開の中止、(3)通常兵器および核兵器で攻撃しないという保障、(4)停戦協定の平和協定への転換、(5)米朝の国交正常化の5つを挙げています。身勝手にも程がありますが、一方のトランプ政権側は、まず北の核兵器放棄、次に米国が北の体制保障を実施、最後に制裁解除です。問題は体制保障で、北が核放棄に応じたとして、トランプ大統領はこれまで、『TPP離脱』『パリ協定離脱』『イラン核合意離脱』などの合意を何の躊躇もなく破り、その理由を『前任者(オバマ前大統領)がやったこと』で片付けています。これでは、たとえトランプ大統領との間でディール(取引)が成立したとしても、正恩委員長側は『トランプ大統領は再選さえ果たしてしまえば、合意を反故にするのではないか』という疑念を抱くでしょうね」(元大手紙ソウル特派員)

 そうは言っても“商売人”の2人だ。正恩委員長は米国に対し核放棄をできるだけ「高く売りつけたい」と考えているだろうし、さらには体制の維持をどの国の誰が“引き継いで”保障してくれるのか、経済支援はどれだけ受けられるのかなど、核放棄と引き替えに手前勝手な条件を繰り出してくるだろう。
 一方、トランプ大統領の頭の中は、いかに身銭を切らずにノーベル平和賞を取るかの算段でいっぱいなのかもしれない。

 「カネはこいつが出す」
 名指しを受ける日本は、このキツネとタヌキの化かし合いを、ただ見ているだけでは済まない。

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