“攻める”西野朗監督、“半端ない”大迫勇也…サッカーワールドカップ「奇跡の勝利」全舞台裏

日刊大衆

“攻める”西野朗監督、“半端ない”大迫勇也…サッカーワールドカップ「奇跡の勝利」全舞台裏

 前回のブラジル大会で大敗を喫した格上コロンビアを撃破し、下馬評を覆した日本代表。勝利の要因とは!?

 暑さに見舞われた6月20日のロシア、サランスク。天気予報にはなかった“神風”を突如吹かせたのは、青いユニフォームだった。大迫勇也。一見、華奢にも見える背番号15が、前半3分、屈強なコロンビアDFの間をスルスルと抜け出た瞬間、勝負は決まった。大迫のシュートはGKに弾かれるも、香川真司が足を振り抜く。たまらず手を使ってボールを止めてしまったコロンビア選手を待っていたのは、PKとレッドカードだった。

 日本代表の元10番で元ベガルタ仙台の岩本輝雄氏、元日本代表で浦和レッズのストライカーだった福田正博氏、ロシアでW杯取材にあたる『週刊サッカーダイジェスト』元編集長、六川亨氏のいずれもが、“勝利の分岐点”と話す場面だ。「西野朗監督が試合前に話していた“リアクションになるだけにはしたくない”“自分たちからアクションを”の姿勢が先制点に生きましたね。格上の相手に守備的に戦う選択もあった中で、あえて攻撃的な特徴が強い選手、つまり香川選手や柴崎岳選手、乾貴士選手を並べてきた。西野監督からチーム全体への“攻めるぞ”という意識の共有ができたと思います」(福田氏)

 残りの87分間、日本は人数と得点で「1」ずつ優位を生かし、2-1の勝利を得た。この勝利は、W杯でアジア勢が初めて南米勢を破り、日本代表にとって初のヨーロッパでのW杯勝利と、“初めて尽くし”だった。序盤の積極的な姿勢で得たものは、大きかったと言えよう。

 戦前、日本を覆っていたのは“負けて当然”という厳しい空気。本番2か月前という異例の時期に監督交代劇に踏み切ったのも、強い危機感からだった。

 とはいえ、それすらすぐに「失策」の烙印を押されてしまう。西野ジャパンの初陣である5月31日のガーナ戦で、まさかの完封負け。ジーコ監督以来5年ぶりの3バック導入も、W杯に出場できないガーナを相手に機能せず。その後、6月8日のスイス戦で元の4バックに戻すも完封負け。12日のパラグアイ戦で、W杯不出場国の若手主体チームに勝つのがやっとだった。

 しかし、前出の岩本氏は、この時点で勝利への道筋はできていたと話す。「周囲からは方針が二転三転したように見えたかもしれないけど、あれは西野さんが一つ一つ確認していった、勝利への“作業”なんだよね。3バックは、ここに問題がある、4バックだと、これが問題だってね。練習試合で勝利だけを求めることもできたけど、結局は本番で勝たなければ意味がない。“試行”に、あの3試合を使ったということ」

 さらに、「結果論の部分もあるけど」と前置きしたうえで、こうも話す。「あの3試合で日本代表の“姿”が見えなかったことは、プラスに動いたんじゃないかな。ベールに包まれて、どんなチームか分からないというのは、相手チームとしてはイヤだと思うよ」

■コロンビア戦の結果は奇跡でも内容は順当

 初戦に照準を――これを裏づけるように、右サイドバックで先発した酒井宏樹は試合後、「監督と話していて、コロンビア戦に100%になるようにできた」と明かしている。実は、この発言、もう一つの“勝利の要因”を示唆している。それは、コミュニケーションの問題だ。日本サッカー協会が、前任者であるハリル監督の解任理由として真っ先に挙げたのが、選手とのコミュニケーション不足だった。「ハリルは長谷部誠川島永嗣などベテランと相談することはあっても、それ以外の選手には自分の要求に応じるよう求めました。一方、西野監督はVTRを見せた後に、選手から意見や感想を求めるなど、対話を重視しています」(六川氏)

 それが、本番でも生きた。「コロンビアの選手が試合開始後すぐに退場したことで、日本代表は逆にバランスを崩しましたが、後半はそこを修正していました。これは、ハーフタイムに混乱を整理し、意思統一したからでしょう。日本人を熟知し、コミュニケーションを重視する西野監督だからできたんです」(福田氏)

 いかに混乱していたかは、酒井と昌子源のDF2人が、退場する相手選手の動きを見て、「あいつ何で外に行ったん?」とやり取りしたことにも表れている。それを、指揮官は修正してみせた。

 もう一つ、「日本人が苦手な部分を求めた」(福田氏)ハリルとは真逆だった西野監督の特徴がある。「選手の良い部分を最大限、生かそうとしました。これによって個々人の成功体験が多くなり、ひいては自信につながりました」(前同) 敵将ペケルマン監督が「日本は自信を持ってプレーしていた」と脱帽したのも、必然の結果だったのだ。

 もちろん、個人個人の努力も忘れてはいけない。“半端ない”活躍だった大迫は、このW杯のために、専属トレーナーとともに筋肉バランスから呼吸法まで見直した。日常生活でも、温度管理したという。先制PKを決めた香川は、この4年間、血中乳酸値や心拍数を毎日欠かさず計測。自宅には酸素カプセルを設置する入念さだった。

 1996年、ブラジル相手に大金星を挙げた“マイアミの奇跡”を起こした西野監督だが、六川氏が「マイアミではボールを支配され、一方的に攻め込まれたのを川口能活の奇跡的なセーブの連発から勝利に結びつけた。今回は、結果は奇跡でも内容は順当」と話すのも、けして誇張ではない。そもそも、コロンビア撃破を「奇跡」と記者に言われた西野監督自身が、「小っちゃい(奇跡)です」と言い切っている。

■岩本輝雄の予想はポーランドを完封!

 そんな西野朗とは、どんな男なのか。大好物のとろろをロシアの地にまで持参した、この策略家をひも解くうえで、関係者が口をそろえるキーワードがある。それは、意思の強さと“攻撃”への強い執着心だ。「マイアミの奇跡に対する当時のサッカー協会の西野監督への評価は低かった。その反骨心が、攻撃的な“西野サッカー”につながっていると思われます。長く務めたG大阪の監督時代、『守備的』という言葉を使われると反発するなど、この言葉に非常にセンシティブでした。積極的に攻め、運も引き寄せたコロンビア戦の布石は、このときからあったと言えます」(福田氏)

 また、選手に対しては自主性と対話を重視し、元ベガルタ仙台監督・手倉森誠と元ベガルタ仙台主将・森保一という両コーチを起用しているのは、その象徴だ。「2人とも人間性に優れている。手倉森コーチは仙台の躍進が象徴するように、選手の気持ちを持ち上げる稀代のモチベーター。森保コーチは常に冷静で、どんな相手もリスペクトして接するから、みんながついていく。2人の“ベガルタOB”がチームの団結力を高めている」(岩本氏)

 コロンビア戦後、岩本氏は森保コーチに電話したという。2人はベガルタ仙台のかつてのエースと主将という間柄で、森保コーチを愛称の“ポイチ”と呼ぶ。「ポイチは全然興奮していなくて、至って冷静に、日本代表は“もっともっと良くなる”と言っていた。その言葉を信じているよ」

 小誌前号でコロンビア戦のスコアを見事に当てた岩本氏は、「ポーランド戦は1-0で勝つ。そして、日本初のベスト8まで行く」と鼻息も荒い。

 予選突破、そして未踏の領域へ。その鍵となるのが、一体感とセットプレーだ。「短期決戦では、勝つことでチームの一体感がさらに生まれ、そして、それが驚くような力を生む」(前同)

 そして、日本代表が初戦で挙げた2得点がそうであるように、「今大会はセットプレーからの得点が非常に多くなっている」(福田氏)「CKからの大迫の決勝弾は、それまで柴崎が蹴っていた速いボールとは違って、本田が入れた緩めのボールが相手守備陣のタイミングをズラしたことが大きい。流れに関係なく得点できるセットプレーだけに、西野さんも策を練って準備しているはず」(岩本氏)

 ロシアで旋風を巻き起こしたサムライブルー。奇跡の神話はまだ終わらない。

「“攻める”西野朗監督、“半端ない”大迫勇也…サッカーワールドカップ「奇跡の勝利」全舞台裏」のページです。デイリーニュースオンラインは、柴崎岳大迫勇也香川真司岩本輝雄ワールドカップスポーツなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る