遺伝子発現をチューニングし、必要に応じて体の防衛機能を高めようとする研究(DARPA:米国防高等研究計画局)
ワクチンから薬物中毒の抗体まで、現代の医学薬学は健康被害から私たちを守るさまざまなツールを提供してきた。
だが一時的にはどうだろうか? 遺伝子コードを変えることなく、必要に応じて体の防衛力を高めるなどということが可能だろうか?
遠い未来のことの話にも聞こえるが、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)の新しいプログラムはまさにそれを目指すものだ。
同プログラムは、一時的に遺伝子発現を”チューニング”することで、生物学的・化学的脅威から人々を守る方法を探求する。
つまり、遺伝子のオンとオフをチューニングすることで、健康の害に対する体の防衛力を強化しようというのだ。
・体の防衛機能を調整するPREPAREプログラム
人体はすでに健康の害に対する一定レベルの防衛力を備えており、それはDNAに書き込まれている。しかし、こうした防衛力は絶対に十分というわけでもない。
例えば、免疫系がウイルスと戦おうとしているというのに、インフルエンザで体調を崩すことはあるだろう。
「人体はおどろくほど回復力に富んでいます。細胞の一つ一つが、健康への脅威に対して一定レベルの回復力を発揮するようコードした遺伝子を持っているのです。ですが、そうした内蔵型防衛機構はいつでも十分に素早くかつ強力に発現するわけではありません」とDARPAの「PREPARE(PReemptive Expression of Protective Alleles and Response Elements)」プログラムのレネ・ヴェグジン氏は述べている。
「PREPAREは、ゲノムに恒久的な編集を加えることなく、(脅威への)曝露前あるいは後に一時的なブーストを与えることで、生まれつき備わっている防衛力をサポートする方法を研究します」

・遺伝子の発現を制御するシステム「エピゲノム」をターゲットに
CRISPRといった恒久的にゲノムを変化させてしまう最近の遺伝子編集技術とは対照的に、PREPAREプログラムはそうした変更をDNAに起こさない技法に特化する。
それは”エピゲノム”、つまり遺伝子の発現を制御するシステムをターゲットとする。遺伝子は、DNA配列に変更を加えずとも、遺伝子を読み込む細胞を操作するように外部からの修正を加えることで、オンとオフを調整することができる。

・まずは4つの健康問題に挑む
手始めに、PREPAREプログラムは四つの健康問題に挑む。インフルエンザ、オピオイドの過剰摂取、有機リン酸エステル中毒(殺虫剤や神経作用剤に由来する化学物質)、ガンマ線への曝露だ。
これを成功させるにはいくつものハードルを乗り越えなければならない。
まず一つは、これらの健康の害に対して防衛力を発揮してくれる遺伝子を特定すること。二つに、それらの遺伝子ターゲットをチューニングする技術を開発すること。そして最後に、その技術をアメリカ食品医薬品局の基準・規制に適応させることだ。
PREPAREプログラムは最初は特定の健康被害に集中するが、最終的に目指すのは、新たに出現する健康への脅威に応用可能な共通のプラットフォームを開発することだという。
また倫理の専門家とも協力して、この技術によって生じるかもしれない倫理的・法的・社会的問題の特定も行われる。
References:.darpa / livescience/ written by hiroching / edited by parumo
病気は治療する時代から予防する時代、そして防衛機能を高める時代へと変化していきそうだ。先に軍による研究開発したものが、やがて民間レベルに降りてきて浸透していくという過程を、この研究もたどることになるのだろうか?