未だに定期的に流行する地域も。ペストに関する知られざる5つの事実

カラパイア

未だに定期的に流行する地域も。ペストに関する知られざる5つの事実
未だに定期的に流行する地域も。ペストに関する知られざる5つの事実


 ヒトの体にペスト菌が感染することにより発症する伝染病「ペスト」は元々齧歯類(特にクマネズミ)に流行した病気で、人間、齧歯類以外に、猿、兎、猫などにも感染する。

 かつては高い致死性を持っていたことや罹患すると皮膚が黒くなることから黒死病とも呼ばれ恐れられていた。特に14世紀の大流行は、世界人口を4億5000万人から3億5000万人にまで減少させたも言われている。

 完全に過去の出来事だと思っているかもしれないが、あの伝染病は決して滅びることはない。現代でもまだまだ健在だ。

 もし知らないとしたら、あなたはペスト菌が隠れ棲んでいる地域には住んでいないからだろう。そうした国は確かにそれほど多くはないが、アメリカを含め、いまだにこの伝染病が広がる地域はある。

 おそらくほとんどの人は知らないだろう。ペストの知られざる事実をいくつかあげてみよう。

・アメリカでは年間1~17人がペストにかかる

1_e0
1914年から1920年の間、ときどき発生していたペスト。ネズミよけ対策をとったニューオリンズの建物

 毎年、1~17人のアメリカ人がペストにかかるが、その80%以上がリンパ節が冒されるは腺ペストだ。

 腺ペストはリンパ腺が腫れ、醜い壊疽を生じる。進行すると、肺ペストと呼ばれる別のタイプのペストになる可能性がある。

 これは、胸の痛み、息切れ、血の混じった粘液を生じる肺感染症だ。肺ペストは、咳による粘液の飛沫で感染するため、人から人へ広がりやすい。あるいは、エルシニア・ペスティス(ペスト菌)を媒介するノミに噛まれることで感染する。

2_e
疾病管理センター(CDC)が示すペストが発生した郡の地図

 ペストにかかるとこれ以上、進行しないうちに抗生物質を投与されるのが通例だ。だが、いったいどうして、現代でもわたしたちはいまだにペストに感染するのだろう? 

 地方ではネズミがペスト菌を媒介することが多いので、捕獲して駆除しなくてはならない地域はたくさんある。

 ニューメキシコ北部、アリゾナ北部、コロラド南部は、アメリカの中でもペスト菌が棲息している割合が高い地域のようだが、カリフォルニア全土、オレゴン、ワシントン、ユタ、ネヴァダの一部、アイダホ、モンタナ、ワイオミングでも発生している。


・アメリカ都市部で最後にペストが大流行したのはロサンゼルス

 1924年10月30日、51歳のジーザス・ルハンが感染した。数日前に、彼は自宅の下から死んだネズミを回収して処理したらしい。

 彼がロスでの肺ペスト患者第一号になり、それから2週間で、近所のオルヴェラ・ストリートの隣人だけで30人が感染した。

 影響が出たブロックは、ペストがさらに広がるのを防ぐために隔離しなくてはならなかった。大流行が始まるまで、この病気がたちの悪い肺炎どころではないことを報道したロスの新聞はひとつもなかった。

3_e0
大量駆除の後、死んだリスのそばに座る男性

 これは人間を一気に根こぎにしかねないほどの大流行だった。14世紀、最初の黒死病はヨーロッパの人口の60%を死に至らしめた。

 衛生当局は、隔離によってなんとかしてカリフォルニアの大流行を封じ込めようとしたが、やったことはおもにネズミ類の一斉撲滅を法制化したことだ。彼らを捕えて毒殺する人材を雇い、建物にネズミを寄りつかないようにし、石油系のスプレーで各家庭を消毒した。

 地域ごとにネズミ、リスなどあらゆる齧歯類を捕獲し、ロスのダウンタウンやビバリーヒルズでも見つかったペスト菌を媒介するこれらの動物を徹底的に駆除した。ネズミが見つかった港をしばらく閉鎖することもあった。


・いまだにマダガスカルではペストが定期的に流行する

 現在、世界のペストのほとんどは、マダガスカル島で発生している。この国では定期的に発生していて、一番最近では、2017年8月から11月の間の流行で、2348人が感染し202人が死んだ。感染は首都アンタナナリヴォやその他の都市にまで広がり、急速に患者が増えたのは異常だった。


Madagascar plague

 この国ではたいてい雨季の間に地方で小規模な発生がある程度なのだが、このケースの場合、31歳の男性が感染したまま、あちこち旅をして動き回ったため、たくさんの人と接触し、31人が感染するはめになった。

 ロサンゼルスタイムスの報道によると、この男性は自分はマラリア(蚊によって媒介され、似たような症状が出る)に感染したのだと思い、ほかの人にうつす危険性をそれほど警戒しなかったらしい。


・冷戦時代、ペスト菌は兵器として利用された

 アメリカも旧ソ連も、冷戦中ペスト菌を兵器化することを検討したが、ペスト菌を噴霧化するという恐ろしい方法を研究するところまでいっていたのはソ連だった。都市の上空から微粒子化したペスト菌を散布して病気を蔓延させようというのだ。

 50キログラムのペスト菌を500万都市の上空で放つと、15万人が感染し、3万6000人が死ぬという。これは都市の中だけの見積もり数だが、市民は感染を避けようと町を脱げ出そうとする可能性が高く、さらに感染は広がると思われる。

iStock-682063892_e

 アメリカは、兵器として使えるほど十分なペスト菌をあえて作ろうとはしなかったが、今日でも、誰かがペスト菌を生物テロの手段として使った場合の手はずは考えている。


・ペスト菌が本当に恐ろしいのはなかなか死なないこと

4_e
ペストによって死屍累々となった街を描いたヨーロッパの絵画

 何世紀にもわたって人類の文明の中にうまいことはびこっているのに、ペスト菌は宿主の体の外では1時間以上生き続けることはできない。

 温度には低くても高くても耐性があるが、太陽光にはけっこう敏感で、基本的に長いこと居座られるとほとんどの生物は死んでしまう。

 病原体として成功するには、いかにノミの体内で生き残ることができるか、そのノミが齧歯類の体で生き延びることができるかにかかっている。

 実際にこれが、現代でもわたしたちのまわりからペスト菌が消滅しない理由だ。

 1860年代に始まった、中国での深刻な大流行は、1894年までに香港へ広がった。そこから、ペスト菌は船に乗って世界中の港町へとわたっていった。

ついには、アメリカ西海岸の町へと上陸。都市でのペスト菌はすぐに根絶されたが、ネズミを封じるのは至難の業だった。

 ネズミとリスを介して、ペスト菌は地方へと広がり、1世紀以上にわたって、はびこったのだ。

 アメリカでの小型哺乳類の大量根絶がなければ、わたしたちは永遠にペスト菌の脅威にさらされただろう。しかし、ペスト菌を避けられる勝算はかなり高い。

iStock-888202890_e
References:latimes / ncbi / popsci/ written by konohazuku / edited by parumo
「未だに定期的に流行する地域も。ペストに関する知られざる5つの事実」のページです。デイリーニュースオンラインは、カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧