「外見40点の女」でも男心をつかめる魔法の言葉
前回のお話はこちら
外見80点のあい子が参加した合コンは、格下だと思っていた薫に振り回されはじめます。
仕切り屋の鳩が、「じゃあさ、女の子たちは芸能人でいうと誰がタイプ?」という十八番の質問をかましてきた。鳩、よくやった。この際連絡先交換するのは鳩でもいいな。よく見りゃ、キレイな二重だし、将来ハゲる心配のない髪質だ。
由美は、間髪入れずに「ケンドーコバヤシ!」と答える。
うーん。悪くはないが、ちょっと奇をてらいすぎ。たいていの男はあそこまで笑いのセンスが巧みじゃない。どんな男にもスベらない話を要求する女に思われる危険性アリ。
酒に弱い由美は体をクネクネしながら、「別にデブ専じゃないもーん!」と笑っている。友だちとして申し訳ないが、シャンとせい!! と言いたくなるほど酔っ払ってきた由美。今日は別にお持ち帰りされてもいいと思ってるのだろうか。
鳩が私に緊張した面持ちで、「あい子ちゃんは?」と聞く。
「私は特別好きな芸能人とかいないんだけど、強いて言うと大泉洋さんかなぁ」
大泉洋。好きなタイプの芸能人の答えとして、これ以上の正解ってある? ねえ、あります? 超絶イケメンじゃなくて、でもケンコバより狙いすぎてないし、明るくておもしろいけど、笑いのプロでもない。明るくて優しければ、外見はそこまでこだわりませんというアピールにもってこいなんだよ、大泉洋。生まれてきてくれてありがとう。
「なるほどね~。あい子ちゃんはああいう人が好きなんだぁ。向井理とか言うかと思った!」
サッカー部がはじめて私に笑顔を向ける。あ、やっぱこっちのほうが鳩より全然カッコいいな。薫がトイレ行ってる間に、シレっと隣に座りたい。薫、トイレ行け、まじで。
「はい! 私は絶対に絶対に、ジョージ・クルーニー」
薫は手を上げて元気よく発言。本当に元気だなあ……。その麻のシャツのポッケから元気玉くれそう。
「え、めっちゃ年上のおっさんじゃね?」
サッカー部の発言に、薫はビールを飲み干してゆっくり彼の目を見た。少し目がトロンとしている。かすかに頬が熱を帯びていて赤い。赤ちゃんのようなほっぺだ。
「彼はね、スーツを着てただそこに立ってるだけで、世界で一番セクシーな男なの」
まずい……。薫の顔が完全に一瞬女だった。
サッカー部のドキドキしている鼓動がこちらに聞こえてくるようだった。男友だちみたいな女の子の一瞬のエロス。なにこれ、魔法? ジョージのクルーニーって魔法?
そこから薫は、ジョージ・クルーニーはああ見えて人道的活動に熱心で人格者であること、独身貴族の遊び人だったけど最後は知的な弁護士の女性を選んで結婚したことなど、男としてのジョージ・クルーニーの魅力をイキイキと話した。
そしてその様子を全員の男が、さっきまでとはちがう目で聞いている。饒舌で知的でユーモアもあるこの魅力的な女の子のコロコロを変わる表情を一生懸命見つめていた。
一瞬も見逃したくないというような熱量で。
完敗。早くこの場から立ち去りたくてたまらない。酒に酔った由美はこの状況を理解できず、この前私と行ったハワイの様子をインスタグラムで見せている。いや、もう全員それどうでもいいから!! 私と由美のインスタ映えだけの目的で行った旅行とかパンケーキの写真とか見せられても絶対興味ないから!
ワイキキよりエジプトの圧勝なんだよ、由美。私たちのキラキラしてるけど薄っぺらいインスタグラムなんかより、薫のエジプトでラクダに乗った男に追いかけられた話のほうがおもしろいに決まってる。
私は、ジョージ・クルーニーさえ知らない。映画スターらしいが、普段そんな映画観ないし、観るとしたら超絶タイプな向井理が出てるやつくらい。よくわかったな、サッカー部よ。私は向井理の顔が好きで好きで仕方ないんだよ、すみませんねえ、わかりやすくて。
でも私が薫との差を一番感じるのは、この画像検索に出てきたジョージ・クルーニーとやらをどれだけ眺めてみても、私にはこの人がただの外国のおじさんにしか見えないのだ。ジョージ・クルーニーのセクシーさがわからない。それが私にとって、なぜか一番屈辱的なのだ。
次回、女として格下だと思っていた薫の秘密を探ります。
次の更新は7月27日(金)です。
(文:桑野好絵/マイナビウーマン編集部、イラスト:黒猫まな子)