古代エジプトの秘密のミイラ工房が発見される。貴金属で飾られた仮面をつけたミイラも見つかる。
エジプトの砂漠サッカラの共同墓地で、これまで知られていなかった墓が発見された。
ここは、神官たちが遺体を埋葬するための前準備をしたミイラ製作の作業場だ。中央にある埋葬用の坑道は地下30メートルまで掘られている。
この坑道を降りていくと、たくさんの玄室が見つかり、木の棺が3つ、石灰岩の石棺がひとつ、ミイラ一体と死後の世界のための副葬品も出てきた。
・貴金属がほどこされた貴重な仮面を発見
発見されたものの中には、驚くべきものもあった。棺のひとつには、仮面をかぶったミイラが安置されていたが、その仮面には銀箔がほどこされていて、目の部分には方解石、黒曜石、オニキスになるブラックストーンがはめこまれていた。
このタイプの仮面は、1939年以来、見つかっていない。
image credit:Ramadan B. Hussein/University of Tubingen
「この仮面の発見は、衝撃的と言っていいでしょう」チュービンゲン大学の考古学者で、ドイツ・エジプト合同発掘チームのラマダン・バドリー・フセインは言う。
「貴金属がほどこされた仮面が今日まで残っているのはとても珍しい。古代エジプトの高位の人物の墓のほとんどは盗掘されてしまっているからです」
・ミイラの身元は?
発掘チームは、この仮面の人物の身元はとりあえず特定することができた。彼は地母神ムトの第二神官で、ムトがヘビの姿になって現われた女神Niut-shaesの神官でもあり、紀元前664年から404年の第26王朝サイス・ペルシア時代の人物だ。
しかし、彼の名前が書かれていた色のついた漆喰は壊れてしまい、破片は消失している。チームはこの神官の名前には創造者の女神ネイトの名前が含まれていることだけは確認できた。
image credit:Ramadan B. Hussein/University of Tubingen
・ミイラを作るための工房を発見
この墓地はいくつかの埋葬用坑穴から成っていて、そのうちのひとつで、泥とレンガと石灰岩のブロックでできた建造物の遺構が発見された。
ここは、神官たちが埋葬の前に遺体をミイラ化した場所であることが確認できた。
玄室のひとつ image credit:Ministry of Antiquities
ここには傾斜面でつながったふたつの大きな盆状の区域があり、どうやらふたつの目的のために使われたようだ。
ひとつは天然塩をベースとした乾燥剤ナトロンを使って遺体を乾燥させるため、もうひとつは遺体を巻く麻の包帯を準備するためだ。
・遺体の防腐処理に使用されていた道具も発見
地下室のような場所で見つかった壺には、計量カップのようなものや、遺体の防腐処理に使ったオイルの名が記された鉢もあった。
「わたしたちは、情報の金鉱の前に立っているようなものです」フセインは言う。「これは非常に重要なものです。回収したオイルや計量カップなど、すべてにラベルがついていました。ここから、オイルの化学成分がわかり、これがなんであるかがわかるのです」
墓からは、雪花石膏でできたカノープスの壺がいくつも発見された。これは、古代エジプト人が死者をミイラ化する過程でその内臓をおさめたものだ。
玄室から回収されたカノープスの壺 image credit:Ministry of Antiquities
さらにウシャブティという死者に仕える小立像の副葬品も見つかった。ファヤンス焼きという彩色を施された陶器でできていて、錫のうわぐすりが塗られている。
チームは最先端の写真測量技術や3Dレーザースキャンを使って、基岩から刻り出されたシャフトの形状を詳細に記録した。さらに、そこで見つかったすべての人工物に対して3Dレーザースキャンを行った。
image credit:Ramadan B. Hussein/University of Tubingen
さらに発掘を進めれば、もっと胸躍るような発見が期待できそうだ。銀箔の仮面をかぶった人物の名前もはっきりわかるかもしれない。
References:uni-tuebingen / egypttoday/ written by konohazuku / edited by parumo