生きることを放棄する。スウェーデンで発生している「あきらめ症候群」の子供たち
スウェーデンで、大勢の子供たちが、奇妙な症状に悩まされているという。
それは「あきらめ症候群」または「生存放棄症候群」と呼ばれており、子供たちは無気力に陥り、食べることも、話すことも、目を開けることすらしなくなるという。更には昏睡状態のように、何年も寝たきりになる子もいる。
この症候群は20年前からスウェーデンでのみ発生しており、そのほとんどは亡命を望んでいる難民の子供たちであるという。
・身体的な異常はなく、生きる気力を失う「あきらめ症候群」
こうした状態は、なんらかの事故、神経系疾患の一種とも考えられるが、「あきらめ症候群」の子どもたちは、身体的にはどこも悪いところはない。
生きる意欲を失っているだけなのだ。スウェーデン語で“uppgivenhetssyndrom”として知られるこの症状は、難民の子どもだちに多く発生することから、亡命申請を却下されたストレスや失望と関係していると考えられている。

・子供にとっては耐えがたい精神的ストレス
近年、亡命を取り巻く規制が厳しくなり、実際に戦闘地域になっている場所から逃げてきたのではない難民は、申請を却下される傾向が強い。
例え却下されるにしても、それが決まるまでに何年もかかる場合もあり、難民の家族はどっちつかずの状態で捨ておかれる。
子どもたちにとって、亡命できないという現実の重みは耐え難いものだ。
それを受け止めきれずに、すべてを完全にシャットアウトして殻にこもり、まるで生と死の狭間にいるように、生きているのに活動しない昏睡状態に陥るのではと言われている。
Resignation Syndrome - AJ+
・東ヨーロッパの子供たちだけに見られる傾向
医師たちは研究を続けていて、こうした状態は東ヨーロッパからやってきた難民の子どもたちだけに見られる傾向があることに気づいた。
彼らは"全体主義"的な社会からやってきていることが多く、こうした社会は、個人よりも家族やもっと大きな社会のニーズを重要視する。
スウェーデン政府の報告は、症状がみられる子どもたちは、彼らの文化の暗黙のルールに従って行動しているのかもしれない、と言っている。
子どもたちは、おそらく無意識のうちに、家族を救うために、生きることを諦めるよう、心に決めているのだというのだ。明確な治療法はないため、心理学者はこの問題に効果的に取り組む唯一の方法は、永住権の保障を与えることだと言っている。

・海の底に置かれたガラスの箱の中に横たわっているような感覚
数ヶ月、寝た切りで過ごしたある子どもは、この状態を、海の底に置かれたガラスの箱の中に横たわっているような感覚だと語った。動いたり話したりしたら、ガラスが壊れて、溺れてしまうと思い込んでいたというのだ。
この症状については、いまだに完全には解明されていない。子どもたちはそのまま昏睡状態にしておくべきだと言う専門家もいれば、逆のことを言う人もいる。
医師のカール・サリンは言う。「子どもたちに希望を与えるその他の方法は、彼らを適切に扱うことであって、9ヶ月もの間、鼻からチューブを入れたまま、寝たきりにさせておくことではない」
・スウェーデンではあきらめ症候群の子供たちに特別措置を
この奇妙な症状のニュースは、全国で反響を呼んだ。それに対して、スウェーデン政府は、「あきらめ症候群」の子どもたちを元の国へ強制送還するようなことは決してしないと約束した。
Coma post-traumatique en Suede
・特殊な環境と文化の違いで起きる精神疾患
「あきらめ症候群」はあまりにも特異なので疾患として本当かどうか、懐疑的な人もいるが、実際には、非常に特殊な文化や社会環境のもとでのみ発生するようにみえる。
文化や環境の違いにより発生する精神疾患の例は数多くある。例えば、日本人がフランスの首都を訪れたときに起こる「パリ症候群」がよく知られている。
日本人が憧れるパリのイメージと現実との極端なギャップのせいで、自我喪失や幻覚、頻脈、嘔吐などのショック症状が現われる。
・日本人が陥りやすい「パリ症候群」とは? : カラパイア
まだ完全に解明されていないとはいえ、「あきらめ症候群」は科学者と医師両方によって徹底的に研究、観察されている。
・防衛本能の一種なのか?
この症状は確かに現実のことであり、非常に深刻な健康状態であるのは、誰もが納得している。強制送還を逃れるための単なる策略だとして一蹴してしまうのは簡単だが、科学的な証拠もあるという。
「子どもたちが陥っている無気力状態は、一種の防御の形だと思います」というのは、この症候群の例をいくつも見てきた医師のエリザベス・ハルトクランツだ。「子どもたちはいわば白雪姫です。世界から離脱しているだけなのです」
References:newyorker / bbc/ written by konohazuku / edited by parumo