創作のモチベーションは「知りたい気持ち」村田沙耶香・新刊『地球星人』を語る(2) (2/3ページ)
村田:単純に小説を書くのが好きですし、書くことで何かを知ることができると思っています。よく私の小説は怒りが原動力になっているんじゃないかと言われるのですが、そんなことはなくて、書くことで何かを知りたいという気持ちの方が大きいです。その気持ちがモチベーションかもしれません。
子どもの頃、大人はうわべの美しい世界に惑わされて本当のことをしゃべらないんだと思っていたのですが、図書館に行って本を読むと、そうではない言葉がありました。多分、うわべの言葉ではない、本当の真実のようなものが小説の中にはあるとどこかで信じているんだと思います。そういう真実を読むことだけではなくて書くことでも知ることができるんじゃないかという気持ちですね。
――今回の作品ではどんな発見がありましたか?村田:書きながら、私たちのことでもある「地球星人」という生き物の外側に出るのは本当に難しいなと思っていました。ただ、作中に「ポハピピンポボピア星人」という宇宙人の視点を入れているのですが、その目線で地球星人を見るとものすごく変な生き物に映ります。地球星人のそういう奇妙な性質が改めて愛しいなと思えるようになりました。前よりも人間が好きになったと思います。
――「ポハピピンポボピア星人」から見た「地球星人」の描写は、社会の中の同調圧力や「自分と同じではない人」への不寛容さなど、人間や人間社会のネガティブな側面として語られることが多い部分です。それを好きになった。村田:そうですね。画一的に洗脳されているような感じがすごく好きです。つくづくおもしろい生き物だと思っています。
――こうした描写は、先ほどの言葉を借りるなら地球星人(人間社会)への「怒り」からくるものかと思っていましたが、そうではなかったんですね。村田:基本的には怒っていることはほとんどありませんし、自分の作品は怒りが原動力になっているわけでもありません。人間はおもしろいな、かわいい生き物だなと思っています。
作中で奈月が受けているような性的被害に対してはすごく怒りを感じるのですが、登場人物は作者の感情を発散する道具ではありません。