小説家がおすすめする小説はおもしろいに決まってる (3/3ページ)
■『チボの狂宴』(マリオ・バルガス・リョサ著、作品社刊)

この本を教えてくれたのは吉田修一さんです。ドミニカに実在したラファエル・トルヒーリョという独裁者の暗殺とその後の軍主導のクーデターが起きた一日を書いた小説でして、割と時系列に沿って記録風に書かれているので長いわりにさらっと読めます。
独裁者が死んだことでできる「権力の空白」についての記述が生々しくて僕は好きです。
暗殺によるクーデターって独裁者を殺した時点ではまだ成功とは言えないんですよね。
クーデター首謀者だと思っているのは自分だけで、実は知らないところで「あいつに独裁者を殺させて、その後で殺してやろう」という計画が走っていない保証はどこにもない。協力者たちは「もしかして事態がうまく転んだら自分が大統領になれちゃうんじゃないの?」あるいは「手伝うだけ手伝わせて、成功したら粛清する気なんじゃないか」と考える。だから独裁者が殺された直後というのが最も不安定で危険な時間なわけです。
権力者が消えた瞬間に、国家の最高権力はクーデター関係者誰もにとって手が届くものに思える。じゃあ権力を権力たらしめていたものとは一体何なのか?『チボの狂宴』は、我々が普段自覚することの少ない「権力と国家の虚構性」を書いた小説だと言えます。
今回は3作ほど紹介しましたが、インタビューで教えてもらって読んだ本でおもしろかったものはまだまだあります。
またいつか紹介するかもしれません。
ではではまた。