西武影のMVP 山賊打線を編成した鉄道マンと阪神・金本監督

週刊実話

 西武ライオンズ、'08年以来のリーグ優勝―。勝因は色々とある。だが、「影のMVP」と呼ばれているのが鉄道マンと、阪神・金本知憲監督なのだ。

 去る9月29日、4番の山川穂高(26)をはじめ、西武ナインは「絶対優勝」と意気込んでホーム最終戦に臨んだが、リーグ優勝は札幌遠征に持ち越しとなった。同日の打線は散発7安打、1得点しか挙げられなかった。好機で「あと1本」が出なかったのが敗因だが、見方を変えれば、今季の勝因を再認識させられる一戦でもあった。

「辻発彦監督(59)は、そう簡単には優勝させてもらえないと分かっていたみたい。ここ5試合、好機での得点はすべて本塁打絡みだったので」(球界関係者)

 好機で一発。ここに、これまでとは違う「平成ライオンズ」のスタイルがある。

 '80年代黄金期の西武は、バントや右方向への進塁打で手堅く1点ずつを積み上げてきた。しかし、今の西武は、ビッグイニングを作る。このままいけば、パ・リーグ史上最強の記録も誕生しそうだ。

「故障と不振に喘いでいた中村剛也の復活が大きい。その中村が下位に座った打線は破壊力バツグン。対戦投手からすれば、どこからでも点が入るので、まさに脅威です」(スポーツライター・飯山満氏)

 4番・山川穂高の45本を筆頭に、1番の秋山翔吾が23本、浅村栄斗が30本、外崎修汰が18本、森友哉が16本、復活した中村剛也が28本。外崎と森が“大台”に届けば、「20×6」。20本塁打以上を放った選手を6人輩出すると、パ・リーグでは初の快挙となる(数字はすべて10月1日現在)。

 過去、セ・リーグでは2度あったが、パ・リーグでは5人止まり。まだ最終成績ではないが、今の西武打線は猛々しい破壊力から「山賊打線」とも呼ばれている。これが湾岸都市のDeNA、オリックスなら、海賊と呼ばれたかもしれない。
「試合前の打撃練習が独特なんです。他チームは1人が30本くらいずつ打って交代するんですが、西武では1人5球から8球。それを何回か、回すんです。試合での打席で投じられる投球数をイメージしているんです」(前出・飯山氏)

 かつては西武グループのホテルから出向してきた球団職員が多かった。一定の期間を勤め上げて元の職場に帰っていくのだが、最近の球団を仕切っているのは、鉄道マンだ。

「どちらが優れているという話ではありませんが、時間厳守の鉄道マンは中期規模でのビジネス計画を立てるのが巧く、コンプライアンスにも厳しい」(関係者)

 鉄道マンたちのドラフト戦略は、中期目標による先物取引でもあるようだ。

「菊池雄星のようなその年のドラフトの目玉を指名するときもあれば、高橋光成の一本釣りに成功した年もありました。高橋のときは事前に1位指名を表明しました。入札抽選の今のドラフト制度において、他球団との重複を嫌うチームは少なくありません。他球団を動揺させる作戦です」(同)

 先物取引でのいい例が、4番の山川を見れば分かる。「巨漢で守備難」となれば、普通の球団は指名を避ける。だが、西武は「入団後にもう一度育て直す」計画を立てる。「2、3年後に主力になれば」との発想だ。

「大学、社会人、下位指名の高校生だと、他球団は『もうしばらく様子を見てから』と敬遠します。高校、大学生なら次のステージでの活躍を見てから判断するわけですが、西武は『次のステージで活躍したら指名できないかも』と捉えるんです」(同)

 シニアディレクター兼編成部長となった渡辺久信元監督も、自ら地方に足を運んでいる。
「特にありがとうと言いたいのが、阪神の金本監督。まさか本当に、榎田大樹をくれるとは思わなかった」(前出・スポーツ紙記者)

 西武にとって唯一の弱点は左投手のコマ不足だった。先発では菊池ただ1人。「計画の立つ左腕を」と頭を悩ませていた序盤戦、金本阪神から「岡本洋介をくれ」とトレードが持ち込まれた。ダメモトで榎田を交換要員に希望したら“快諾”してくれたのだ。

「榎田は金本監督が就任した直後の'15年秋季キャンプで肉離れを起こし、その時点で『戦力外』と決め付けられてしまったんです。環境を変えてやれば大化けすると、どの球団もトレードを狙っていたのですが」(前出・関係者)

 今季の榎田は先発ローテーション入りし、2ケタ勝利を上げてみせた(10勝4敗)。交流戦での直接対決でも勝利している。「こっちが自滅したようなもの!」と金本監督はトラ打線の拙攻を口にしたが、西武関係者は裏でガッツポーズをしていたという。

 選手の適正を見極め、長い目で選手を育てる。鉄道ダイヤのようなチーム編成が、黄金期とは異なる獅子軍団を作り上げたのである。

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