フランス代表、復活の気配。ギラド主将とバスタローの「強い意志と絆」。

ラグビーリパブリック

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今年6月のニュージーランド戦で主将を務めたマチュー・バスタロー(Photo: Getty Images)

 フランス代表は昨年12月に成績不振のため、ギ・ノヴェスHCらコーチ陣を解任。今年の欧州6か国対抗戦では、アイルランド、スコットランド、ウェールズに僅差で敗れるも、イングランドに勝ち、やや「レ・ブルーらしさ」を取り戻したように思える。

 イングランドのエディー・ジョーンズHCに「4人目のバックロー」と言わせた運動量で、毎試合、文字通り体を張って、チームを引っ張ってきたキャプテンのギエム・ギラド。

 ノヴェスHC時代、なかなか代表でプレーする機会がなかったマチュー・バスタローは、「大人になって代表に帰ってきた」とフランスのメディアは報じている。ギラド不在時は、キャプテン代行も任された。ピッチ上ではエネルギーがほとばしり、こういうキャラクターの強いリーダーが必要だったのだと思わされた。

 昨年秋の日本代表戦(23-23)から、フランス代表がどのようにチームを再建しようとしているのか、ふたりが話してくれた。

――まず昨年11月の日本戦についてお伺いします。 日本代表には驚きましたか。

ギエム・ギラド(以下GG): 僕は驚かなかった。強いオーストラリアに負けはしたけど、30点とっていた。そんなチームだから、厳しい試合になるのもわかっていた。なのに僕たちは本当にひどいプレーをしてしまった。人工芝にも対応できなかった。日本のSH(流大)がこの日とてもよくて、信じられない速さでプレーしてきた。フランス代表の試合とはとても言えないくらいのひどい出来だった。

マチュー・バスタロー(以後MB): 他にも原因はあるよ。コーチ陣が変わるという噂があってメンタル面でもいろいろあった。いくらプロ選手と言っても、僕たちにも心はあるからね。しかもフランス優位と予想されて、日本は必死でプレーしてくると分かってた。日本は技術的にもとてもクリーンでいいプレーをした。それに対して、フランスは本当にひどいプレーをした。日本が勝っていた試合だった。

GG : 日本が勝っていたね、コンバージョンを決めていたら。

MB : 議論の余地なし、それは認める。引き分けだったけど、試合後のロッカールームは、「負け」の空気だった。

――その後、コーチ陣が変わって、欧州6か国対抗戦で立て直した。

GG : 少しね。最初の2試合、僅差での敗戦で厳しいスタートだったけど、3試合目のイタリア戦からマチューが参戦してくれて、大きなプラスになってくれた。イタリアにきっちり勝てたから、次のイングランド戦も勝つことができた。最終戦のウエールズ戦も負けたけど、必死で立ち向かえば、フランス代表のクオリティーの試合ができるということを証明できた。

MB : ポテンシャルは持っている。スタッフも協会も選手も、全員が同じ方向に向かえば、すばらしいことができる。今年はワールドカップ1年前の大切な年、自信をつけるという意味でも、いい年にしたい。

――サッカーのフランス代表がワールドカップで優勝して、フランス全土が盛り上がりました。そこから感じたことはありますか。

GG : 僕たちもスポーツ選手だし、フランス人であることに誇りを感じているから、全試合応援していた。マチューはロシアまで観戦しに行った。フランスサッカーは、一時期失っていた「国代表の価値」というものを取り戻した。この「国代表の価値」というのは僕たちにとっても、大切なもの。

MB :僕たちもそれに続けるようにしたい。同じようにラグビーでも盛り上げたいけど、そのためには、どんどん勝たなきゃいけない。残念だけど、フランスでは勝ち始めて、やっと応援してもらえる。

GG : スポーツ全般にとって、今回の優勝はいいこと。特にスポーツを通じた子どもの教育という点で大きな価値がある。ルールを守りながら楽しくプレーして、その中で多くのことを学べることに気づかせてくれる。ルールを守る、規律を守る、相手を尊重するということを、若い世代が学ぶのは大切なこと。

――サッカーのフランス代表は「国代表の価値」の伝承ということを、よく口にしていました。おふたりもそれは感じますか。

GG : もちろん。ここ数年忘れられていたから、しっかりと取り戻していきたい。とても大切なことだから。若い世代が歴史を知り、代表ジャージーを着るとはどういうことなのか、その背景には何があるのかを知ることは大切なこと。

MB : 僕たちが代表に入った頃は、リーダー格の先輩がいて「これはこうする、ここはこうする」といろいろ決まり事があった。でもリーダー格の選手が去り、新しい選手が大量に入ってきた。

GG : 複雑な状態だった。

MB : 最終的に枠組みが失われた状態になった。決して若い世代の責任じゃない。彼らが代表に入った時に導いてくれる人がいなかったから、「じゃあ、クラブチームでいつもやっているようにすればいいんじゃない」となった。そこを僕たちは本来の代表チームの姿に戻そうとしている。僕たちが引退した後も、ずっと残っていくものを創っている。

――そのためには、キャプテンひとりでは足りないですね。

GG : 「キャプテンは決してひとりではない」と僕は常に言っている。キャプテンを支えてくれるリーダー格の選手が必要。だから、マチューやモルガン(パラ)を頼りにできるのが本当に心強い。強いチームには、必ずキャプテンを支えるリーダーがいる。

――来年のワールドカップは日本で開催されますが、日本について、どんなことを知っていますか?

GG : 正直、僕はあまりよく知らないけど、不思議な国だと思っている。フランスで「北京エクスプレス」というテレビ番組(9組のペアが、1人1日1ユーロの予算で、10,000kmの行程を競う)があって、その準決勝のゴール地点が日本だった。そこで見たものすべてが美しい、素晴らしいものばかりだった。不思議な文化、素晴らしい景色。ぜひ、いろいろ見て回りたいけど、そんな時間は残念ながらないね(笑)。

MB : ワールドカップの後に、また行かなきゃ(笑)。

GG : じゃあ、マチューと一緒に行こうかな(笑)。

MB : それいいね。僕はずっと前から日本文化が大好き。マンガを毎日読んでいる。兄から「これ読めよ」って言われて、最初はおもしろいと思わなかったけど、気がついたら大好きになっていた。移動のバスの中では誰も僕に話しかけられない。マンガを読んでいるから(笑)。なのに、いまだに日本に行くチャンスがない。なにがなんでも行きたいと思っている。長い歴史のある、美しい国だから、行って、いろいろなものを見てみたい。

 ふたりともグラウンドで見せる険しい表情とは別人のように、終始笑顔でリラックスした空気で話してくれた。特に日本について話している時のバスタローは、子どものような笑顔だった。「国代表の価値」の伝承というところでは、ふたりの強い意志と絆を感じた。今年11月には南アフリカ、ワールドカップで同プールのアルゼンチン、そしてフィジー戦が控えている。負傷で昨季プレーできなかった選手たちも戻ってくるだろう。11月のテストマッチでは、失われた『レガシー』を新たに築いて、歯車が噛み合って、世界中のラグビーファンが期待する「レ・ブルー」の姿を見せられるか。フランスが元気でないと、やっぱりおもしろくない。

(インタビュー:福本美由紀)
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