「お悔やみ申し上げます」や「ご愁傷様」と「ご冥福をお祈りします」の違い

心に残る家族葬

「お悔やみ申し上げます」や「ご愁傷様」と「ご冥福をお祈りします」の違い

メディアの報道やSNSなどでは訃報に際し「ご冥福をお祈り致します」「ご冥福を」という言葉を添える事が多いが、この表現は本来使うべきではないとする見方がある。実際の葬儀でも遺族に「ご冥福を~」と言うことはあまりなく、やはり「御愁傷様」「お悔やみ~」が一般的であるように思える。詳しい意味は知らなくてもある種の違和感があるのかもしれない。「冥福」とは「冥」とはどのような意味なのか。

■冥福とは?冥の意味は?

「冥福」(めいふく・みょうふく)を広辞苑でひくと、(1)死後の幸福。(2)人の死後の幸福を祈るために仏事を修すること。追善。とある。字面からもあの世での幸福をお祈りするというほどの意味で申し述べることが多いだろうし、意味から外れてはいない。では「冥」とは何か。(1)光がなくてくらい。やみ。よみじ。(2)道理にくらい。無知。「頑冥」 (3)目に見えない(神仏)。知らず知らずに及ぶ神仏のはたらき。とのこと。深淵な闇の世界といったところだろうか。

■神話の中の「冥界」

ギリシャ神話において「冥界」は冥王ハーデスの支配する地の底の世界である。竪琴の名人オルフェウスが冥界に死んだ恋人を迎えに行く話は有名だ。オルフェウスの竪琴の音色に魅力されたハーデスは恋人を連れて帰ることを許す。しかし地上に出るまでは決して振り向いてはいけないと約束を守ることはできず、恋人は再び地の底に堕ちしまい二度と会うことはできなかった。

「古事記」にも「国生み神話」で名高いイザナギとイザナミの話がある。イザナギは火の神を産んだ際の火傷で死んでしまった妻・イザナミを迎えに冥界=黄泉の国を訪れた。しかしイザナミは黄泉の国の穢れに当てられ醜い姿になっており、イザナギは慌てて逃げてしまう。怒ったイザナミはイザナギを追うもイザナギは辛うじて逃げおおせた。このあとイザナギは川で黄泉の穢れを洗い落とし、清められた目や鼻から、アマテラスやスサノウが生まれた。

穢れを落としたら神が生まれたというほど、冥土=黄泉の国とは穢れたもの、忌むべき世界であった。

■日本人の心性に根づく「冥」の概念

いずれも物語に描かれている冥界は、とても天国極楽とは思えずむしろ地獄に近い描写である。「冥」の意味からすれば当然だろう。その観点から見ると故人が「冥」の世界にいると考えるのはあまり良い気持ちにはなれず、そこでの幸福などというのもおかしな感覚である。それでも忌むだけではなく、何とはなしに「冥土」「冥福」が使われる背景には、 日本古来の漠然とした他界観があると思われる。

古代の日本人にとって他界は冥く曖昧な世界であった。古事記の逸話でも具体的なビジョンは描かれていない。「カミ」の概念自体すら非常に多義的な意味を持ち、「冥」にも目に見えない神仏の働きの意味もある。単純な地獄の如き世界ではない。忌むべき穢れと、神仏への畏れ・・「冥」の持つ曖昧かつ深淵な響きは日本人の心情に深く刻みこまれているのかもしれない。

■仏教(浄土真宗)の見解と日本人の心性

日本人の曖昧な他界観に、地獄・極楽という具象的な他界のビジョンが与えたのが仏教だった。仏教では冥土は三悪道(地獄・畜生・餓鬼)と単純化されている。仏教の中でも先鋭的な浄土真宗では死者は阿弥陀如来の慈悲により「即時」に極楽往生すると説く。「冥福」とは「冥土」=死者の国への旅路に向かう死者に旅の安全を祈るとの意味があるので、「冥福」は適当ではないという見解を示しており、「お悔やみ申し上げます」「御愁傷様」などを推奨している。

「お悔やみ」とは永の別れに対する悲しみの表現である。極楽往生すればどのみち会うことはできないからこれは正しいといえる。故人が極楽へ行こうとも我々は会うことはできない。だから悔やむのである。故人を本当に大切に思っているとの意思表示である。

余談だが、浄土真宗では清めの塩についても批判的である。故人を悼む儀式がなぜ穢れているのかということで、これは慈悲を持って死の「穢れ」を突破した鎌倉仏教ならではの視点といえるだろう。

浄土真宗の見解は実に明解な世界観であるといえるが、仏教は日本においては独特の展開を遂げ、神道との共存や神仏習合の道を歩む。その結果、日本における「冥」の他界観も、地獄でも極楽とも言えない曖昧かつ深淵な概念として語られるようになった。

「穢れ」と「畏れ」の両面を持つ複雑玄妙な「冥」の響きを日本人の心性から消すことはできなかった。それは現代でも息づいている。

■言葉の意味を知る

ほとんどの人は「冥福」をそのような心持ちで言い添えている訳ではない。端的に故人を思ってのことである。しかしその心性には深い意味が込められていることを知るのは無駄ではなく、個人の「冥福」を祈る際に何かを感じることもあるだろう。

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