サマータイムの導入は人々の体や暮らしにどんな影響を与えるのだろうか?
サマータイムとは、太陽が出ている時間帯を有効に利用する目的で、標準時を1時間程度進める制度やその時刻のことだ。
アメリカやヨーロッパ各地で導入されており、アメリカでは11月4日よりサマータイムから通常時間に戻された。今は夏よりも1時間遅くなっている。
日本では2020年、東京オリンピックの時期にサマータイムを導入することが検討されていたが、準備期間が短すぎるとして今回は見送られた。
できるだけ明るい時間に活動しようというこの試みは効率的なようにも見えるのだが、実際にはどうなのだろうか?
人々の体や暮らしにどんな影響があるのだろうか?
・体調を崩したり、交通事故が増えることも
通常の睡眠パターンが崩れた為に「非同期症候群」になる人もいるという。平たく言うと時差ぼけのことで、それにより、睡眠不足、頭痛・胃腸障害、注意散漫、判断ミス、不安といった症状が現れる。
さらにひどいことに、サマータイムによる時間の変更よって、交通事故や心臓発作が増えるという証拠もある。
・株価にも影響が
時間の変更は株価にも悪影響を与える。カナダ・トロント大学のリサ・クレイマー氏らは、サマータイムが開始・終了した次の月曜日には、株価が大幅に下がる傾向を発見した。
その研究では、数ヶ国の株式市場のリターンを調査。市場に影響を与えるほかの要因を調整した結果、時間が変更されたあとは、株価が有意に低下していることが明らかとなった。
もちろん、あることが発生した裏にはいくつもの要因があるもので、株価が低下した日には企業や経済全体のファンダメンタルに関するニュースが伝えられていたことだろう。
それでも、その研究では、通常の月曜日によく見られるようなマイナスのリターンをはるかに上回る、統計的に有意な株価の下落が確認されている。
アメリカのケースでは、サマータイムの開始・終了に起因する株式市場の1日の平均損失は、300億ドル(3兆3000億円)を上回ると試算されている。
クレイマー氏らは、この現象の原因は、投資家が睡眠不足になったことで不安になり、そのために普段に比べてリスクを取りたがらなくなることではないかと推測している。
この株式市場の事例はより大きな現象の一部で、睡眠パターンの変化による人体への影響はもっと広範な経済活動に悪影響を与えている。
たとえば就労中の事故も、サマータイムのおかげで頻度と重大性の両方の面で増大する傾向にある。
これは賃金の引き下げ、事故への補償費用の増加、医療費の増加、代理となる労働者の教育費用の増加、全体的な生産性の低下といったことにつながる。
総じて見てみれば、サマータイムの導入は企業にとっても政府にとっても高くつくようだ。
・一年中をサマータイムにすれば良いのでは?
発想を変えて、年間を通してサマータイムに固定してしまおうという手もある。こうすれば、年に2回時計を進めたり、遅れさせたりする必要はない。
この作戦には、株式市場、交通事故、職場での事故、心臓発作といった悪影響を回避する以外のメリットもある。
マサチューセッツ州がこれに関連する文献を調査したところ、年間を通してサマータイムを導入すれば夜間の日照時間が伸びるので、強盗や性的暴行などの犯罪への抑止効果があるだろうことが判明したのだ。
サマータイムが各地で導入されるようになったのは1世紀も前のことだ。
その推進力になったのは、その導入によってエネルギーコストを削減できるという想定だった。
細かい効果については地域それぞれの緯度やタイムゾーンによるが、現在ではそのメリットはかなり過大評価されているらしいことが分かってきている。
最近の研究は一方で、年間を通してサマータイムを導入すると、ささやかながらエネルギーコスト削減効果があり、おそらくは温室効果ガスの排出削減にもいいだろうと述べている。
しかし、これも明るい面ばかりではない。ずっとサマータイムにしてしまえば、朝の時間帯は暗い時間になってしまう。
この時間帯は子供たちが通学しなければならない時間である。そのために、地域によっては、学校が始まる時間帯を遅くにずらす必要も出てくることだろう。
つまり、学校への送り迎えが必要な小さな子供がいる親もまた通勤時間を遅らせねばならないということだ。
ちなみに子供の発達の専門家は、学校の始業時間を遅めれば子供にはいい影響があるだろうと考えている。それによって出席の状態や成績の向上が望めるそうだ。
・学校の始業時間を遅くすることで、生徒の幸福度が改善される(シンガポール研究) : カラパイア
・サマータイム廃止の流れ。年間を通してサマータイムに
最近ヨーロッパで実施された意見調査によると、回答者の大半が通年のサマータイム導入に賛成しているそうだ。
これを受けて、欧州理事会は、EU加盟国に年に2度時計の針をいじることをやめて、代わりにずっとサマータイムのままにすることを推奨した。ただしこれが実際に導入されるには、立法化されなければならない。
仮に欧州議会で可決されたとしても、それに従うかどうかはEU各国の判断に委ねられる。それでも、ここ数十年では初めて、サマータイム制度に見直しの機運が高まったことは確かだ。
サマータイムのせいで今、導入されている国の人々は寝不足になっている。だがその状況が変わりつつあるのだ。
変革の波は案外早く世の中に広まるかもしれない。
References:Here's what happens the day after the clocks change/ written by hiroching / edited by parumo