全てはピザの為。イタリアの物理学者が「完璧なピザ」を焼くための数式を生み出す。その温度と時間は?
イタリアのピザの代表的なものといえばナポリピッツァのマルゲリータだろう。
イタリア王妃、マルゲリータ・ディ・サヴォイア=ジェノヴァが、「バジリコの緑、モッツァレラチーズの白、トマトソースの赤がまるでイタリアの国旗を表しているようだ」として気に入り、自らの名を冠したと言われている。
もしあなたが完璧なマルゲリータを食べたいのなら、ローマに行けば良い。ナポリ発祥のマルゲリータだが、ローマのマルゲリータはことさらうまいのだそうだ。
だが、それが難しいなら、他にも方法がある。
イタリアの物理学者が、完璧なピザを焼くための数式を導き出すことに成功した。
すごくややこしい熱力学の数式なのだけど、それをもとに温度と時間を設定することで、自宅のオーブンでおいしいピザを焼き上げることができるという。
これは『The Physics of Baking Good Pizza(美味しいピザの焼き方の物理学)』という研究論文の基本コンセプトだ。物理学者2人と食材人類学者1人が、ピザに科学で立ち向かった記録である。
そう、すべてはおいしいピザの為なのだ。
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・物理学者が教えるピザを焼く完璧な条件とは
彼らが実験台に選んだのは、そのシンプルさゆえに究極のピザとも称されるマルゲリータだ。
研究では、腕利きのピザ職人に頼んで、自分たちの目の前で生地を練り上げ、窯の中で焼いてもらった。
ピザ職人の手にかかれば、ピザ生地は2分もしないうちにこんがりとしたマルゲリータに焼き上がり、「口の中からヨダレ」が溢れてくる。
・おいしいピザを焼く決め手はレンガの窯の物理学
ピザ職人によって明かされた美味しいピザを焼く秘訣は、レンガの窯の物理学だったという。
窯の一角で薪を燃やし、内部で弧を描く壁と石の床面に沿わせて均一に熱を行き渡らせる。これによって、ピザのあらゆる面を均等に焼き上げることが可能になる。
著者らによると、理想的な条件では、1枚のマルゲリータは330度に熱した窯の中でぴったり2分で完璧に焼き上がるという。
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ただし、トッピングを追加すると、その分だけ仕上がりまで時間がかかるようになる。
ピザ職人によっては、木製かアルミ製の鋤で生地を持ち上げて、30秒ほど長く焼くこともあるだろう。こうすることで、底を焼きすぎることを防ぎつつ、「ピザを熱放射に晒す」ことができる。
・ご家庭で完璧なピザを焼く方法「230度で170秒」
だが、ほとんどの”素人”のご自宅には、レンガのピザ窯などないだろう。
ありがたいことに、著者らは一般的な家庭用電気オーブンでもマルゲリータ・ピザを焼き上げるヒントを教えてくれている――物理学を使うのだ。
家庭用オーブンを使う場合、おそらくピザを金属製のトレイに乗せて焼き上げることだろう。
ところが、金属の熱伝導率はレンガよりもかなり高い。そのために、ピザ生地は底の部分から急激に熱を吸収することになる。
したがって、330度で2分焼いてしまっては、せっかくのピザが「炭」に変わってしまう。
そこで物理学者の面目躍如とばかりにややこしい熱力学の公式から、家庭用電気式オーブンでローマ風ピザを仕上げる完璧な解が求められた。
その公式はすごくややこしい。
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だが結局これだけを覚えておけばよい。
自宅のオーブンなら230度で170秒焼き上げる
170秒だから2分50秒だ。
ただし窯で焼く場合と同じく、野菜などのトッピングを乗せるなら、それに応じて焼き上げる時間を延ばしてやらねばならない。
トッピングに含まれた水分が蒸発するために、ピザ生地から熱が逃げてしまうからだ。
著者らが認めている通り、この解に従って自宅でピザを焼いたとしても、ピザ職人が専用の窯を使ってこんがり焼き上げたピザには敵わない。
また、日本とイタリアでは湿度など様々な条件が異なるし、オーブンの癖もあるので一概には言えないが、それでも、何も考えずに焼くよりは、かなり満足のいく一品に仕上がることだろう。もちろん生地もチーズもトマトも吟味しなければならないが。
追記(2018/11/13):本文を一部修正して再送します。
References:arxiv/ written by hiroching / edited by parumo