今見ている月の姿は1.3秒前の過去、太陽は8分前の過去。星空で過去を旅してみよう。
我々の感覚は過去に囚われている。
雷がぴかっと光ると、数瞬の間を置いて、雷鳴が轟いてくる。過去を耳にしたのだ。
また目で過去を見てもいる。音は3秒で1キロ移動するが、光は1秒で30万キロ先に到達する。ゆえに3キロ先の電灯を目にしたとしたら、それは1ミリ秒の100分の1の過去を目にしたことになる。
もっと遠くに目をやればさらに昔に遡れる。あなたはその目で数秒前、数時間前、あるいは数年前の過去を目にすることだってできる。
望遠鏡を覗いてみれば、そこに広がるのは気が遠くなるような時間を隔てた過去である。
・今見ている月の姿は1.3秒前の過去
本気で過去を振り返りたいのなら、空を見上げることだ。
もっとも近い空の隣人である月はおよそ38万キロ離れており、その光が地球に届くまでには1.3秒かかる。つまりあなたが目にする月の姿は、1.3秒前の過去である。
月の姿はその程度の時間ではほとんど変わらない。しかし、宇宙のミッションで地球から月の宇宙飛行士と交信しようと思えば、1.3秒という遅れを実際に体感できる。
管制官の通信は月に届くまでに1.3秒かかる。つまり、そこにいる宇宙飛行士がどんなに早く応答したとしても、管制官が返事を受け取るまでには2.6秒はかかるということだ。

・今見ている太陽は8分前の過去
太陽はおよそ1億5000万キロ離れており、地球から見るそれは8分前の過去の姿だ。
一番近い惑星である金星や火星でさえ、数千万キロの彼方であり、したがって数分前の過去を見ていることになる。
・今見ている火星は3分前から20分前の過去
火星が地球に最接近したときなら3分前の過去であるが、別のタイミングなら20分前の過去を見ることもできる。
このことは地球から火星のローバーを遠隔操縦するような場合には少々やっかいだ。たとえば時速1キロでローバーを操縦していたとすると、光速の限界ゆえに実際のローバーは地球で確認できるものよりも200メートル先にあることになる。
まずいと思ってブレーキを踏んでも、火星のローバーでそれが作動するのはさらに200メートル進んでからだ。
よって火星のローバーはスピード狂には向かない。クラッシュを防ぐために、秒速5センチ(時速0.18キロ)という遅々とした移動しか行わないように設計されているからだ。
・今見ている土星は1時間前の過去
もう少し遠く、土星ならば10億キロ先だ。よって1時間前の過去を目の当たりにできる。
2017年、探査機カッシーニが土星の大気に突入した。そのとき、カッシーニから突入の音が届けられたが、私たちがそれを受信したとき、機体は1時間も前に消失していたのである。

・数年前の過去
夜空には幾千万もの星々が輝いている。それらがあるのは地球からはるか彼方の場所で、距離は光年という単位で表される。1光年は光が1年に進む距離で、およそ9兆キロだ。
アルファ・ケンタウリは裸眼で確認できる星としてはもっとも近くにあるが、地球と太陽の距離の27万倍、すなわち4光年離れている。したがって、あなたが見るそれは4年前の過去だ。
オリオン座を構成する星の1つ、ベテルギウスは640光年先。もし明日ベテルギウスが爆発したとしても、今生きている私たちがそれを知ることはあるまい。その姿が地球で確認されるのは数世紀が経過してのことだからだ。
望遠鏡なしでさらに遠くを眺めることもできる。アンドロメダ銀河とマゼラン雲は比較的近くにある銀河で、裸眼でも見られるくらい明るい。
大マゼラン雲は16万光年先、アンドロメダ銀河は250万光年先だ。ちなみに現生の人類が地上を歩くようになってから30万年程度のことだ。

・数十億年前の過去
裸眼でも数百万年前の過去を見ることができるが、数十億という単位になると市販のアマチュア向け望遠鏡が欲しいところだ。
口径20センチの望遠鏡をおとめ座の方角に向ければ、3C 273という銀河単体よりも明るいクエーサーがある。非常に明るいのだが、それでも25億光年という気の遠くなるような距離にあるために、裸眼で見られる明るさの1000分の1しかない。
口径1.5メートル級の望遠鏡なら120億光年先のクエーサー、APM 08279+5255を見られる。だがあまりにも遠くにあるためにかすかな点にしか見えない。
地球が誕生してからたったの45億年。宇宙の年齢は138億歳だ。
APM 08279+5255が届けてくれる120億年前の過去の様子を自分の目で見たことがある人はほとんどいないだろう。

APM 08279+5255
だが、それを見たことのある人は、宇宙の歴史にも匹敵する過去を目撃したことになる。
References:When you look up, how far back in time do you see?/ written by hiroching / edited by parumo