NHK大河ドラマ『いだてん』も描かない「東京オリンピック1964年の激動ニッポン」

日刊大衆

写真はイメージです
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 アジア初のオリンピック開催の興奮に沸いた昭和39年のニッポン。貧しいながらも躍動し続ける時代の世相は!?

 日本で初めてオリンピックに出場した男(金栗四三)と、日本に初めてオリンピックを招致した男(田畑政治)を主役にした2019年のNHK大河ドラマいだてん』がスタートした。56年ぶりとなる「2020年東京オリンピック」開幕を前に、“五輪ムード”が徐々に高まりつつあるが、最初の東京大会が開かれた1964年は、池田勇人首相の「所得倍増計画」の大号令のもと、ニッポンがイケイケだった時代。一方、国際的には、アメリカの駆逐艦が北ベトナムの魚雷艇に攻撃され、ベトナム戦争の足音が、すぐそこまで迫っていた時代でもある。

 そんな激動の時代を、本誌はどう報じていたのか。ビッグスターのインタビューを交え、当時の誌面を抜粋しつつ、「1964年のニッポン」を秘話満載でお届けしたい!

 アジアで初めてオリンピックが開催されるとあって、本誌が年頭に予測した「64年十大ニュース」(1月23日号)でも、スポーツネタが多くそろった。本誌はオリンピックでの日本の金メダル数を19個と予測。結果は16個と、残念ながら、本誌予測には届かなかったものの、その数はアメリカ、ソ連に次ぐ堂々の第3位だった。「多くのマスコミが目標に掲げていた金メダル15個を上回ったのは立派。当時の種目数はリオ五輪のほぼ半分(163種目)しかなかったことを考えると、歴史的快挙でしたね」(本誌記者OB)

 次いでの本誌の仰天予想は、“ミスタープロ野球”こと長嶋茂雄(28=年齢は当時のもの=以下同)と女優の司葉子(30)の“世紀の婚約”だ。「ミスターはその後、東京五輪でコンパニオンを務めた亜希子夫人と結婚しているから、当たるも八卦、当たらぬも八卦というところ。“いい線”いってたんじゃないかな(笑)」(前同)

 本誌恒例のプロ野球日本シリーズ予想は、「阪神タイガース(セ・リーグ)VS近鉄バファローズ(パ・リーグ)」の“御堂筋シリーズ”をズバリ掲載。パ・リーグは南海ホークスが制したものの、セ・リーグの阪神優勝は見事的中。予想通り、関西勢同士の“御堂筋シリーズ”が実現した。

 その年のプロ野球は、五輪開催の影響で変則日程となったとされるが、その最大の犠牲者は巨人だった。「現場の記者には、巨人の不振ネタを取り上げるよう檄を飛ばしたね。それでできたのが、『ことしの巨人は球団創立以来の醜態』(8月6日号)の記事。取材していくと、戦犯は川上哲治監督だ、という声が多かったので、記事には“今シーズンで退陣”と書いたのを覚えている」(本誌デスクOB)

 ところが、本誌が「面白みのない男」(9月10日号)と酷評した川上監督率いる巨人は、翌65年から前人未到のV9を成し遂げることに。その節は、どうもスイマセンでした……。

■巨人の王貞治が五輪選手に選ばれるとしたら?

 V9前夜の不振に喘ぐ巨人で、ひとり気を吐いたのが王貞治(23)。その年、本塁打王(55本)と打点王の二冠に輝いた。本誌は、その王をシーズン前半に直撃(4月23日号)し、“変化球の質問”をぶつけている。いきなり、「五輪選手に選ばれるとしたら」と質問すると王は、〈さあ何だろうなァ。走る方? いや、ボクはあまりそっちは早くないから……。そうねェ、砲丸投げかなんかだろう〉と、真面目に回答。ファンのヤジについても〈ちっとも気にならないね。ボクは名前が王だから、何でもオー、オーって聞こえるよ〉と、さらりと受け流す。

 当時、司葉子ら女優とのゴシップを飛ばされていた長嶋を引き合いに出しても、〈ボクなんかも大空クン=大空真弓(24)=とのことなどいわれてるけど、まあチョウさん(長嶋)とはわけが違うから〉と、兄貴分のミスターを立てる謙虚な回答に徹している。とはいえ、〈昨年(本塁打40本)以上は打ちたいね〉と答え、それを有言実行するあたり、「世界の王」となる片鱗を覗かせていた。

 64年はオリンピックばかりが注目されるが、政治の世界も激動の年だった。「7月の自民党総裁選で池田首相が佐藤栄作と実弾のバラ撒き合戦を演じ、永田町では、“2つの派閥から金をもらうことをニッカ、3つからだとサントリー、全部からだとオールドパー”という隠語が飛び交っていたね。命名したのは、佐藤派の金庫番だった角さん(田中角栄)だったと思うけど、うまいこと言うよね」(ベテランの政治記者)

 当時は高度経済成長の真っ只中とはいえ、物価上昇や株価下落で不況の影が忍び寄っていた時代。本誌は、オリンピック景気に期待しつつ、懸命に生きる庶民の暮らしも報じている。「夏場、オリンピックを前に東京は極端な水不足に陥るといわれていてさ。企画会議で、それじゃ、夫婦の生活にも影響が出るということになり、記者を飛ばしたんだよ」(前同)

〈N石油開発の社宅に住む男性いわく、「ここの社宅中が(土曜の夜になると)一種のムードに包まれていたものですが、給水制限以来なんとなくトゲトゲしい空気ですよ」〉(8月27日号)

 バブル時代には不倫に走る“金妻(金曜日の妻)”が話題になったが、64年当時は、夫が仕事から解放される日曜日の前夜を心待ちにする“土曜日の妻”たちの時代。しかし、蛇口をひねってもシズクがポタリポタリ……。そんな状況が“土曜日の妻”たちの苛立ちを募らせ、文字通り、夫婦に水を差してしまったのだ。しかも、社宅や公団住宅などは2DK程度が多かったため、〈子供が中学生になったらどうするのかしら〉という“土曜日の妻”たちの苦悩が身につまされる。

■石原裕次郎の好きな女性のタイプは?

 そこで重宝されたのが「サカサクラゲ」だった。温泉マークがクラゲを逆さにしたように見えるためだが、連れ込み旅館の隠語となった。本誌が、かの石原裕次郎(29)のインタビュー(1月23日号)で、やたらと増えたサカサクラゲについて聞くと、裕次郎はタバコを持ち直して微笑み、〈必要があるから存在する。まあ、いいじゃないの、あったって〉とキッパリ。また、公衆便所が不足していたことから、〈酔っぱらったときの、こっそり立小便くらいは目をつぶってほしいな(中略)川柳にもあるよ。“よくぞ男に生まれける”なんてのが……〉と提言。

 その裕次郎が嫌いな女性のタイプが、〈やたらにおしゃべりな女〉と〈ストッキンキングのうしろの線がヒン曲がってる女〉。逆に好きなタイプを聞かれると、身を乗り出して〈内緒だけどネ。それはウチのカミさん(元女優の北原三枝)なんだ〉と、おノロケ告白してくれていた。

 この年に紫綬褒章を受賞したのが、落語界の重鎮、古今亭志ん生師匠(70)。『いだてん』ではビートたけしが演じており、ドラマの語り部(進行役)を務めている。

 本誌が11月19日号で、紫綬褒章を受賞することが決まった師匠を直撃すると、〈(紫綬褒章の受賞をお祝いすると)そうだってね。あたしもね、それ聞いて驚いてるんですよ〉と、まるで他人事のよう。〈(落語家なんて昔は)田舎へ行くてェと、ハナシカとカモシカを間違えやがって、鉄砲持って出て来たりしてね。いや本当のはなしなんですよ〉と、いきなり記者を笑わせた。

 そんなこんなで、庶民たちがたくましく生きていた64年ニッポン。最大のイベントは、10月10日に開幕した東京五輪だった。本誌は大会開幕直前に『東京五輪音頭』を大ヒットさせた三波春夫(41)も直撃している(8月13日号)。

 記者が、三波の浪曲とは対極にあるビートルズに熱狂する若い人について意地悪く聞くと、〈わかりません。聞いたことありませんから〉とニベもない答え。ところが、浪曲については〈大衆の心のふるさと、とでもいいますか。だから私は、浪曲は民謡だと思います。私の音頭がうけたのも、やはり大衆の心に伝わるものがあったからじゃないですか〉と熱弁を振るってくれた。本誌も『大衆』の名に恥じないよう、読者の“心のふるさと”になれるよう、精進します!

■女子バレーやマラソンで日本中が沸いたが

 東京五輪は“東洋の魔女(女子バレー)”の活躍や体操とレスリングの金メダルラッシュに国民が沸き、重量挙げでは金メダルの三宅義信をはじめ、全出場選手が入賞という快挙を達成。「柔道無差別級ではヘーシンク(オランダ)と神永昭夫の一戦は、編集部で見守ったよ。神永がまさかの一本負けした瞬間、なぜか、先輩記者に頭を引っ叩かれたのを覚えている(笑)」(前出の本誌記者OB)

 オリンピックの最大の華ともいうべきマラソンでは、アベベ(エチオピア)や円谷幸吉(銅メダル)の走りに、日本中が沸いた。

 しかし、五輪をめぐっては、こんな“ネタ”もあった。当時は、まだ下水道が普及しておらず、〈(汲み取りのための)バキュームカーは外国にはない。国辱だ――という先入観から、都ではオリンピック期間中バキュームカーをできるだけ走らせないようにしている。よんどころなければ、幌をかぶせて深夜ひそかにやってくる計画〉(10月15日号)だったという。

 また、公衆便所があまり設置されていなかったため、マラソンコースの甲州街道沿道では「なるべく水分を取らないで観戦すること」の一文が、当局の要望事項にあったとか。

 当時、大学生だったという評論家の小沢遼子さんは、「大学の友人らは皆、(発展途上の)ニッポンでよくオリンピックが開けたものだと言っていましたね。学生のアルバイトといっても、当時は学帽かぶって路上でモノ売りする時代ですよ。私も含めて、みんな一生懸命、とにかく必死に生きようとしていた時代でした」

 あれから56年目となる来年。前回から飛躍的な成長を遂げたニッポンの首都で開かれる東京五輪は、大成功するか!?

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