野村克也「巨人のここがダメ! 原辰徳も長嶋茂雄も監督の器じゃない」伝説の名将がぶった斬り!

球史に残る名監督が、悩める球界の盟主を一刀両断。今季の優勝は可能なのか、これを読めばすぐ分かる!?
――選手としても監督としても、「打倒巨人」を胸に戦ってきた野村克也氏(83)。しかし、そんな野村氏永遠のライバルは4年も優勝から遠ざかり、近年低迷が続いている。今季“最後の切り札”原辰徳監督が就任し、なりふり構わぬ大型補強を敢行した巨人を、名将・野村氏はどのように分析するのか。
野村克也(以下、野村)なんで原なの? 原を優秀な人材と考えているのなら、なぜ前回、クビを切ったんだ? また呼び戻すくらいなら、あのまま続けさせて長期政権にしたほうがよかったと思うね。監督として、多くのものをつかみかけていたところだったろうし。逆に言えば、原に3度目の監督就任の声が掛かったのは、他に候補がいないから。指導者の後継者不足。巨人は高橋由伸だって育て切れなかった。
ただ、これは今のプロ野球界を象徴していることでもある。監督を務められる人材が球界に不足しているんだよ。俺も含め、多くのプロ野球関係者が後継者をしっかりと育てられていないと、つくづく感じる。
原は確かに良い成績を残してきたかもしれないけど、俺には「名監督」だとは思えないんだよね。そもそも彼は監督の器じゃない。人を作るのは「環境」なんだよ。原は高校・大学と活躍して人気者になって、ドラフト1位で巨人に入団。すぐにレギュラーでしょ。つまり、エリート街道ばっかり歩いてきたわけだ。「若いときの苦労は買ってでもせよ」って言うけど、原は若いときに大した苦労をしてない。いわば“おぼっちゃん監督”。それでは、苦労を重ねてきた選手の気持ちは分からないよ。
その点では、原と長嶋(茂雄)はいい勝負だね(笑)。選手時代の長嶋は“天才”としか言いようがなかった。でも、長いプロ野球史の中で、野球の天才に名監督って、ほとんどいないから。天才って、自分が簡単にプレーできるもんだから、他人も同じようにできると思ってしまう。だから、なんで、それができないのかが分からないんだよ。世の中には、むしろ不器用な人間のほうが多いということを理解していない。そんな監督が、選手を指導するなんて、どうしたって無理だろう。長嶋も監督の器じゃなかったんだよ。
■阿部慎之助は名捕手になってもおかしくなかった
――今季の巨人にあって、特に注目を集めているのが捕手陣だ。正捕手の小林誠司に、FAで移籍した炭谷銀仁朗、ベテランの阿部慎之助など、層の厚さはリーグ屈指。しかし、“伝説の名捕手”でもある野村氏の見方は、かなり辛辣だ。
野村 キャッチャーは“監督の分身”。投手だけじゃなく、守備についている選手全員に指示を出し、試合をコントロールしなくちゃいけない。だから、優勝するためには優秀なキャッチャーが絶対に必要なんだ。巨人V9時代の川上哲治監督がすごかったのは、藤尾茂さんという強肩強打のキャッチャーを外して、レギュラーに森祇晶(当時・昌彦)を抜擢したこと。森の能力を見抜き、バッティングよりも守備面を重視したわけだけど、これが功を奏して、V9に貢献する名捕手となった。
それに引き替え、今の巨人に、それだけのキャッチャーがいるだろうか。西武からFAで獲得した炭谷が、どれだけ活躍できるか、正直分からない。もともと育てるのがヘタな球団だからね。ヨソから獲ってくればいいと思っている。
正捕手の小林? 彼は“監督の分身”なんて、とても言えない。2年前のWBCで活躍した頃は注目していたけど、シーズン中のリードを見ていると、まるでダメ。サインの1球1球に、まったく根拠がない。これじゃ話にならないよ。小林は大学から社会人に行って、プロだろ? 先入観はいかんのだけど、大学出の名捕手って、ほとんどいない。古田(敦也/元ヤクルト)ぐらいじゃないか。特にキャッチャーは、高校からすぐにプロに入って、しっかり基礎を学んだほうがいい。19歳から22歳は、野球選手として一番影響を受けやすい時期。そこでちゃんとした指導が受けられれば、大きく成長できる。逆に間違った指導を受けると、それを直すのが大変なんだ。古田だって入ってきたばかりの頃は、肩以外、全然ダメだった。だからベンチで俺の隣に座らせて、一つ一つ教えてきたんだよ。
でも、大学出身とはいえ、阿部慎之助は、巨人では森以来の名捕手になってもおかしくなかった。入団当初は未熟な点が多かったから、「なんだ、このキャッチャーは……」ってバカにして見ていたんだ(笑)。ところが、日本シリーズを何度も経験し、彼はガラッと変わった。キャッチャーにとって、日本シリーズは1球たりともおろそかにできない場。適当なサインを出したばかりに、日本一を逃すことさえある。捕手にとって、この舞台を経験しているかどうかは非常に大きい。阿部も日本シリーズ特有のプレッシャーの中で、学んでいったんだと思う。
それなのに、「捕手として、これからが楽しみだ」というところで、ポジションをファーストに替えてしまった。首脳陣には、何も見えていなかったのかな。本当にもったいない。今シーズンからキャッチャーに復帰するようだけど、もうじき40歳という年齢を考えると、ちょっとしんどいわな。
■ジャイアンツは菅野智之の存在が大きい
――今季、大型補強で、さらに強化されたジャイアンツの巨大戦力。ただ、野村氏は、チームが勝つためには、選手層の厚さ以外に必要なものがあると語る。
野村「中心なき組織は機能しない」という言葉があるように、チームには中心的存在が必要。その点、菅野(智之)のような絶対的なエースがいるのは、今の巨人にとって、とても大きいだろうね。菅野は、野球の本質に一番近づいているピッチャー。頭を使って野球をしているし、ピッチングの鍵はコントロールと配球だということを熟知している。
攻撃面の中心としては、4番の岡本(和真)はまだ若すぎるかな。V9時代のONがそうだったように、4番というのはチームの模範となるべき選手。かつてONがチームの鑑としてチームを引っ張ったように、監督が「おまえら、ONを見習え」と言えるくらいになってこそ、本物なんだよ。菅野が絶対的エースと言ったけど、それは勝ち星の数の問題じゃないんだ。今の菅野なら、監督は他の投手に「菅野を見習え」と言える。それこそが“真のエース”なんだ。岡本もそんな選手になれるのか、注目だね。
そういえば、巨人には岩隈(久志)も入ったね。岩隈は、俺が楽天の監督をしていたときの“エース”だったけど、いつも物足りなさを感じていたよ。彼は自分の限界を決めているのか、たとえ好投をしていても、100球を超えると、あっさり降板を申し出る。チームのことは考えていない。無理して投げて、故障でもしたら損という発想なんだよ。
でも、シーズン中には、決して負けられない一戦というのが必ずある。そういう試合に投げることを意気に感じて、マウンドに上がったら最後まで投げ切る。それが“エース”なんだ。
その点、田中将大は岩隈とは正反対。そんなことは絶対に言わなかったな。楽天が日本一になった2013年、田中は先発で24連勝。日本シリーズでは抑えとしても投げて、胴上げ投手になっている。それがすべて証明しているんじゃないかな。岩隈のピッチングを日本で見るのは8年ぶりになるけど、彼の意識がどうなっているのか、気になるところだね。
■巨人V9川上哲治監督は日本プロ野球史上ナンバーワン
――巨人の現状をボヤく野村氏には、理想の巨人監督像がある。それは、かつて巨人黄金期を作り上げた川上哲治氏。川上野球に大きな影響を受けた野村氏は、今の巨人に“川上イズム”が残っていないことを嘆く。
野村 今の巨人を見ると、川上さんが築いた野球の継承ができていないことが残念でならない。あれほど最高のモデルがいたというのに、なんでマネしてこなかったんだろう? 本当に不思議なんだよね。川上さんは、日本のプロ野球史上ナンバーワンの監督だと思う。偉大さを挙げればキリがないけど、1961年に監督に就任したとき、メジャーリーグを席巻していたロサンゼルス・ドジャースの戦法をベースに、組織で戦う緻密な野球を取り入れたのは画期的だった。当時は大げさに言えば、「4番が打って、エースが抑えれば勝つ」という、個々の選手の力に頼る野球が主流だったからね。その後、巨人が常勝軍団になったことを考えても、日本のプロ野球界に革命をもたらしたと言っても過言じゃないよ。
たまに「ONとあれだけの戦力がそろっていたら、何度も優勝するのは当然」なんて言う人がいるけど、そんな甘い世界じゃない。投打がうまく噛み合って、勢いに乗って連覇ぐらいはできたとしても、それだけで9年連続で日本一になんてなれるわけがないんだ。ONに対しても特別扱いをせず、選手みんなに“フォア・ザ・チーム”の精神を植えつけて、常に緻密な野球を徹底する。そんな指導者としての川上さんの手腕を、俺はずっと尊敬している。でも、V9時代の“川上野球”は完全に途切れてしまったね。
――最後に、今シーズンの巨人の順位を野村氏に予想してもらった。
野村 あの戦力じゃ、優勝して当たり前(笑)。資金力に物を言わせて、有能な選手を集めているんだから、やっぱり優勝しなければイカンでしょ。順位は1位しかないよ。とはいえ、去年も、まったく同じ予想をして外れたんだけどね(笑)。
のむらかつや……1935年、京都府生まれ。54年、テスト生として南海ホークスに入団。戦後初の三冠王をはじめ、数々の記録を打ち立てる。80年に現役引退すると、3球団で監督を歴任。「ID野球」で各チームを立て直した。まさに球界が誇る“智将”。