葬儀や墓場から遺体や亡骸を奪う妖怪「火車(かしゃ)」とは

心に残る家族葬

葬儀や墓場から遺体や亡骸を奪う妖怪「火車(かしゃ)」とは

日本には古来から、河童、座敷わらし、天狗などなど、多くの妖怪が存在する。妖怪は、古くは奈良時代の「古事記」に登場し、室町時代にその姿が絵巻などに描かれるようになった。現在も数多くの漫画や映画、ゲームなどで妖怪が描き続けられているが、その理由は妖怪が私たち日本人の生活に根付いた存在だからだろう。そんな日本の文化とも言うべき妖怪には、日本人の死生観が現れているのではないかと思い、調べてみた。

■妖怪は神だったのか

まずは妖怪の定義は「人の理解を超えた不思議な現象や不気味な物体」とされている。

古代では、人々は自然と共に生きていた。そして、今と比べて圧倒的に闇が多かった。その闇の中で起こる不思議な自然現象、理解不能な現象を、科学など存在しなかった時代の人々は怖れ「妖」「物の怪」などど呼ぶようになった。これには「万物には霊が宿る」という古代の精霊信仰も繋がっている。例えば、暗闇の中から不気味な音が聞こえてきたら、何日も雨が降らず農作物が全滅したら、それは全て妖怪の仕業と言うわけだ。

古代の「精霊信仰」は「八百万の神」と通じるものがあるが、では妖怪は神のような存在だったのだろうか。古代の人々は妖怪による災いから逃れるため、畏怖の念を持って祀った。祀られた妖怪は「神」となり、神様はどんどん増えて日本は「八百万の神」の国となって行く。一方、信仰が衰えおちぶれた神は妖怪へと転落する。妖怪と神は表裏一体、紙一重の存在なのだ。善なのか悪なのか、はっきり白黒つけずにうまく取り入れる所は、現在にも続く日本人独特の考え方と言えるだろう。

■亡骸を奪う妖怪「火車」

妖怪は、北海道から沖縄まで全国各地に存在する。それは、地域によって何を畏怖するかが違って来るからだ。それとは逆に、決まった伝承地がなく全国各地に言い伝えのある妖怪もいる。例えば、葬儀や墓場から遺体を奪う「火車(かしゃ)」だ。火車は、猫に似た動物が人力車のような車を引いて葬儀場に現れ、その亡骸を奪って行くという妖怪である。特に、生前に悪事を行った人物の葬儀が狙われ、その死体を奪って食い散らかす。また、火車が葬儀に現れるとその家と家族も衰退して行くと言われていたため、生前に悪事を行なってはいけないという戒めもあって、全国各地に広まったと考えられている。

なぜ猫のような姿かと言うと、昔の日本には猫を死に関わる気味の悪い動物とする伝承があり、それが死体を奪う火車の姿に繋がった。火車は江戸時代に出版された「奇異雑談集」などの古典に登場し、現在でも島根県や兵庫県に、猫ではないが死体を奪う老婆「火車婆」の伝説が継承されている。また、火車に死体を奪われないための対策を行う地域もあり、山梨県の一部の地域では、葬式を二回に分けて行い最初の棺桶には石を入れて火車に死体を奪われるのを防いでいるというのは興味深い。

■妖怪たちの警鐘

古代では、今よりも死が身近に存在した。山や川や池で人々は簡単に命を落とした。山、川、池、それらはまさに妖怪が出没する場所だ。それらは未知の世界であり異界へと繋がる空間でもある。山には鬼や天狗、川や池などの水辺には河童や海坊主が棲まい、人々はそれら妖怪への怖れを持ってそこへと足を踏み入れる。死と直結する自然の中で、妖怪たちは「気をつけろ」と人々を戒める存在でもあったのだ。そして妖怪たちは、今も私たちにふとした物陰から警鐘を鳴らし続けている。

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