ナイル川で発見された沈没船が、古代ギリシアの歴史家「ヘロドトス」の歴史書の正しさを証明(エジプト)
image credit:Christoph Gerigk/Franck Goddio/Hilti Foundation
ナイル川で発見された2500年前の沈没船が、ある秘密を明らかにした。数世紀にもわたる論争に決着をつける発見である。
古代ギリシャの歴史家ヘロドトスが紀元前450年に記した歴史書『歴史』には、彼がエジプト旅行中に目撃したという「バリス」なる貨物船について触れられている。
これまでその存在の証拠は発見されていなかったが、沈没船の分析により、「バリス」の存在が証明されたこととなった。
・『歴史』の船の記述
ヘロドトスが記した歴史書『歴史』によると、貨物船「バリス」は、レンガのように作られた船体がパピルスで覆われ、竜骨(船首から船尾まで船底の中央に配置される強度部材)に開けられた穴に大きなかじが通されていたという。
ヘロドトスがパピルスに記した『歴史』image credit:wikimedia commons
この操舵の仕組みは、ファラオの時代には代表的なものだったとされているが、これまでその存在の証拠となる船は発見されていなかった。
2000年にエジプト、アレキサンドリアの付近で発見された海底遺跡ヘラクレイオンでは、「船17」と名付けられた紀元前664~332年の船も見つかっている。
この船17は、2000年間も水の中にあったというのに船殻の7割が残されており、例外的なほど保存状態が優れていた。
そして、そこにかつてヘロドトスが述べた特徴が残されていたのである。
・ヘロドトスの「バリス」の記述と「船17」の特徴が一致
船17の板は交互に張られており、ヘロドトスが述べたようにレンガ造りのような見た目だった。
この板張りは、1.99メートルに達し、外板を11枚も通過する、やたらと長いほぞが斜めに横切るように組まれている。これは「長く、密集した外板」というヘロドトスの記述と一致する。
ヘロドトスは竜骨にも言及しているが、船17には板張りの2倍もの厚みあり、船体の内側にせり出した竜骨がある。
そしてもちろん、船尾に開けられたかじを通すための穴も2つある。穴は前後に並んでいるが、おそらく積載中の貨物の有無に応じて、操舵力を調整するために使われたのだろう。
image credit:Belov、IJNA、2013
・ただし一致しない点も
ただし一致しない点もあった。
たとえばヘロドトスによれば、船のほぞは短く、これが船体のアカシアの板張りをまとめる肋材として機能していた。だが船17のほぞはかなり長い。
また補強枠についてヘロドトスは何も記していないが、船17にはこれがある。
image credit:Christoph Gerigk/Franck Goddio/Hilti Foundation
だが、このような不一致点があったとしても、船17(全長27メートル)が、ヘロドトスが見たバリスよりも大型の船なのだとすれば、特に矛盾はないだろう。
こうしたことから、船17はヘロドトスが記述したバリスにかなり近い船で、おそらく同じ造船所で作られたのだろうと研究者は考えている。
船の調査結果は、オックスフォード海洋考古学センターが出版する『Ship 17: a baris from Thonis-Heracleion』で詳しく説明されている。
References:This Nile Shipwreck Is First Evidence That Herodotus Wasn't Lying About Egyptian Boats/ written by hiroching / edited by parumo