赤ちゃんが歩くのを学ぶのと同じように歩き方を自己学習するAIロボットレッグ(米研究)

image credit:ValeroLab/youtube
足をカクカクと震わせながら必死に立ち上がろうとする生まれたての子鹿の姿からもわかるように、生れ出た瞬間、危険なこの世へデビューする。
歩くことすらままならない瞬間を肉食動物に襲われたら、手も足も出ない。ゆえに自然界では、多くの種が生まれて数分のうちに自分で歩けるよう進化を遂げてきた。
これは生物学者やロボット学者をかねてから驚嘆させてきた、驚くべき進化の妙技である。
今回、こうした自然の驚異からインスピレーションを得たアメリカ・南カリフォルニア大学の研究者が、あらかじめ定められた動作プログラムがなくとも、ランダムな動きを繰り返すことで、あっという間に歩き方を学習できるAI制御ロボットレッグの開発に世界で初めて成功した。
この自然界をヒントに開発したアルゴリズムを使えば、何もない状態からたった5分で歩き方を覚えられるばかりか、特に新しくプログラムすることなく別の環境に適応したりといったこともできる。
現時点において、ロボットが世界を動き回れるよう訓練するには、数ヶ月や数年もかかります。そこで私たちは、自然界で見られるような、すばやい学習・適応を実現したいと思っています
と研究の最終著者フランシスコ・J・バレロ=クエバス教授は話す。
Autonomous functional movements in a tendon-driven limb
via limited experience - Supplemental 1
・赤ちゃんの学習プロセスを模倣
研究チームのアリ・マルジャニネジャド氏によると、これは赤ちゃんの学習方法に似ているのだという。
ロボットはまず「モーターバブリング(motor babbling)」という自由な動きを通じて環境を理解しようとする。足を適当に動かすことで、足と環境が作用する内部マップを構築するのだ。
これは行動を通じた学習プロセスであって、学習の指針となるコンピューターシミュレーションの類があらかじめ設定されているわけではない。
これが重要なのは、あらゆる状況を想定してコードを書くことなどできないからだ。事前にロボットをプログラムするようなやり方では、いずれ想定外の状況に遭遇し、きちんと対応できなくなってしまう。
一方、似たよう経験から学習できるロボットならば、解決策を見出し、それを必要に応じて応用することができる。
その解決策は完璧なものではないかもしれないが、それでも目の前の状況に十分対応できるだろう。

image credit:ValeroLab/youtube
・ロボットに個性が生まれる。応用の可能性もさまざま
このボディと環境を発見するプロセスを通じて、ロボットの足はそれぞれの経験から自分にうまくいく歩行パターンを編み出す。
「ロボットは限られた経験の中から問題の解決法を見つけ出し、それが個々にとっての習慣というか、個性になります。優美な歩き方もあるでしょうし、だらしない歩き方もあるでしょうね」とバレロ=クエバス教授は言う。
歩行パターンを見るだけで、どのロボットなのか判別することもできるかもしれない。
・Autonomous functional movements in a tendon-driven limb
via limited experience - Supplemental 2
技術の応用についてはさまざまな事柄が考えられる。だが着用者にとって直感的で、かつ個々人の癖に対応できなければならない、義足や外骨格スーツのような補助技術に特に有望だ。
「外骨格スーツなどの補助装置は、使用者の動きを解釈して、彼らが欲していることに沿えなければなりませんからね。」
また宇宙探査や救助活動の分野でも大いに有効だろうという。
こうした分野で用いられるロボットは、未知の惑星や災害後の危険な状況の中で、人間の補助や監督がない状況でも必要なことをやってのけられることが望ましい。
バレロ=クエバス教授らのロボットなら、たとえば低重力や高重力環境、あるいは大雨でぬかるみ、瓦礫が散乱するような場所でもきちんと対応できることだろう。
この研究は『Nature Machine Intelligence』に掲載された。
References:A robotic leg, born without prior knowledge, learns to walk/ written by hiroching / edited by parumo