高熱を出した子供の家に武装した警察が襲撃。子供を強引に連れ去っていく事態が発生。いったいなぜ?(アメリカ)
アメリカでは子供の虐待に関する厳しい法律をもうけている。州によって異なるがイリノイ州では14歳以下の子供を1人で留守番させたらそれだけでアウトだ。
子供が転んで怪我をしただけでも親が疑われるケースも多い。容疑がかけられると子供は親から引き離される。
それだけ虐待が多い為に手厚く守られているということなんだろうが、今回のケースはすこしばかり行き過ぎのようだ。
深夜、高熱を出した子供の家に、武装した警官らが駆けつけ、子供を連れ去ってしまったのだから。
Arizona police break down door to check on child
・かかりつけの医師が児童保護局に通報
事の起こりは今年の2月。
アメリカ・アリゾナ州マリコパ郡チャンドラーに住む、3児の母親サラ・ベックさんと父親ブルックス・ブライスさんは、2歳の長男が40.5度の高熱を出したために、4歳と6歳の娘2人も車に乗せて、息子をかかりつけの自然療法医のもとへ診察に連れて行った。
子供に予防接種を受けさせていないことを知ったその女性医師は、男児の容態から髄膜炎を疑い、すぐに病院の緊急外来へ連れて行くよう両親に指示した。
しかし、サラさんとブルックスさんは緊急外来へ向かう途中で、息子の熱が少し下がったことを確認、車の中で元気に踊る息子の仕草を見て、病院へ連れていくまでもないだろうと判断し、そのまま帰宅した。
この途中で、サラさんは息子を診察した女性医師に電話をし、「熱が下がってきたようだ。なんなら、先生が確認してくれてもいい。今からもう一度連れて行こうか」と尋ねている。
しかし、女性医師は男児の再診を拒否。その後、自分のアドバイスを聞かなかったとして、アリゾナ州児童保護局にこの両親を通報した。
・児童保護局がチャンドラー警察へ通報し事態が悪化
病院の女性医師から「子供の福祉状態が心配。親から子供を保護する必要があるのでは」と通報を受けたアリゾナ州児童保護局は、マリコパ郡チャンドラー警察に様子を見に行くように依頼した。
同警察は、2月25日に一家を訪問するも、ブルックスさんは警察を家に入れることを拒否し、電話で「子供の熱は37.7度にまで下がっているので大丈夫」と伝えた。
だが、それに納得しなかった警察は、夜中の1時頃、捜査令状を手に再び一家を訪れた。ノックをしても応答がなかったことから、警官らは強硬手段に出た。
一家の玄関先に設置された防犯カメラが、その一部始終を捉えていたが、銃を構え、バリケードを手にした武装警官らが、ドアを蹴り破り、叫び、家の中へと襲撃したのだ。
・3人の子供たちはソーシャルワーカーに連れ去られる
真夜中の突然の武装警官の襲撃に、一家が驚いたのは言うまでもない。
ブルックスさんは手錠をかけられ、子供ら3人はソーシャルワーカーに家から連れ出された。
警察はこの襲撃後、報告書に「室内は散らかり、子供のベッドには吐しゃ物が散乱。両親の寝室には安全ではない散弾銃もあった」と記しているが、米メディアの取材を受けたブルックスさんは、次のように反論した。
武装警官が私にライトを当てて手を挙げろと命じました。散らかっていたということですが、それはソファーの上にあった洗濯物のことでしょう。
それに、子供らの具合が悪く、嘔吐してベッドが汚れてしまったので、私たちの部屋に移動させて一緒に眠っていただけです。
ノックしたと言うけれど、真夜中だったし、部屋の奥で病気の子供たちと眠っていたのだから、気付くはずもありませんよ。
病院の緊急外来へ連れて行くとなると、28万円ほどの費用がかかります。私たちは、具合が大丈夫そうな息子に、それだけのお金を払うほどの余裕はありません。
突然このような形で子供たちを奪われたサラさんも、涙ながらにこのように語った。
私たちは子供をとても愛し、大切にしています。もし、子供たちに助けが必要なら、迷わず求めます。
でも、クリニックからの帰り、息子の熱は38.8℃に下がっていました。様子を見ていたら大丈夫そうだったし、緊急事態ではないと判断して外来へは連れて行かなかったのです。
それなのに、警察やソーシャルワーカーらは、私たちをまるで犯罪者のように扱いました。
あんな対応をされた子供たちが、今後どんなトラウマを残すかと思うとやりきれません。
子供たちは3人とも予防接種を受けていませんが、それが理由で子供たちが連れ去られたとは思えないのです。子供たちがどこにいるのかわからないし、どうしているのか心配です。子供たちに会いたい。
事実、武装警官が一家を訪れた時には、男児の熱は37.7℃だった。
ソーシャルワーカーは、3人のうちの2人を病院へ連れて行き診察を受けさせたが、男児においては髄膜炎ではなく、上気道感染症、いわゆるただの風邪だったことがわかった。
・「このような事態になるとは」と州議会議員もコメント
ケリー・タウンセンド州議会議員は、チャンドラー警察が捜査令状を発行する段階で法的な可決を下した人物だ。しかし、まさかこのような事態にはるとは予想もしておらず、戸惑いと非難を口にした。
子供の福祉を心配したクリニックの医師と、子供をただ守っているだけの親という立場を思うと、双方に対しての理解はできます。ですが、警察がこのような方法で一家に立ち入らねばならなかったのかというと、疑問です。
警察のやりかたは間違っています。彼らはそれを認め、実際に育児放棄や虐待が行われている可能性のある事例に焦点を当てるべきです。
また、一家の弁護士ニコラス・ボカ氏も、次のように非難している。
たかが、風邪の熱でこの騒動ですよ。まったくもってバカバカしい。この一家は、普通にいい家族です。警察は、完全に州の財力を無駄にしているに他なりません。
・現在、子供3人は親元へと戻されている
現在、子供3人は親元へと戻されている
その後、サラさんとブルックスさんが児童保護局に訪ねに行くも、ミーティングをキャンセルされ、子供の居場所が全くわからない状態だった。
一部報道によると、病院の診察を受けた後、3人はソーシャルワーカーにより里親施設へと預けられていたようだ。
しかし3月15日、児童福祉局はついに子供たち3人を親元へ返した。結局、ブルックスさんとサラさんは不起訴処分になったとのことだ。
なお、この件について児童保護局はメディアにコメントを一切していない。
チャンドラー警察は、「児童保護局が捜査令状を得たので、アシストしたまで。訪問したのはSWATではなく、普通の警官たちだ」と話しているという。
高熱を出した息子
虐待や育児放棄が疑われる家庭の場合、児童福祉局へ通報する義務があるにはあるのだが、今回は警察の動きが過剰すぎたようだ。
日本とはあまりにも事情が異なるためにびっくりな事件だが、アメリカ人もびっくりするぐらいだから、相当な異常事態だったのだろう。
あと医療費が高いから、おいそれと緊急病院に連れていけないっていうのもあるよな。
補足(2019/04/13):アメリカの反ワクチン運動について
アメリカでは現在、はしか(麻しん)が大流行しており社会問題となっている。2000年、はしかは根絶したと宣言されたはずだが、予防接種による副反応が過剰にメディアで取り上げられたことで、反ワクチン運動が巻き起こり、子供に予防接種を受けさせない親が急増したことが影響しているとみられている。
反ワクチン運動のきっかけとなったのは、1998年に発表された予防接種と自閉症を関連づける研究結果だ。その後、研究結果は誤りであったことが判明しているが、今なお、予防接種による健康被害を恐れる人々は多い。
ニューヨーク州では4月9日、はしかの感染の拡大に伴い公衆衛生の非常事態を宣言した。はしかの予防接種を義務付け、従わない場合は罰金を科すという。
References:healthimpactnews/ written by Scarlet / edited by parumo