いつか彼女が振り向く日まで。江ノ島・鎌倉に伝わる弁天様と五頭龍の恋物語

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いつか彼女が振り向く日まで。江ノ島・鎌倉に伝わる弁天様と五頭龍の恋物語

誰が呼んだか「日本三大弁財天」の一社・江島(えのしま)神社の弁天様は、昔から知られる学問・芸能のご利益に加え、縁結びの神様としても知られています。

江島神社

(※よく「女神が祀られている神社に恋人同士で参拝すると、嫉妬して破局させられる」と言われていましたが、別にそんな事はないようです)

ところでここの弁天様は他人の縁結びだけでなく、ご自身もなかなかモテたそうですが、今回は彼女にまつわる恋物語を一つ紹介したいと思います。

深沢の五頭龍と、江ノ島の弁天様

今は昔、鎌倉の中央部には周囲四十余里とも言われる大きな湖が広がっていたため深沢(ふかさわ)と呼ばれ、そこには龍王(五頭龍)が棲んでいたそうです。

深沢の五頭龍(イメージ)

龍王は身体が一つなのに頭は五つ、ごつい鼻にヒゲもじゃの顎、目玉をギョロギョロさせて、いつも暗雲を身にまとう恐ろしい姿。身をよじるたびに毒を周囲にまき散らしたそうです。

そして見かけ通りの暴れん坊で、景行天皇の御代(在位:西暦71~130年?)にはことさら大暴れするなど、人々はいつも困っていました。

あまりに身体が大きいので湖に収まりきらず、龍王が寝そべるとその口が海岸まで届く始末。

腰越・龍口にあるから龍口寺。

そこでその場所は龍口(たつのくち)と呼ばれ、そこを通る者は子供を生贄に奉げなければ越えられなかったため、子死越(こしごえ。現:腰越)とも呼ばれました。

※また一説に「子供を奉げないと年が越せなかったため」とも言われるそうです。

そんな中、欽明天皇の御代である貴楽元551年4月12日の戌刻(いぬのこく。午後7~9時ごろ)から23日の辰刻(たつのこく。午前7~9時ごろ)にかけて大地震が発生。

天地が鳴動する中、龍口の沖合から海底が隆起して島が出来上がり、これが現代の江ノ島と言われています。

現代の江ノ島。

そこへ降り立ったのは一人の天女。彼女こそ江島神社の御祭神である弁天様で、江ノ島に御所にもうけてお住まいになったのが江島神社の起源と言われています。

その美貌はさぞや多くの崇敬を集めたものと思われますが、彼女に心奪われたのは、龍王も同じでした。

恋の力で改心し、山となって人々を守る

さて、天上から降臨する弁天様に一目惚れした龍王ですが、平素の傍若無人ぶりはどこへやら、さんざん悩んだ挙げ句、勇気を出して彼女に自らの胸中を告げます。

が、彼女の答えは当然ながら「NO」。しょげ返る龍王に、弁天様は言います。

江ノ島に降り立つ弁天様(イメージ)

「私はあらゆる生命をはぐくみ、徳をもたらす使命を帯びてこの地上に参りました。しかしあなたは無慈悲な殺戮を繰り返し、その醜い心と姿で、どうして私と共に生きていけるでしょうか」

【原文】「われ本誓ありて、あまねく群萌をはくくむ。好生の徳物にあまねし、汝慈憐なくして生命をたつ、心すかたともおとなしからす。何所配偶の好述なからんや……」
※『江島縁起』より。

なまじプライドの高い男だと「ケッ。お高くとまりやがって、お前なんかこっちから願い下げでぇ!」などの捨て台詞と共に去っていくものですが、よっぽど弁天様に惚れ込んでいたのでしょう。龍王は必死に食い下がります。

「これからは改心して仏の御教えに従って生きていきます。もう人は殺しませんし、毒もまき散らさないと誓います。どうか信じて下さい」

これまでの悪行を悔い改める龍王(イメージ)。

【原文】「われ教命のままに、今よりのち物のために毒あらしとちかはむ。哀愍をたれて此志をとけしめよ……」
※『江島縁起』より。

その言葉に偽りなしと信じた弁天様は龍王を赦します。

「しかし、私には使命があるため、まだ一緒になる訳には参りません」

ここで短気な男だと「まどろっこしいこと言ってンじゃねえ!」などと苛立つかも知れませんが、龍王は違いました。

「いいでしょう。ならば私はあなたの使命をお助けし、いつかあなたに相応しい伴侶と認めていただけるまで、この地の人々を守り続けましょう

龍王の融け合った山々が、今でも人々を守っている(鎌倉・藤沢の市境)。

そう言うなり龍王は大地と融け合い、やがて鎌倉西部に連なる山になったと言われています。

終わりに

現在、この山々には湘南モノレールや道路が通り、宅地開発も進んでいます。

弁天様や五頭龍の祀られている龍口明神社の絵馬。

江ノ島観光の道中に通りがかった際には、弁天様に一途な思いを抱きながら今も人々を守り続けている龍王のことを思い出してもらえたら、きっと彼の努力も報われることでしょう。

※参考文献:
清田義英『中世都市 鎌倉のはずれの風景』江ノ電沿線新聞社、平成八1996年8月1日発行

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