国際宇宙ステーション内が細菌の宝庫となっている件
過去20年の間、国際宇宙ステーション(ISS)には何百人もの宇宙飛行士が出入りしてきた。そんな彼らの痕跡は、ホテルの来客名簿に記入されたサインのように、いまもなお残り続けている。
ISSからは驚くべきほど多様な病原菌が発見されており、さながら今日まででもっとも高価な細菌保管庫といった体だ。
持ち込んだのはおそらく人間であり、おそらくその張本人と一緒に地球へ帰還したことだろう。
・地上の公共スペースで見られる細菌がISS内にも
ごちゃまぜになった細菌と菌類は、ジム、病院、オフィスなどで見れられる細菌と同じものだ。そして、そうした公共の場にあるものと同じく、人の健康を損なう恐れがある。
地球上のいたるところに存在する細菌は、そのすべてが悪いものではない。しかしISSで発見されたブドウ球菌やエンテロバクターといった一部は、日和見感染性であり、ときに人体に感染症を引き起こすことがある。
日和見感染菌がISSの宇宙飛行士を病気にするかどうかはわかりません。それは個々人の体調やそうした細菌の宇宙空間における能力など、いくつもの要因に左右されます。(米ワシントン州立大学 アレクサンドラ・チェシンスカ・シーラフ氏)
・宇宙空間で細菌の活動を知ることが長期的ミッションに不可欠
極限環境で生きることができる細菌であるが、宇宙はとりわけ過酷な場所だ。密閉されたISSの内部であっても、微重力、放射線、地球より濃度が高い二酸化炭素、空調システムのHEPAフィルターといったものにさらされる。
こうした環境の中で細菌がどうなるのか? これをきちんと把握することは、深宇宙への長期的な探索ミッションへ赴く人間にとってはとても大切なことだ。
これは宇宙飛行士にとっては、宇宙飛行よりも大切だったりします。というのも、そこでは免疫が変化しますし、地球と違って高度な医療を受けることもできないからです。(NASAジェット推進研究所 カーシュリ・ベンカデシュワラン氏)
・ISSで次々と発見される雑多な細菌や菌類
今回の研究では14ヶ月間をかけて、窓、トイレ、エクササイズ室、ダイニングテーブル、寝室など、ISSの6ヶ所からサンプルを採取し、そこに潜む細菌を調べた。
その結果、細菌は大いに繁殖していることが判明。菌類は比較的安定しているが、細菌の場合は、乗員の変化に応じて変化しているらしかった。
一番多かった細菌はブドウ球菌(26%)で、ついでエンテロバクター属(23%)、バシラス属(11%)。また菌類では、ロドトルラ属が全体の40パーセントを占めていた。
これらの4種はいずれも地球上では感染症を起こすことがある。
・金属を腐食させる細菌も発見
だが研究の著者が懸念しているのは、宇宙飛行士の健康だけではなく、ISS自体を調査せねばならないと主張する。細菌の中に金属を腐食させる仲間も見つかっているからである。
内部ほど簡単にメンテナンスができないのだから、長い宇宙探査ミッションでは、構造的な安定性を維持するために、船体への潜在的な影響を理解することが大切でしょう。(ジェット推進研究所 カミーラ・アーバニアック氏)
特に懸念されるのは、ISSで発見された細菌の多くが、生体膜という薄いネバネバした膜を作り出すことだ。
生体膜は、細菌の耐性を強めることでも知られており、こうした問題をいっそう厄介なものにしかねないと懸念される。
この研究は『Microbiome』に掲載された。
References:NASA Just Catalogued The Many Microbes Found on The ISS. Um, Bring Hand Sanitizer/ written by hiroching / edited by parumo