コスメカウンターという憧れに終止符を (3/3ページ)
「できましたよ〜」
そう言われて鏡を覗き込むと、いつもよりもちょっとだけよく見える私がいた。加工アプリを使ったときみたいに見栄えがパーンとよくなるわけではなかったけれど、明らかにいつもよりちょっとだけよかった。いつもよりちょっと強そうで、いつもよりちょっと堂々としていた。顔の造形が変わっていないのによく見えるのは不思議だなと思った。私たちはそれぞれに気に入ったアイテムを買った。レジに行くのももう怖くなかった。
試したグロスがたまたま同じボルドーだったので、私たちはおそろいの唇の色をしていた。半径1mが発光しているような気持ちになり、渋谷のスクランブル交差点がランウェイに見える。あの日の私たちは、最強で最高だった。
■憧れを憧れのままにするのをやめたい
憧れに向き合うのは怖い。手の届かないものだということにして、神棚に飾って崇め奉り、「美しい美しいいつか手に入れたい」と拝んでおけば楽だ。敬意を表しておけば、努力を割愛しても攻撃されないし、傷つくこともない。
だけど、そうやって目をそらしてきた憧れはことあるごとにチクリチクリと胸を刺し、ひと刺しごとに私を弱くし、いつしかただただ美しかったものが恐怖の対象に変わっていってしまう。
相も変わらず美容やファッションといったものに自信はない。けれど、怖いものはないほうがいいなと思う。だから、憧れを憧れのままにしておくのはできるだけやめたい。神棚の上の崇高なものでなく、身近で愛でられるものを増やしていきたい。
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この間、かわいいガールとランジェリーショップに行って、顔から出る蒸気を手でおさえながら、パステルカラーあるいはビビッドカラーの鮮やかなレースが施された下着を見て回った。
「きっとこれが似合うと思うよ」
ガールが持ってきてくれたのは赤と黒のチャイナ風なデザインで、あてがってみると確かに似合いそうだなと思った。値段があまりに高かったので、結局下着は買えなかったけれど「また来ます」と言って、2人で店を出た。
こうして私は、また来たい場所を増やしていく。
(文:佐々木ののか、イラスト:oyumi)