ヒ素を使って呼吸する生命体が太平洋で発見される(米研究)

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生物の多様性というものは計り知れない。人間にとっては猛毒とされる物質を取り込んで生きるように適応していくのだから。
今回太平洋で発見されたのは、ヒ素を取り込み呼吸して生きる生命体だ。酸素の薄い水中で生きる微生物は、呼吸にヒ素を利用しているようだ。
海にごく少量のヒ素が含まれていることは以前より知られていた。でもまさか生きるためにヒ素を使えるとは驚きである。海で発見されたまったく新しい代謝の形だ。
・ヒ素系分子をエネルギーに転換
この生物が発見されたのは、メキシコ沿岸沖の太平洋にある酸素欠乏帯だ。ここは利用できる酸素が実質的にない領域である。
じつは過去には、こうした酸素の乏しい環境で窒素と硫黄を利用して生きる微生物が発見されている。またカリフォルニア州サールズ湖では、ヒ素を利用する微生物が発見されたこともある。
しかし海でヒ素を使って呼吸する生物が見つかったのは今回が初めてのことだ。
DNA解析からは、ヒ素系分子を転換してエネルギーを作り出すことを可能にする2つの遺伝経路が特定。さらにヒ酸塩を亜ヒ酸塩に転換する方法も判明した。

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・酸素に乏しかった大昔の生存戦略、それは地球外生命をも示唆する
こうした不思議な代謝について、地球に酸素があまりなかった大昔に生き残るための戦略だったのでは? と研究者は考えている。驚いたことに、それが酸素が豊富でヒ素に乏しい今の時代にまで残っていたのだ。
また、気候変動に直面する海洋生物の変化の方向性を指し示している可能性もあるという。
もし海洋の酸素が再び少なくなれば、生態系もまたそこに適応しなければならない。そのとき呼吸に使われるのはヒ素かもしれない。
それだけではない。こうしたヒ素呼吸についての知見は、宇宙のどこかにいるかもしれない地球外生命の捜索にも役立つそうだ。
もしかすると、地球外生命は思ったほど酸素を必要としていないかもしれないのである。

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・海洋微生物の1パーセントがヒ素で呼吸?
「ヒ素をたんなる悪者ではなく、いいところもあるのだと考えると、これについての見方がガラッと変わります」とアメリカ・ワシントン大学の研究チーム、ジャクリン・サウンダーズ氏は話す。
回収された海水から推定すると、ヒ素で呼吸する微生物は、海洋微生物全体のおよそ1パーセントを占めている可能性がある。
「ヒ素がかなり少ない今日の環境でも、この遺伝子を発現させているなんて素晴らしいですね」とサウンダーズ氏。今回の発見によって、ヒ素を呼吸する生物を見つけられるかもしれない環境の範囲が大きく広まった。
今後の目標は、実験室で飼育してみて、その複雑な化学反応の秘密をさらに解き明かすことだそうだ。
この研究は『PNAS』に掲載された。
References:Arsenic-Breathing Life Forms Have Been Discovered in The Pacific Ocean/ written by hiroching / edited by parumo