拒絶反応のない移植用臓器へ向けて。3Dプリンターで作られた血管ネットワークで脈打つ臓器(米研究)
モノに宿った美しさを体感するには、自分でそれを真似して作ってみるのが一番だ。このことは、人体に収まっている臓器を生体印刷するさいにも当てはまるだろう。
このたび、血管組織を印刷する画期的な技法へ向けて、重要な一歩が踏み出された。
Bioengineers clear major hurdle on path to 3D printing replacement organs
・広大かつ複雑な血管ネットワークを印刷
血管は、血液・酸素・リンパ・その他の栄養素を人体の隅々にまで運ぶために欠かすことができない通路だ。
それは広大かつ複雑なネットワークで、さらに肺・胆管・肝臓といった独立した臓器ともつながっている。
特に肝臓の働きは多岐に渡っており、なんと500種という脳に次ぐさまざまな機能を担っている。その複雑さゆえに、現時点で肝臓の機能を補うことができる機械や治療法はない。
米ワシントン大学のケリー・スティーブンズ氏らが目指すのは、いつかそれが可能な人工臓器を作り出すことだ。

Rice University
・生体印刷技術「SLATE」
彼らが新たに考案した生体印刷技術「SLATE(Stereolithography Apparatus for Tissue Engineering/組織工学用光造形装置)」は、柔らかいヒドロゲルで層構造を作ることができる画期的なものだ。
層構造を印刷後に、ブルーライトを照射すると硬化させることができるのだが、ここで面白い工夫がなされている――食品産業で広く利用されている食品着色料を使っているのだ。
これを用いることで、どの部分にブルーライトを吸収させて硬化させるのか、細かく調整することができる。
そして、この工夫のおかげで、ものの数分もあれば、水を基礎としたゲルから生体に適合する繊細な血管構造を印刷できるようになった。

Rice University
・肺モデルで赤血球の酸素吸収を確認
SLATEで肺を模倣したモデルを作り、ストレステストとしてここに血液と酸素を流してみたところ、見事その負荷に耐えることができた。
しかも肺胞(肺の中でガス交換が行われるところ)が呼吸をするときに、赤血球が酸素を取り込めることまで確認されている。
それだけではない。心臓・下肢静脈・リンパ系には二尖弁という血液の逆流を防ぐ機構が備わっているが、SLATEはこれすら作ることができるのだ。
・拒絶反応のない移植用臓器へ向けて
研究チームのジョーダン・ミラー氏(米ライス大学)によれば、さまざまな血管構造を作れるようになったことで、人工的な生体組織の設計の自由が大きく広がったという。
今、最先端の科学では、人体の中に備わっている数々の構造を思いのままに作れるようになりつつあるのだ。
現在、臓器移植を受けた患者は、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を一生飲み続けなければならない。
しかし、SLATEの技術を応用して、患者自身の細胞から臓器を作ることができれば、そのような煩わしい思いからも解放できるようになるはずだ。
この技術はまだ完全なものではなく、完成までにはしばらく時間がかかることだろう。その開発スピードを最大限まで引き上げるために、研究チームはSLATEの技術をオープンソースとして公開している。
この研究は『Science』に掲載された。
References:news.rice.edu/ written by hiroching / edited by parumo