犯罪の厳罰化は本当に犯罪抑止につながるのか?アメリカの場合

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犯罪の厳罰化は本当に犯罪抑止につながるのか?アメリカの場合
犯罪の厳罰化は本当に犯罪抑止につながるのか?アメリカの場合

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 罪と罰の問題だ。多くの国では罪(違法行為)を犯した場合、いったんは刑務所に入れられる。刑務所が担うべき役割はどのようなものであろうか?

 犯罪を犯した人間に罰を与えるためと考える人もいる。あるいは、将来的な犯罪の発生を抑止する、更生の機会を与えるためと考える人もいる。実際、既存の刑務所はこれらの役割の複数をすでに担っていると言うこともできるだろう。
 
 ある社会学者のチームは、刑務所の機能を数値化しようと試みた。

 彼らは有罪判決を受けたアメリカの犯罪者10万人以上のデータを用いて、懲役刑となった者と執行猶予となった者のその後を比較した。

 その結果明らかになったのは、刑務所は犯罪者を一般社会から隔離するという意味で暴力犯罪の将来的な発生を防いでいるが、懲役刑を受けたという経験自体には抑止効果がほとんどないということだ。

 これはアメリカ・ミシガン州のケースである。
・ミシガン州の暴力犯罪

 ある社会学者のチームは、2003~2006年にかけて米ミシガン州で重罪を犯した人のデータを手に入れた。それは、2015年の追跡調査の結果を含むもので、彼らがその後犯罪を犯したかどうかを知ることができた。

 ミシガン州が特徴的なのは、裁判官が州の判決ガイドラインに縛られていないということだ。この州において、判決ガイドラインは義務ではなく、助言的なものに過ぎない。

 したがって、まったく同じ状況で犯された罪であっても、裁判官によって判決に大きな違いが出る可能性がある。事実、刑の多寡には一貫してバラツキがあることがデータから確認されている。

 そして、このバラツキが判決にランダム性を与えるために、判決を受けた者に及ぼす影響を知るのに都合がいい。これがミシガン州が調査地域として選ばれた理由だ。


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Kira Hoffmann / Pixabay

・アメリカの刑務所が服役者に与える3つの効果

研究チームによれば、懲役刑は服役者に3つの効果を与えると考えられる。

 1つは「抑止」だ。服役者は、再び刑務所に戻る羽目になる行動を慎むだろう。

 2つめは「行動力の剥奪」。刑務所に閉じ込めらて、一般社会から隔離されている服役者が、世間で暴力的な行為を働くのは難しいだろう。

 そして、3つめが「更生」である。服役者は刑期中に心を入れ替え、出所してから同じような過ちを繰り返さなくなるかもしれない。

 無論、懲役刑によって、かえって将来の犯罪が助長されるという可能性もある。

 たとえば精神疾患が悪化して、それが犯罪につながるかもしれないし、犯罪者の集団のなかで暮らしたおかげで悪影響を受けるという恐れもある。

 では、データが実際に示していたのは、どのようなことだったのか?


・隔離による抑止力はある

 調べられたのは、服役および出所から1、3、5年後の逮捕歴と有罪判決の有無だ。

 2つの間には相当な違いがあった。単純に服役中の期間だけで調べるのなら、確かに懲役刑は犯罪を犯すリスクを低下させていた。

 たとえば5年後なら暴力犯罪で逮捕される確率を8.4パーセント低下させる。

 したがって、犯罪者を隔離することで、世の中を安全にするという機能を刑務所が果たしていることは確かなようだ。

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・ただし出所してからの抑止効果はほとんどない

 ところが、出所してからの期間に目を向けると、また別の少々込み入った事実が浮かび上がる。

 ざっくり見ると、有罪判決を受けた者たちの再逮捕率や再犯率は高まっているのだ。

 服役しなかった人間ではあり得ない保釈条件への違反を除外するなど、別の要素を加味するとそうした差異は消えてしまう。

 だが全体的に見るなら、懲役刑には統計的に有意な抑止効果が確認されず、将来の犯罪発生をほとんど防いでいなかった。

 むしろ保釈条件の違反といったもののおかげで、懲役判決は、それを受けた人間が再度刑務所に舞い戻る可能性を20パーセント上げていたのである。

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LightFieldStudios/iStock

・刑罰の厳罰化の是非

 なお、この研究には、いくつかの制限があることも忘れてはいけない。

 たとえばミシガン州では産業が停滞しており、住人に十分な機会が与えられていない。このせいで、ほかの州とはまた違った状況になっているのかもしれない。

 あるいは出所のタイミングが服役中の態度に影響を受けている可能性もある。つまり、より暴力的な傾向にある服役者は、5年では出所しておらず、今回の統計データに反映されていないかもしれない。

 それでも、刑務所という制度を改めて考えてみる機会にはなるはずだ。

 アメリカ以外にも犯罪の厳罰化を重んじている国はある。果たしてそれは本当に再犯の抑止効果を発揮しているのであろうか?

 逆に北欧諸国のように犯罪者の更生を主眼に置いた刑務所制度もある。その後の犯罪抑止という点では更生に重きを置いた方が効果的という研究結果もある。
 
 この研究は『Nature Human Behavior』に掲載された。

References:Does being tough on crime actually deter crime? | Ars Technica
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