疑似ドキュメンタリーの先駆けとなった米映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が世界にもたらした影響

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疑似ドキュメンタリーの先駆けとなった米映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が世界にもたらした影響
疑似ドキュメンタリーの先駆けとなった米映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が世界にもたらした影響

TheDigitalArtist/pixabay

 従来、ホラー映画は好況と不況を繰り返す周期的なビジネスだと言われている。最近は『チャイルド・プレイ』のようなフランチャイズ作品や、Netflixのようなストリーミングサービスの新しい配信方法なども相まって、再びホラーブームが到来している。

 しかし1990年代後半、ホラー映画は下火になっていた。そんな中、インディー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が全米で公開されると、大ヒットを呼んだ。当時は、「過去10年のベスト・ホラー映画」と呼ばれるほど、日本を含む世界中にセンセーションを巻き起こし、社会現象にもなった。

 超低予算で少人数製作だったにも関わらず、モキュメンタリ―(疑似ドキュメンタリー)や出演者により手持ちカメラで撮影された主観視点の映像「POV(ポイント・オブ・ビュー)」手法を導入して大成功を収めた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』。その後、別の制作会社も次々と同じ手法で映画を手掛けるようになった。

 小さなスケールの映画が、後の映画界にもたらした影響は大きい。その理由は、いったい何だったのだろうか。

The Blair Witch Project (1999) Trailer #1

・『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が生まれたきっかけ

 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は1990年代初め、フロリダ州のセントラルフロリダ大学の映画学生だったダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスにより制作された。

 学生時代、超常現象についてのドキュメンタリーに没頭していた2人は、ホラー映画『エルム街の悪夢 ザ・ファイナルナイトメア』を見た後、恐怖戦術の有効性について疑問を抱き始めた。

 「自分たちならもっとすごいホラー映画が作れる」と確信した2人は、ドキュメンタリー映画の製作者のレンズを通して、見るもの全てが視聴者にも見えるような作品を目指した。

 やがて数年間の試行錯誤の後、「魔女伝説を題材にしたドキュメンタリーの撮影目的で森の中に入った学生ら3人が、謎の行方不明となり、後に発見されたフィルムを編集した」という設定で作品のアイデアが完成した。

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image credit: youtube

 その後、オーディションでキャンプ経験のある無名の役者たち3人を選び、撮影では「実際に経験している」というリアリティさを出すためできる限りアドリブで演じさせ、8日間の厳しい撮影中、製作スタッフは役者らを様々な仕掛けで恐怖に陥れた。

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 出演者の持つカメラで撮影された主観視点の映像をメインに、モキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)手法を導入したこの映画は、1999年のサンダンス映画祭で上映されると大反響を呼んだ。

 しかし、それに輪をかけてこの映画が世界的ヒットとなったのは、その宣伝方法だった。


・徹底したメディアミックス展開が大成功のカギ

 マイリックとサンチェスは、あたかもこの映画が事実であるかのように、演じた3人の若者が行方不明というチラシを配布し、映像の出どころを曖昧にした。

 更に、ネットを駆使した宣伝キャンペーンを行って、映画のストーリーをまるで本物のように仕立てるwebサイトから疑似ドキュメンタリー物まで次々と製作。主演俳優のIMDbページには、映画公開から1年間は「行方不明、恐らく死亡」と記載されていたという。

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 果たして、インディーズ映画そのものを都市伝説にするための慎重に編成された“デマ”は、大成功を呼んだ。

 1999年7月30日に全米公開となる頃には、巷で既に大きな話題となっており、映画公開終了時には3億4,800万ドル(約376億6,700万円)もの国際的収益をあげた。


・ファウンド・フッテージ法を真似る他の映画製作者たち

 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、撮影者が行方不明などになり、発見されたビデオやフィルム、もしくは監視カメラなどからの映像で構成されたフィクション作品という意味の「ファウンド・フッテージ」法を使用したホラー作品と呼ばれた。

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 この映画がきっかけでファウンド・フッテージ法が広く知られるようになると、同様の手法を真似た数多くの類似作品が製作されるようになった。

 間もなく、配給会社の希望で『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の続編が決まったが、マイリックとサンチェスは興味がなく、結局別のディレクターのもと、2人の希望に反する大幅な再編集がなされた『ブレアウィッチ2』が完成した。

 利益はあげたものの、オリジナルほどの出来栄えにはならず、ファンや批評家からは酷評を受ける羽目になってしまった。


Blair Witch 2: Book of Shadows - Trailer

 しかし、その後もブレアウィッチの余波を受けて、ファウンド・フッテージ手法を使った低予算のホラー映画が市場に出回った。『パラノーマル・アクティビティ』や『クローバーフィールド』などが、その例だ。


Paranormal Activity (2009) Official Trailer #1

・『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が世界に与えた大きな影響

 2007年公開の『パラノーマル・アクティビティ』シリーズがヒットする頃には、匿名のネットユーザーが一人称の視点で書いた「クリーピーパスタ(コピペを通して流布している恐怖を催させる説話や画像)」が、RedditやSomething Awfulなどwebサイト上の至る所に蔓延するような社会になっていた。

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 ブレアウィッチで育った世代が、映画の不透明なストーリーテリングを使用して、独自の恐怖を作り出すことは否定できず、今では、アメリカのケーブルテレビ局のようにテレビ放映される事態となっている。

 それほどまでに、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』フランチャイズによって、世界が受けたインパクトは大きく、このように1つの小さな映画においてマスメディアにヒットするレベルのパラダイムシフトを目にすることは、非常に稀だそうだ。

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 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、映画の枠を超えた恐怖体験の世界を披露することで、視聴者と映画のキャラクターをより親密にすることができたというだけでなく、民俗学やルポタージュ、フィクションの境界を曖昧にする新しい種類のホラー配信を可能にしたのだ。

 この作品がホラー映画業界に与えた影響は、やはり驚くべき大きなものだったといえよう。

References:geek.comなど / written by Scarlet / edited by parumo
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