『なつぞら』吉沢亮が体現した朝ドラの“新しいパートナー”像
放送を残り1か月ばかりとしたこのタイミングで、連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)が過去最大の注目を集めている。8月31日放送回の次週予告で『なつよ、天陽くんにさよならを』という週タイトルが流れ、天陽ファンが大騒ぎとなったのだ。
SNS上では「すでに天陽ロス……」「天陽くん死んじゃうの? 無理無理無理」と、早くも天陽ロスが話題となった。人気若手俳優、吉沢亮(25)が演じた天陽は、イケメンぞろいだった『なつぞら』の中でもトップクラスの人気を誇ったキャラで、この騒ぎにも納得だ。そして9月3日の放送で、天陽は畑の中で倒れ、静かに息を引き取った。ここでは、天陽ロスまっただ中の今だからこそ、『なつぞら』の天陽が、いったい何者だったのかをあらためて考えたい。
まず、天陽のモデルについて触れておこう。『なつぞら』自体はフィクションだが、広瀬すず(21)が演じるなつのモデルがアニメ黎明期を支えた女性アニメーター、奥山玲子氏であるように、この作品はモデルがはっきりしている。そして、天陽のモデルといわれるのが、画家の神田日勝氏だ。親が開拓者となり十勝に移り住み、開拓者として貧しい生活の中でも絵を描き続けた人物で、その人生は天陽そのもの。神田氏は絵を描き続け、32歳の若さで亡くなった夭折の画家としても知られている。天陽ファンとしては、“夭折”までマネしなくてもと思ってしまうが、ドラマ終盤のクライマックスに天陽の死を持ってくるとは、思わず「お見事!」と膝を打ってしまった。
それというのも、ドラマ終盤の“別れ”自体は、超がつく定番。朝ドラの多くで家族や友人との別れが描かれてきた。年齢的な理由もあり、その多くはヒロインの祖父母や両親との別れだ。前回の『まんぷく』は、ヒロイン福子(安藤サクラ/33)の母、すず(松坂慶子/67)が死なないというサプライズがあったが、『なつぞら』では幼なじみの夭折というのが、大きな見せ場になった。朝ドラのフォーマットにのっとりつつも、視聴者を全力で泣かせにかかる革新的演出といえよう。
■吉沢亮と中川大志のダブルヒーロー制
また、天陽の存在そのものが、革新的だったともいえる。幼なじみで両想いだったヒロインなつとは結ばれなかったが、これはあらためて考えると、スゴいことなのだ。物語序盤はなつの運命を変えた幼なじみである天陽が「ヒロインの相手役」を務め、後半はなつと結婚した坂場一久(中川大志/21)が「ヒロインの相手役」となった。そう、この作品はダブルヒーローという、新手法の作品だったのだ。
運命の幼なじみというと、昨年の朝ドラ『半分、青い。』の律(佐藤健/30)が思い出される。鈴愛(永野芽郁/19)も律も離婚を経験し、最後に結ばれた。鈴愛は涼次(間宮祥太朗/26)と結婚したのだが、結婚期間は短く破滅的な別れ方だったこともあり、実質的な「ヒロインの相手役」は最初から最後まで鈴愛の近くにいた律だった。イケメン2人を投入した『半分、青い。』だったが、「ヒロインの相手役」は明確に1人だったのだ。
『なつぞら』は恋愛の描写が意外と少ないこともあり、当初は吉沢亮と中川大志、Wヒーロー制という手法にとまどいを覚えたが、終盤にきての天陽ロス騒動を見ると、この新手法は大成功だったのだろう。「ヒロインの相手役」は1人というこれまでのルールを壊した『なつぞら』の天陽は、朝ドラの今後を変えてしまうかもしれない。それだけに、このタイミングでの別れが悲しすぎる切なすぎる! 吉沢亮の爽やかな笑顔を思い出しながら、しばし天陽ロスに浸りたい。(朝ドラ批評家・半澤則吉)