エリには「2度目のデート」がない#夢みるOLの終わらない恋のはじめかた

ハウコレ

エリには「2度目のデート」がない#夢みるOLの終わらない恋のはじめかた

コーヒーを持ちながら携帯に連絡が来るのを待つ女性の手元

LINEが未読スルーになるのも、今週で2人目だ。
人材会社の営業をしているエリは彼氏いない歴4年。絶賛マッチングアプリにハマっていた。
学生時代はわりと真面目に過ごし、彼氏も今まで2人だけ。身体だけの関係をむしろ嫌悪する側の人間だった。
1年前、アプリで彼氏ができたという友達に、最近は合コンよりアプリで付き合う方が多いと聞いて、みんなやってるならと試しに登録してみた。
男性と1回会うハードルはとっても低くて、打率は10割。これまで街でナンパをされたこともなく、目立ったモテ期も経験したことがなかったエリはそれだけで嬉しかった。

そして会った人はみんなSEXを求めてくる。

一度経験してしまえば慣れてしまうもので、ここ最近では初対面の相手に対し受け入れることも断ることも慣れてしまった。

会話も盛り上がったし、SEXも盛り上がった。別れ際も「また会おう」とみんな言ってくれる。でも、その後は誰からもLINEの返信が来ない。

・・・正直、諦めきれない。
というか抜け出せない。やっぱり男性から会おうと思われるのは嬉しいし、もしかしたらいつかアプリで本当の恋愛ができるかもしれない。少しの希望を抱きながらダラダラとマッチングアプリの沼にハマっている。

■ 

塀に座る大学生の男の子

今日は初めて歳下と会う日だ。
相手はなんと、5歳も下の有名大学の3年生。大学生と何を話していいのかわからないけど、写真を見る限りかなりのイケメンだったので、興味本位で会ってみることに。

待ち合わせの駅にはいつも早めに行ってトイレで化粧を直す。何度経験してもこの瞬間は毎回緊張している。
待ち合わせ場所の像には、こちらをチラチラ見ている背が高い青年がいた。近づくと目を輝かせてお辞儀をしてくる。来た!!やはり彼だ。想像以上にイケメン!エリ好みの子犬のようなジャニーズ系。今回は当たりだ。

「・・・エリさんですよね?」
「そうです!だいちくんですよね?よろしくお願いします〜!」
年上として浮かれて見えては恥ずかしい。余裕がある風に返事はしたものの、内心自分がおばさんに見えてないか、服装とメイクは彼の周りにいるだろうキラキラ女子大生に負けてないか不安と焦りでいっぱいだった。

年下と付き合ったことがないエリはどこまでリードすればいいかもわからない。
そんなエリの心配とは対照的に、目の前のイケメン大学生は涼しい表情だ。


「あの、ここらへん、僕あまり詳しくなくて・・・。お店ご存知ですか?」
「あ、えっと、いいよー!じゃあ軽く飲もっか!」


これが同い年の男だったら心の中で軽く舌打ちをしていたが、相手がイケメン大学生だとなんでも許せてしまう。

女子会だったら写真を撮りまくっていたであろう、近くのオシャレ個室居酒屋に入る。でも今日の相手はアプリの人。最近はインスタに上げられない行動ばかりだ。


デート中に話を聞く女性



イケメン大学生との話題は、サークルの話、バイトの話、ゼミの話にして、ひたすら聞くことに徹した。
自分の仕事の愚痴や友達の愚痴を聞いてもらったところで立場が違いすぎてつまらないだろうと思ったからだ。


大学時代の自分から見て「5歳年上の社会人」はとっても大人に見えた。果たして今の自分はどうだろうか・・・。少なくともマッチングアプリで年下と出会う大人には警戒してたな・・・とエリは話を聞きながら何度かふと我に帰る瞬間があった。



それにしてもお酒で赤くなってきた目の前のイケメンはかわいい。意外と歳下も悪くないのかも。そんなことを思っているうちに、終電間近になってしまった。


「じゃあそろそろ行こっか。」ここもエリから切り出した。

「あ、はい!」
「お会計はいいよ、さすがに。」
「いやでも・・・」
「大丈夫だから!こっちは働いてるんだから!」
笑いながら、こんなお金の使い方も悪くないかも、と思った。

店を出て、ここから先はさすがに自分からは・・・と思っていると、イケメンが口を開く。
「あの、泊まっていきませんか?」



白い布団セット


大学生のSEXはあまりに淡白だった。自分本位で、こちらの気持ち良さなどお構いなし。
でもエリにも、年下にSEXを指南するほどの器はない。
居酒屋はわからないと言うのに、ラブホにはやたら詳しい時点で冷めていた。
エリは初めて、自分から「この子とはもう会わなくていいかな」と思った。イケメンだけど、もうさようなら。

■ 

新居の家具
土曜日、エリは近くに住む妹のリカの家を訪れた。


1つ下の妹は顔がかわいく、子供の頃からモテていた。もちろん自分のかわいさも理解しており、就職は大手商社の受付嬢。そこの社員と昨年あっさり結婚し、3ヶ月前に女の子が生まれたばかりだ。


まさに“イージーモード”な人生を歩む妹が住むタワーマンションを見る度に、エリは少し胸がちくりとした。
なんで姉妹でこんなに違うの?顔がかわいいかどうかだけで人生の難易度が決まるなんてあまりに不公平じゃない?子供の頃から幾度となく心の中で感じていた劣等感を思い出させる。

「お姉ちゃんありがとう!ごめんね散らかってて!」
インターホンを押すとすっぴんの妹が姪っ子を抱いててきた。すっぴんでも顔はかわいいし、散らかっててもタワマンは広い。


妹によく似た姪っ子は、すでに妹同様イージーモードな人生のスタートを切っている。
まだ首も座っていない姪っ子にまでこっそり嫉妬心を感じてしまったことに、エリは猛烈に恥ずかしくなった。

「お姉ちゃん、ちょっと見てて」家に上がるなり妹に渡された姪っ子を抱っこする。じっとこちらを見つめる黒い目は大きく澄んでいて、抱っこしているだけなのに屈託のない微笑みをこちらに向けている。本当にかわいい。

「さすがお姉ちゃんだね! この子、私以外の抱っこだといつも泣いちゃうんだよ!こんなにニコニコしてるのお姉ちゃんくらい。やっぱ似てんのかな?」
「え!?私とリカが似てる?」エリは驚く。
「そーだよー!口とか鼻とかそっくりじゃん!友達とかにお姉ちゃんの写真見せるとみんなそっくりって言うよー」


エリにとっては意外な言葉だった。二重でかわいい妹と、一重で野暮ったい私は全く似ていないと思ってたが、どうやら口元と目元は似てるらしい。じゃあこの子にも似てるのか・・・ さらにじっと姪っ子を観察する。


「ねえちょっとお姉ちゃん見過ぎ。そんなにかわいい?」リカが笑う。
「まあね。私ってリカと全然似てないと思ってた。てか、リカだけかわいくて遺伝子は不公平だなって思ってたよ」
「なにそれ!初めて聞いた!」

花を手に取る女性



「だってさあ、妹は商社マンの旦那捕まえてタワマン暮らし、かたや私は彼氏もいない一人暮らし。比べたくもなるでしょ!リカだけモテてずるいよ」ふざけてはいるものの、これがエリの本音だ。少し引かれたかな?と思ったが、リカは気にする様子もなく話し始めた。
「えー!別にモテないよ!だって私の旦那、逆ナンだよ!仕事中、受付で初めて見た時一目惚れして必死で部署調べて、社内のツテを使いまくって合コンセッティングして。最終的に自分から告白したし」
そんな話エリは初めて聞いた。


「初耳なんだけど!なにそれ!」
「みんなそれくらいやってるよー!」
「そうなの?恥ずかしくない?」
「なんで恥ずかしいの?待ってても仕方ないじゃん!良いと思った人には自分から行動しないと時間の無駄だよ!」


エリは目からウロコだった。てっきりリカのような美人は、なにもしなくても男には困らない人生を歩んでいるんだと思い込んでいた。なにがイージーモードだ。自分からチャンスを掴みとる努力をしていたのだ。





遠くを見つめる女性の後ろ姿



「・・・ねえ、相談なんだけどさ。リカ、マッチングアプリってやったことある? 私最近ハマってて。出会えることは出会えるんだけど、なかなか2回目に繋がらなくて彼氏ができないんだよね・・・。リカならどうする?」

「うーん・・・全然悪いことだとは思わないけど、彼氏できそうにないなって思ったら、私なら自分の持ち場を変えるかな」
「持ち場?」
「ここでは私の魅力が伝わらないんだなって思ったら、自分が得意そうな別のフィールドに移動する。たとえばアプリでダメならやっぱり周りの知り合いに当たってみたり、ナンパスポットに行ってみたり。」

「お姉ちゃんだったら、普段の仕事ぶりを知ってる人の方がいいんじゃない?こないだまた営業成績表彰されたんでしょ?やっぱり仕事ができるのもお姉ちゃんの魅力だし!お姉ちゃんの魅力をきちんと見せられるフィールドに切り変えて相手を探してみるのもいいと思うよ!」


エリは、リカがこれまで男が途切れなかった理由がなんとなくわかった。決して顔がかわいいからだけではない。自分を適切にアピールすることをサボらなかったから今の生活を手に入れている。受付嬢への就職だって一見したたかだが、リカの魅力が最大限評価される仕事だ。


一体どっちの方が仕事ができるのか・・・ そう思うと思わず笑みがこぼれた。


「私なんか変なこと言ってる!?」リカが少し焦る。
「ちがうちがう!すごい参考になったなって」
エリとリカ、そして姪っ子の3人の笑顔で部屋の中が満たされる。3人は同じ顔をして笑っている。




電車の車窓からみえる新宿の夜景


次の金曜日、カジュアルダイニングでエリはとある男性と2人で飲んでいた。


「今日はありがとうございました。実はずっと飲みに行きたいなあって思っていて」
「こちらこそありがとうございました。すごく楽しかったです!また絶対飲みに行きましょうね!」男性も前のめりだ。


実はリカの話を聞いて前向きになったエリは、勇気を振り絞り、前から気になっていた営業先の同い年の人事担当を思い切って飲みに誘ったのだ。ダメ元と思っていたが拍子抜けするくらいあっさりOK。思った以上に世の中はイージーだった。

もし次が無くても楽しかったから満足だな。帰りの電車内でほろ酔い気分で振り返っていると、相手からLINEが来た。

「さっそくですが、よければ来週あたりまた空いてる日教えてください。今度は僕から誘わせて下さい。」

久々の展開にスマホを握る手が熱くなるのをエリは感じた。電車の窓から見えるタワマンにいるリカに、心の中でハイタッチをした。

(エミチャンカパーナ/ライター)

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