松尾スズキ、笑いを追求する人間力「職業は“喜劇人”」
今回、『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』という映画作品で、監督・脚本・主演という、“三足のわらじ”をはきました。
僕は「大人計画」という劇団を主宰していて、そこでは脚本・演出・主演の3役を同時にこなしてはいましたが、映像ではこれが初めて。頭の中で作ったシーンを、まずは代役の俳優に演じてもらって、本番では自分でやって、カットかけたらモニターでチェックして……の繰り返し。舞台での経験もあるので、頭は役割ごとにちゃんと切り替わるんですが、映画だとあまりにもシーンの数が多い。これを延々とやるのは、さすがにヘトヘトになりましたね。しかも今回の作品では、僕が服を着てないシーンが多かったので、半裸のまま駆け回ってましたし(笑)。
全部自分でやっているので、主演俳優に“ダメ出し”をする手間は省けたものの、自分の演技に対して不満がある場合は、納得がいくまで撮り直すことになる。他の現場ではなかなかそこまでできないので、それは良かったんですが、撮影時間は長くなりますよね。すると台詞が出てこなくなったり、ロレツが回らなくなったり……。
ただ、精神的にも肉体的にもハードではあったけど、自分の体が動くうちに、「主演映画」を撮っておきたかった。まだ動けてはいますが、以前に比べて落ちてはきている。だからこそ、自分が動く“ドタバタコメディ”を、アーカイブとして残しておきたいという思いがあったんです。
僕は、もうすぐ還暦を迎えようとしていますが、「これまでできていたことが、どれだけできなくなっていくかな」と、不安に思うことはあります。ただ、できあがった作品を観て、「若い頃にできなかったことができているな」と感じることもある。若いときは“何かやってやろう”と、余計な芝居までやっていた。でも今は、真面目に演技して、ふざけたことができるようになっている。それが年齢を重ねたということなのかな、と。
■喜劇以外にも、今後もうひとつやってみたいこと
今回の作品のきっかけは、そういうわけで“僕の主演作品”なんですが、まず「監督と主演の両方をやる場合、他の人が一番やりたくないことはなんだろう?」と考えたんですね。それで“自分のベッドシーンを撮って見せるのは、さすがに誰もやってないだろう”と(笑)。そこに、夫婦という形態を入れ込んで、ある男が浮気した妻への嫉妬と復讐から、たくさんの女を抱くストーリーを思いつきました。
ただ、構想は固まっても、なかなか実現できなかった。そんなとき、中山美穂さんとお会いする機会があって、そこでついでのように、この映画のアイデアを話したんです。
そうしたら、共通の友人から、中山さんが「松尾さんの映画がすごく面白そう」と言っていたと聞いたんですね。“これはもう当たって砕けるしかない!”と、オファーを出して(笑)。また企画が動き出したんです。なにしろ、あのスーパースター“ミポリン”ですからね。僕の妻役で出演する決心をしてくれたことは、心より感謝しています。
セックスで人を笑わせるのは難しい。でも、今回の作品はR18ではありますが、15歳の僕が観ても笑えると思いますね。
僕の基本は「笑い」です。「あなたの職業はなんですか?」と尋ねられたら“喜劇人”と答えるでしょうね。30年以上、喜劇を作ってきましたが、これからも笑ってもらえる作品を作り続けていきたいです。
ただ、喜劇以外にも、今後もうひとつやってみたいことがあります。それは、「レヴュー」です。歌と踊りの華やかなショーを作ってみたい。以前、フランスに行ったときに、キャバレーで見たことがあって、これがすごく面白かったんですね。こういうショーを、自分の感覚で作れたらいいなと。
ミュージカルなら日本でもよく上演されていますが、どれも、どこか外国からの借り物に見えてしまう。僕は、音楽と踊りと歌だけで構成されたエンターテイメントを、日本独自の演出や構成でやってみたい。まだ誰もやっていないので、僕が先陣を切りたいんです。
松尾スズキ(まつお・すずき)
1962年、福岡県生まれ。1988年に「大人計画」を旗揚げ。以降、主宰として数多くの作品の作・演出を手がける。2004年に『恋の門』で映画監督デビュー。小説も執筆し、3作品が芥川賞候補となる。俳優としても、映画『シン・ゴジラ』やNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』などに出演。12月4日からは作・演出のミュージカル『キレイ―神様と待ち合わせた女―』が開幕。今年9月「Bunkamuraシアターコクーン芸術監督」への就任が発表された。