アマゾンの伝統的幻覚剤「アヤワスカ」脳波を変化させ白昼夢を見ている状態を作り出していた(英研究)
アヤワスカは、ブラジルのバニステリオプシス・カーピというつる植物とジメチルトリプタミン (DMT) を含む植物を組み合わせ、それらを煎じて作る苦いお茶であり幻覚剤だ。アマゾン川流域の先住民がシャーマンの儀式や民間療法で使用されていた。
アヤワスカの強い幻覚作用により、これを飲んだ人は色鮮やかな幻覚や幻聴を体験し、まるで夢の中にいるような状態になるという。高揚感が得られ、直感やひらめきなどのブレインストーミング的突破感ももたらすそうだが、その代償は大きく、吐き気や嘔吐、下痢などに苦しめられるという
新たに発表された研究によると、このアヤワスカは使用者の覚醒しているときの脳波を変化させ、白昼夢を見ているような状態を生み出すことがわかった。
・脳に直接作用する植物由来のアヤワスカ
脳は化学的神経伝達物質を介して、全身の知覚とその伝達をコントロールしている。それぞれの神経伝達物質は、受容体として知られる神経細胞の決まった場所にくっつくようになっている。
例えば、LSDは脳のセロトニン受容体をターゲットにしているし、アヤワスカは、脳のドーパミン受容体とくっつくバニステリン混合物を含む。そのため、バニステリンは、ドーパミン受容体を破壊してしまうパーキンソン病の治療薬としての可能性を秘めている。
Heah at English Wikipedia
・幻覚剤が脳に与える影響
これまでの研究で、幻覚剤が正常な脳の活動を破壊し、視覚皮質のニューロンをめちゃくちゃに発火させることがわかっている。
例えば、インペリアル・カレッジ・ロンドンのデヴィッド・ナットの研究グループが、2012年の研究で、マジックマッシュルームの幻覚成分であるシロシビンの影響下にある30人の幻覚剤経験者の脳をスキャンし、プラシーボとして塩水を摂取した被験者の脳もスキャンして比べてみた。
すると、脳全体の活動がいわゆるデフォルトモードになった。これは、通常、脳が休んでいるときに同時に発火する、高度に相互連結したニューロンネットワークの状態だ。シロシビンが同期を混乱させ、乖離的側面(よく報告されている幻覚剤による自己または自我の崩壊感覚)を引き起こす可能性がある。
2016年の研究では、LSDの影響下にある被験者をプラシーボ被験者と比べてみた。またしても、脳全体でデフォルトモードのニューロン同士が同期しなかった。
しかし、普通は互いにやりとりしない脳の異なる特定の部位が、LSD影響下では、とくに視覚皮質で活発に交信していることがわかった。つまりこれは、麻薬でハイになっている人が体験する、鮮明で複雑な幻視の説明になりえる。
しかし、翌年行われたもうひとつの実験では、幻覚剤の影響を受けた被験者の脳内活動のでたらめ度が急に増えることがわかった。
これは通常、幻覚剤常用者と結びつけて言われるハイになった意識状態の証拠かもしれない。今年始め、スイスの研究チームが、MRI画像を使ってLSDの影響を受けた脳の動きを追った。
その結果、どの情報が現実の世界からのもので、どの情報が脳そのものが生み出したものなのかを、脳が追跡するのを助けるシステムを幻覚剤が壊してしまうという説を裏づける結果となった。
通常の皮質の情報氾濫ではなく、限られた特定の部位の活動が増えたことがわかったのです。これは、幻覚剤によってひき起こされた状態が、皮質の広範な変化をもたらす麻酔や睡眠のような状態とははっきり異ることを示しています
Speedy McVroom from Pixabay
・アヤワスカで視覚が鮮明になる理由
イギリス、インペリアル・カレッジ・ロンドンの最新研究では、13人の被験者にDMTの入った点滴を与え、頭に電極をつけて脳波を測定し、脳の活動をモニターする実験も行った。
すると、DMTが目覚めている状態の脳波アルファ波を著しく低下させ、夢をみている状態の脳波シータ波を一次的に増加させたことがわかった。
さらに、シロシビンやLSDの影響を受けた被験者の脳活動は低下したが、DMTの影響下にある脳はもっと無秩序な活動をしていた。
これは、アヤワスカ使用者がほかの幻覚剤よりも、視覚が鮮明になり、没我の感覚が強くなる理由かもしれない。
Image by eskymaks/iStock
研究チームのクリスティ・マーマンはこう語る。
アヤワスカには、こうした幻覚体験がもっとも強く出る間に、突発的なリズムが存在することがわかりました。これは脳活動のほかの混沌としたパターンの間に現われた新興秩序だと言えます。
脳波が変化したことと、被験者の報告から、彼らは完全に忘我の境地にいることは明らかで、まるで鮮明な白昼夢に完全にどっぷりとつかって、目を開けて夢をみているようなものなのです
Imperial College London/Chris Timmermann
今後の研究では、被験者がDMTにさらされる時間を増やして、さらにたくさんの脳波データを集めたり、すでにシロシビンやLSDで行ったように、DMT影響下での被験者のfMRI画像を撮るといったことを行うかもしれない。
DMTの影響下にある人たちの体験を本当の意味で把握したり、伝えたりすることは難しいかもしれませんが、それを白昼夢や臨死体験になぞらえるのは有益です。References:Ayahuasca alters brain waves to produce waking dream-like state, study finds | Ars Technica/ written by konohazuku / edited by parumo
DMT研究は、脳活動と意識の間の関係の重要な洞察をもたらす可能性があり、このささやかな研究は、その道に続く最初のステップなのです