死亡者数5000万人も!?「死ぬかぜ」と「危険なかぜ薬」

日刊大衆

写真はイメージです
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「カゼぐらいで仕事は休めない」と我慢することなかれ。重病化したり死に至ることもある“恐怖の実態”!!

 職場や電車のあちこちでゴホゴホ、ゲホゲホ。今年もカゼやインフルエンザが流行る季節になった。中には、「カゼぐらいで会社を休んでられっか」「インフルエンザなんてカゼに毛が生えたようなもんよ。酒を飲んで一晩寝れば治る」 こんな剛胆な人もいるが、カゼやインフルエンザを甘く見てると、とんでもないことになる。ベテランのホームドクターで『宮元通りクリニック』の渡會敏之院長が、次のように説明する。「カゼはかかる頻度が多いこともあり、鼻水や微熱程度の症状では仕事を休まないという人も多いんですが、冬のカゼは重症化することが少なくありません。特に高齢者はカゼが原因で重篤な肺炎になって入院したり、最悪の場合、命を落とすことにもなります」

 糖尿病や心臓疾患、腎臓病などの持病がある人は、カゼが原因で病状が悪化することもある。ちなみに、カゼの原因菌は、くしゃみや喉の痛みを引き起こすライノウイルスや倦怠感や筋肉痛を伴うコロナウイルスなど200種以上いるのだが、この中には突然死の原因となる怖いウイルスもいる。たとえば、エンテロ(コクサッキー)ウイルスに感染すると、最初は咳、痰、発熱などのカゼのような症状なのだが、重症化すると心筋に炎症を起こして、最悪の場合、心不全で命を落とす危険性があるのだ。「まさに、カゼは万病の元なんですよ。かかったら無理をせずに休んで、しっかり治すことが肝要です」(前同)

 さらに、カゼの一種であるインフルエンザは、もっと怖い。重症化すると肺炎になるのはカゼと同じだが、カゼより病状が急激に進む。「急に40度ぐらいの高熱が出て、意識不明になるケースもあり、私も、こうした患者さんを何人か診ています」(同)

 健康スポーツ医の木村好珠医師も、「インフルエンザ特有の高熱に注意が必要」と指摘する。まず、高熱によって脱水症状が進むと、臓器への血流が不足し、臓器不全などになり、命も危うくなる。「急な発熱によって、インフルエンザ脳炎になることもあります」(木村医師)

 インフルエンザ脳炎は、急な発熱で脳細胞が壊死したり、出血によるショックで神経障害や意識障害が起こる怖い病気だ。「また、高齢者や呼吸器疾患を持つ方は肺炎になるリスクが高く、重症化して死を招くことさえあります」(前同)

 カゼとインフルエンザの違いを木村医師にもう少し詳しく解説してもらった。「カゼの原因菌はウイルスや細菌など約200種類あるといわれるんですが、インフルエンザはA、B、C型あるインフルエンザウイルスのみで発症します。また、カゼの症状は比較的ゆっくり表れ、鼻水が出る、喉が痛い、などの局部症状が多いんですが、インフルエンザは発症が急で、高熱のほか、関節痛や高熱、強い倦怠感などを伴う全身症状になる特徴があります」(木村医師)

 これに加え、インフルエンザウイルスは、カゼを引き起こすウイルスや細菌に比べて、感染力が非常に強いのだ。

■スペインカゼは推定死亡者数5000万人

 この強力な感染力で、人類は過去何度も痛い目にあってきた。被害が大きかったのは、1918~21年に猛威を振るったスペインカゼ(推定死亡者数5000万人)や1957年のアジアカゼ(同100万人)、1968年の香港カゼ(同300万人)や1977年のソ連カゼ(同100万人)だ。カゼと名前がついているが、これはすべてインフルエンザウイルスによるもの。

 ちなみに、史上最も致死率が高いとされたペスト(黒死病)でも推計5000万人の死者数だから、インフルエンザがいかに怖いかが分かるだろう。

 医療ジャーナリストの牧潤二氏によると、「過去に大きな被害をもたらしたインフルエンザは、すべて“新型”のインフルエンザウイルス」だという。

「インフルエンザウイルスは遺伝子の形を少しずつ変えているんですが、何かの拍子に大きく変化することがあります。これを“新型”と呼んでいるんですが、新型インフルエンザウイルスは人が持っている免疫システムでうまく対応できないため、感染が広がりやすく、爆発的な大流行(パンデミック)になりやすいんです」(牧氏)

 実は、2009~10年にもメキシコで、豚由来で大きく変化した新型インフルエンザウイルスが出現し、100人以上が死亡したことがあった。

「日本でも関西の高校生が感染するなどして話題になったんですが、幸い、この新型インフルエンザは日本で大流行しませんでした。しかし、今後、より感染力や繁殖力が強い新型が出現する可能性があり、油断ならない状況です」(前同)

■新型インフルエンザは薬が効かない!?

 新型インフルエンザは、これまでのワクチンが効かないので、新たにワクチンを作る必要がある。この生産が間に合わないことになると、爆発的に流行する恐れがある。なお、読者にも「今年はすでにインフルエンザワクチンを打った」という人がいるだろうが、実は、これは以前流行したインフルエンザのワクチンである。もし、型が大きく違うウイルスに感染したら、これらのワクチンはほとんど効かないのだが、それでもメリットはあるという。前出の渡會院長が次のように語る。「うちの患者さんの中にも“ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった”という方がいるんですが、事前にワクチンを打っておくと、かかっても高熱にならないなど、重症化しない傾向があるんです」

 前出の木村医師も「ワクチンを打ったからといって、インフルエンザを100%予防できるわけではない」と前置きして、次のように続ける。「米国の調査で、65歳未満の健常者はワクチンの接種で発症を70~90%減らすことができ、65歳以上の高齢者も肺炎などによる入院を30~70%ぐらい減らすことができると報告されています。ワクチンを打つとインフルエンザが発症しにくくなることは、この調査でも明らかなんですが、ワクチンの作用期間は約5か月ですから、毎年打つ必要があります」

 カゼやインフルエンザにかかると、市販薬や病院の処方薬で対応することになるのだが、ここにも落とし穴がある。ドラッグストアなどで売られているカゼ薬を服用して、重篤なアナフィラキシーショックを起こすケースがあるからだ。アナフィラキシーショックとは、アレルギーの成分が体内に入ることによって、体内の臓器などが激しい急性のアレルギー症状を起こすことだが、最悪の場合は死に至ることもある。ちなみに、平成19年から年までの5年間で報告されたアナフィラキシーショックの事例は、総合感冒剤が12件、解熱鎮痛消炎剤(熱冷まし)が4件、鎮咳去痰剤(咳止め)が1件ある。

 アナフィラキシーショックの症状としては、薬を服用後、急に冷や汗が出たり、息がしにくくなる、胸が痛くなる、皮膚の痒かゆみやただれ、あるいは手足や唇の痺れ、めまいなどの神経症状などがある。市販薬とはいえ、服用後はこうした症状が出ないか、十分に注意する必要がある。処方薬であるイナビル、タミフル、リレンザ、最新薬のゾフルーザなどのインフルエンザ薬も決して安全というわけではない。「インフルエンザ薬は吸入式(リレンザなど)だったり、5日間の連続投与が必要(タミフルなど)なため、使い勝手が悪かったのですが、最新のゾフルーザは経口のうえ、1~2回の服用で効果があるため、うちのクリニックでも使っています」(渡會院長)

 だが、こうしたインフルエンザ薬で、異常行動を起こすという報告が相次いだことがある。「最初はインフルエンザ薬による副作用が疑われ、マスコミでも大きく取り上げられたんですが、その後、インフルエンザによる高熱によって引き起こされたケースも少なからずあるとされ、いくぶん鎮火しました。しかし、処方薬、市販薬に限らず、薬には副作用がつきもの。こう思って、薬を服用したら自分の体の状態を注意深く観察し、もし異変を感じたら、すぐに医療機関で受診することが大切です」(前出の牧氏)

 また今年11月、ゾフルーザを服用した際に体内にでき、薬が効きにくくなる「耐性ウイルス」が、通常のウイルスと同程度の感染力を持ち、症状を引き起こす能力があると、東京大教授らのチームが英科学誌に発表し、話題を呼んでいる。インフルエンザにかかったら、他人に近づかないように心がけることが肝要だ。

■予防法や対処法は?

 さて、最後に、自分でできる予防法や対処法について触れておきたい。

「カゼやインフルエンザが冬場に流行するのは、空気が乾燥して喉などの気道の潤いがなくなり、ウイルスや細菌が繁殖しやすくなることが大きいんです。うがいとまでいかなくても、喉を潤す、お茶や水をちょこちょこ飲んで、喉を潤す、喉についたウイルスや細菌を洗い落とすことが、予防のポイントになります」(渡會院長)

 木村医師も同様に、「インフルエンザウイルスが嫌いな、温かくて湿度が高い環境を作ることが大切」と強調する。「部屋の温度を20度以上に保ち、加湿器などを使って湿度を50~60%にする。これで感染の可能性がグンと下がります」(木村医師)

 カゼやインフルエンザを予防するには免疫力を高めておくことが重要で、暴飲暴食をしない、栄養バランスがいい食事をする、睡眠時間を十分確保する、ストレスをためないことが基本。

 運悪くカゼやインフルエンザにかかったときは、まず何より休養、栄養、睡眠を心がけるようにしたい。

 人の体はカゼやインフルエンザのウイルスが侵入すると、咳や鼻水を出し、発熱で退治する防御反応が備わっている。カゼやインフルエンザによる倦怠感も“体を休めろ”というサイン。免疫力を保ち、こうしたサインを見逃さないことが、予防と対処の要諦と言える。

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