元プロ棋士・ひふみんに聞いた「感情のコントロール術」
加藤一二三、藤井聡太、羽生善治……。
プロ棋士たちの活躍が世間を賑わせた昨今、将棋のルールさえもまったく知らない私・マイナビウーマン編集部たかはしが、とある棋士のTwitterをフォローした。
お茶の間の人気者“ひふみん”こと加藤一二三さん。79歳とは思えないキュートな見た目、独特の口調と間。近年では子ども向け番組ともコラボし、老若男女問わずの愛されキャラ。私自身も、ひふみんのお茶目なツイートに日々癒されている。
https://twitter.com/hifumikato/status/1188454489520394241?s=20
(最近は「若いころのひふみんが菅田将暉に似ている」というツイートがめちゃくちゃバズっているので、ぜひ「ひふみん 菅田将暉」で検索してみてほしい)
前置きが長くなってしまったが、今回私が彼を取材したのは、キュートなひふみんにただ会いたかったから……だけではない。
“プロ棋士”として活躍した62年10カ月、通算1324勝・1180敗。どれだけ負けても心を荒げずにひとつひとつの勝負に挑んだ、そのメンタルの強さはどうやって生まれたのか。仕事の傍ら、家庭にはどのように向き合ってきたのか。
月並みだけど「人生の大先輩から教えを乞いたい!」という気持ちで、ひふみんに話を聞いてみた。
■記者会見をしなかった理由は? 引退戦の真相
マイナビウーマン編集部のたかはしです。今日はよろしくお願いします! ……。 (まずい、話しかけてはいけなかったか……) あ、ああ、えっと、すみませんね。ん、えっと、取材ですよね。 はい、お忙しいところありがとうございます。もしよければ、今日は敬意を込めて“ひふみんさん”と呼ばせてください! あ、あ、あーね、あ、はい。 (この取材大丈夫かな……) ひふみんさんが引退されたのは2017年6月なので、もう2年以上前になるんですね。試合に負けて引退が決まったあと、記者会見をせずに自宅へ直帰されたというエピソードが有名でした。 あ、これはちょっと、あの、こういうことがあったんですよね。事前にマスコミ各社から、「負けて引退が決まったら記者会見をしてほしい」という依頼がきていたんですよ。だけれども、私はあの、うーんと、対局の前に、負けると思って指すことがないんです。それが、大前提です。はい。 「負けると思って指すことがない」。さっそくキラーワードが! だから、「負けた場合に記者会見をお願いします」というのは、その、マスコミの方たちは待ってくれていると思うんだけど、こちらからすれば負けると思って戦ってないんだから、ちょっと、あの、違いますよね。 勝つつもりで挑んでいるのに、負けたときのために用意されていた記者会見に応じるのは納得いかなかった、ってことでしょうか。 あ、はい、そうですね。あの、それより第一報は、長年苦楽を共にしてきた妻にですね、負けて引退が決まったということを、知らせるべきであろうと、あの、ま、あそう、あの、そう思っていました。うん。 突然の愛妻家エピソード! で、あの、家に帰ったらですね、妻がね、「お疲れさま」と言ってね、羊のネクタイを、プレゼントしてくれたんですよ。 素敵! あ、あとで聞きますと、あの真意はですね、妻は、私がその日勝って帰ってくるつもりだと思ってたそうです。それでですね、その羊のネクタイを「お疲れさま」って言葉じゃなくて、黙って、プレゼントするつもりだったそうです。 そうだったんですね! ところで、なぜ羊のネクタイを……? えーっと、羊っていうのは、白い動物ですよね。だから、白星というわけです。 なるほど! 縁起がいい! あとは私、その、クリスチャンなんですよ。聖書の世界では、羊というのはいい生き物として描かれています。だから、その意味も込めて、羊のネクタイを買っておいてくれたそうです。 思いやりのある素敵な奥さんですね! お2人は喧嘩することはないんですか? あの、まず、ほとんど、喧嘩はしません。 すごい!! 私の両親なんて毎日喧嘩してますよ。私も昔付き合ってた彼氏と新宿のど真ん中で、殴り合いがはじまるんじゃないかってレベルの大喧嘩したことある。 僕はですね、議論というのは、あんまりしないほうがいいと思ってます。 それはなぜですか? あ、えっと、議論を続けても平行線になるだけで、答えが出ないんですよ。だから理性を保つことが大事です。その、理性は、人間でいうと“目”ですよね。 目? あ、あのですね、目というものがしっかり見えないで道を歩くと、つまずきます。でも、しっかり見えていると、道をまっすぐ歩けます。それに該当するのが、理性です。だから、その、理性っていうものを、しっかり使って歩んでいくと、脱線はしませんよ。 よく「喧嘩するほど仲がいい」とか「議論できるのがいいカップル」と言われるけど、必ずしもそうとは限らないんですね。 あ、はい、えっとね、我々が幸せに人生を送っていくために必要なのは、やっぱり、理性ですからね。■相手の欠点が気になる人には、“丸太”のような欠点がある
さっきの理性の話につながりますが、ひふみんさんはどんなに敗戦を経験しても悔しさを見せないですし、感情のコントロールがうまいなと思います。 あ、ああ、はい、ありがとうございます。 わたしは仕事でも恋愛でも、何か嫌なことがあるとすぐに感情を爆発させちゃうんですが、理性で抑えるのってどうすればいいんでしょう? そうですね。あの、こういう考え方もあるんですよね。たとえば、相手に嫌なことを言われたとする。その人の欠点は、おがくずのような、小さな欠点。おがくずっていうのは、あの、木のなんか、ちっちゃいもんです。 (ハムスターを飼うときに床材として使うアレかな……?) それは相手の欠点だから、なんとか、直してほしいと思う。おがくずを取り除きたいと思う。でしょ? めちゃくちゃ思います。なんだったらおがくず思いっきり引き剥がす勢いで、ストレートに指摘する。 でもね、そのおがくずのような欠点を取りたいと思っているあなたにはね、あの、丸太のような欠点があると。こんなね、目には入りきらないような、大きな欠点があるんですよ。 グサッ――! だからね、欠点は誰にでもあるということを、覚えておかなきゃいけない。あ、つまり、自分にはもしかすると、相手より大きな欠点があるかもしれないのに、他人を裁いてはいけないんです。 今までの所業を反省しました……。 あ、あとは「人間の行動にはすべて根拠がある」と、思うようにする。 根拠? たとえば、仕事で、行き当たりばったりの対応をしてくる人がいるとするでしょ。 行き当たりばったり……無計画で猪突猛進して最終的に迷惑かけてくるタイプの人かな。そういうの絶対許せない。 こちらからすると「なんてひどい。こんな、なんの考えもなく行き当たりばったりで接してくるなんて」と思うことも、多いんだよね。でも“行き当たりばったり”は、その人にとってひとつの成功法で、あえてやっていることも多い。 た、たしかに……。その行き当たりばったり感が、結果的に誰よりも早く成果につながったりしますもんね。 そういう相手の行動における根拠を考えると、冷静になれるでしょ。だからね、これも知恵としてね、持っておくといいですよ。 なんかひふみんさんが神様に見えてきた。自分の意見を言うことが正しいと思っていた。だけどそれで誰かを悲しませたり、失ったりすることも多かった。ああ、この取材で聞いたことを、もっと早く知っていれば。
失ってしまったものは取り戻せないけど、「我を通すだけが正解じゃない」ってことに今気づけたから、これからの人生ちょっとはいい感じになりそう。
ありがとう、ひふみん!
加藤一二三 著『感情の整理術123』(PHP)
不本意な状況や不快な思いをさせられると、ついカッとしてしまったり、不満を抱いたり、我慢してしまうもの。「怒ったら損だから絶対に怒らない」そう決めて、長い将棋人生を過ごしてきた加藤一二三さん。勝負の世界で長年実践してきた、天才棋士による感情の整理術。
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(取材・文:たかはし/マイナビウーマン編集部、撮影:洞澤佐智子)