生命の自己複製能力を模倣した人工ゲノムの開発に成功(ドイツ研究)

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生命の自己複製能力を模倣した人工ゲノムの開発に成功(ドイツ研究)
生命の自己複製能力を模倣した人工ゲノムの開発に成功(ドイツ研究)

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 あらゆる生命に共通するもっとも基本的な特徴の1つは、自己を別個の存在として複製し、保存する能力だ。

 こうした生命のプロセスを観察し、さらにその再現を試みるのが合成生物学という分野だ。この分野を専門とする研究者たちは、生きているわけではない構成要素から、生命を模倣する系を作り出す――つまりボトムアップのアプローチを探求している。

 生命ならではの能力を持つ系を人工的なボトムアップアプローチで作り出すことは、非常に困難な挑戦である。しかし、ドイツ、マックス・プランク生化学研究所の研究グループによって、ついに史上初めてその作成に成功したそうだ。

 それはインビトロ(試験管内)で再現された、ゲノムの複製とタンパク質の合成プロセスだ。生物学的系の自己保存と複製の基礎の部分である。
・インビトロ発現系の最適化

 このプロセスを再現するためには、”設計図”と分子の”機械”を用意する必要があった。
 
 生物学の用語で言うなら、設計図は、タンパク質を作り出す情報を持つDNAのことだ。そのタンパク質は、触媒として作用し、生物内での生化学的反応を加速することから、しばしば分子機械と呼ばれる。

 もう少し説明すると、研究グループが行ったのは、DNAの設計図に基づいてタンパク質を合成する系――インビトロ発現系の最適化だ。

 いくつか工夫をこらした結果として、インビトロ発現系は「DNAポリメラーゼ」というタンパク質を非常に効率的に合成できるようになった。

 すると、このDNAポリメラーゼがヌクレオチド(DNAを構成する基本的な単位)を使ってDNAを複製する。

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・特定のDNAセグメントに着脱可能な人工ゲノムの完成

 こうして作られた最大11個の環状DNAから人工ゲノムが完成した。これはモジュール構造をしており、特定のDNAセグメントに簡単に着脱することができる。

 今回の研究で作られた最大のモジュール型人工ゲノムは、11万6000対でできており、ごく単純な細胞のゲノムの長さに匹敵するという。

 人工ゲノムには、ポリメラーゼ以外にも、大腸菌に由来する30の「翻訳因子」をはじめとするほかのタンパク質の設計図も含まれている。

 翻訳因子は、DNAという設計図をそれぞれのタンパク質に翻訳するプロセスにおいて重要な役割を担っており、生化学的プロセスを模倣する自己複製系には不可欠なものだ。

 研究グループが、質量分析によって作られたタンパク質の量を測定したところ、反応後では翻訳因子の量が増えていることが判明。こうして今回のインビトロ発現系はDNA複製だけでなく、翻訳因子も作れることが証明された。

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K_E_N/iStock

・複雑な生命を作り出すプラットフォームとして

 こうした成果について、生物学的プロセスを模倣する連続的な自己複製系の作成へ向けた重要なステップであると、研究グループは話す。

 今後は、DNAセグメントを追加して人工ゲノムをさらに拡張したり、栄養を与え、廃棄物を排泄することでいつまでも維持される系を作りたいとのことだ。

 そうした最小限の細胞が開発されれば、たとえば自然に存在する物質を作るオーダーメイドの生産機や、さらに複雑な生命のような系を作り出すプラットフォームとして利用できるそうだ。

 この研究は、『Nature Communications』(2月14日付)に掲載された。

References:physなど/ written by hiroching / edited by parumo
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