過去を消した女たち 第2回 サオリ ★音何巻は鋭いから、同級生の母親と親しくできない (2/2ページ)
月に25日は働いていたから、最低でも100万円は稼いでいたけど、そのお金は飲んだり、服を買ったりして、全部使っちゃったのよ」
そんな彼女が風俗と縁を切ることができたのも、男がきっかけだった。
「娘が小学校4年生の時に、横浜のバーで1人の男と出会ったの。その人はタクシー運転手をしていた。その頃、私の生活は荒んでいて、飲み屋で知り合った男とすぐホテルに行ったり、ひどいものだった。その人は稼ぎは少なかったけれど、一緒にファミレスに行ったり、サッカーを見に行ったりして、何だか楽しくて。考えてみれば、短大を出てからホストと出会って、それから風俗の客だった男と結婚して、まともな恋愛をしたことがなかったことに気づいたの。新しい彼は、お店のお客さんでもなかったし、素の自分を見せることができたんじゃないかな」
タクシー運転手と付き合いはじめてすぐ、サオリはヘルスを辞めた。その男と一緒に暮らし始めたからだ。
「娘もその人に懐いてくれて、生活費も入れてくれたので生活は安定しました。それで、初めてアルバイトをすることにしたの。学生時代は全部親の仕送りだったので、バイトもしたことがなくて。駅近くにある本屋さんで、時給900円。ヘルスと比べたらやってられない金額だけど、自分の中ではやっとまともな人生を歩んでいるんだなって思えた」
ようやく“普通”を手に入れたサオリだが、娘のために、今後も風俗で働いていたということは隠し続けなければならないと言う。
「娘のことで学校に行く機会も増えたけど、スカートではなくパンツをはくようにしたり、派手な服は控えたり、化粧も地味にして。同級生の母親と顔を合わすようになって、中にはいろいろと探ってくる人もいることが分かったから。そういう人はちょっとした言葉使いとかでも気にするから、あまりくだけた話し方にならないように気を使うの。女の勘は鋭いから、同級生の母親とはあまり親しくならないようにしている」
風俗嬢時代のように、奔放に生きることはできない。世間の目を気にしなければならないことは大きなストレスであり、過去を隠し続けなければならないのは、元風俗嬢の宿命でもある。
そんな生活が2年ほど続いた頃、タクシー運転手だった彼がバスの運転手に合格した。
「タクシー運転手は手取りも少なくて、先はないなと思っていたみたい。生活は前よりも楽になったんだけど、会社の仲間とゴルフに行くようになったりして、私と娘にあんまり時間を割いてくれなくなった。まぁ、不満といえばそこが不満なんだけど、女遊びをするよりは全然マシかな」
今年43歳になるサオリは、いつまでもこの生活が続くことを願っている。金銭的な満足度は風俗嬢時代と比べるべくもないが、精神的な安寧はこれまでの人生では経験することがなかったものだ。
男に翻弄された前半生を乗り越え、平凡な日常に幸せを見出した彼女の末永い幸福を祈りたい。